第二百六十話 グレイテストリーダー D^2
デーツの背に空いた穴とはやはり……
―前回より―
背に穿たれた"穴"は、流体種の細胞により塞がれながらも体内にまで深々と続いていた。しかしその場の者は皆―無論当事者であるデーツただ一人を除いて―彼女の背に穴が空いた事にさえ気付いていない。
「……?デーツ様、どうかなさいましたの?」
最初に主の異変に感付き駆け寄ってきたのは、私設兵団最古参の女・生一花音であった。
「ッ……かの、ン……く、げな……い……は、まだ……こって……」
「デーツ様?デーツ様ッ?何があったんですの?」
「生一さん、どうしたんです?」
「それが……デーツ様の様子が何だかおかしくて」
生一に次いで駆け寄ってきた刻十を皮切りに、デッドやアリサ等残るメンバー全員がデーツを取り囲み、それに誘われた繁達も何事かと彼らに続く。床面に伏せたまま苦しげな様子で言葉もおぼつかないデーツの症状は一見頭痛か何かを思わせ、アリサや香織は少しでも体調が良くなればと思い治癒や回復の力を込めた魔力を注ぎ込む。そんな光景を他大勢が不安げに見守る中、ただ一人ニコラだけはそれが頭痛などではない事を察知。
香織から話題を振られた事もあり、思い切って結論を述べることにした。
「私の経験と知識から来る推測が確かなら、これは頭痛でも発熱でもない……体組織中枢―つまり頭蓋骨への大幅な損傷と、急性の重金属中毒を併発してるわ」
「頭蓋骨……損傷?」
「金属……まさかッ!?」
「おぉ、鋭いね桃李ちゃん……流石毒マニアだよ……」
「言ってる場合かよ先生ッ!デーツ様は……俺らのリーダーはどうなっちまってんだ!?」
「ジランちゃん落ち着いて……それでフォックス先生、デーツ様に一体何が?」
「うん……外皮の震えから察するに、デーツさんを蝕んでる金属は十中八九"鉛"……白衣に空いた穴も含めて考えると、多分後ろから拳銃で撃たれて弾が頭蓋骨まで到達したんだと思う」
「んなッ、銃!?」
「おいおい勘弁してくれよ……下水道に落ちた俺らは兎も角デッド達やあんた等はこの建物ん中ァ駆けずり回って雑魚だろうが漏れなく殺し回――「れて、ないのッ!」
レノーギの発言を遮るように、それまで倒れ込んでいたデーツが決死の思いで声を張り上げた。
「ちょ、デーツさん!?」
「殺し回れては、なかったのッ!どういうわけか……運良く逃げ延びたのが、今更ノコノコ這い出てきてッ!それで、私をゥ゛っ!?」
「ま、マスター!?わ、わわ、解りました!こッ、事の次第は解りましたから、どうか安静にッ!そう叫んじゃ傷に響きます!落ち着いて!落ち着いて下さいって!」
「お前も落ち着けよ……しかし妙だな、この無駄に広ェ更地部屋で撃ち手の気配どころか銃声もねぇたぁ」
「バシロの言う通りだ。諜報員用の拳銃ってのは見て呉れこそ普通だがその実は気配消すのに特化させたもんで有効射程距離が極端に短い。死角から狙撃なぞ到底無理、何かしらの補助つけて無理矢理射程伸ばそうもんなら反動で狙いが狂うはずだ。そもそも撃ち手は何処に――「居たぞ、撃ち手」
突如部屋の奥から現れたのは、着ぐるみを着た警備兵と思しき男の首根っこを右手でしっかり掴んだ繁であった。警備兵の男は逃れようと必至で抵抗しているらしかったが、部分的に破殻化しパワーの増した繁はそれさえも許さなかった。
「し、繁!?あんた今までどこ行ってたのよ!?」
「吸い取ったダリアの記憶を頼りに奴の遺産を確認しに行ってたんだが、帰りにコイツを見付けてな。こうして引っ張ってきたっつーわけだ」
「は、はなせぇっ!なにがうちてだ!?おれはただのけいびへいだぞっ!?」
「っせェ、黙ってろ。変なオーラなんぞ迸らせやがって」
「ぐへっ!」
男の腹を殴りつけ黙らせた繁は、男を椅子代わりにしながら言う。
「ほれ、こいつの持ってた拳銃だ。俺は詳しくねーが、弾のサイズは多分合うだろ」
「確かに弾はこれで間違いねぇし、この銃ならほぼ無音ってぐらいで弾が出るだろうが、問題は―「"問題は有効射程"だろう?」――!?」
突如着ぐるみの中から響き渡った謎の声は、一同―その中でも特に繁―を大いに驚かせた。というのもその声というのは、前々回で死亡したダリアのそれだったのである。
「ッ!?てめえ、樋野かッ!?」
「如何にも……私こそ樋野ダリア。先程貴様に殺された男だ……」
「"殺された"だぁ?殺したと思わせて生きてたとかじゃなくか?」
「そうだ……あの直後に秘術で霊となった私は、この警備兵に憑依し逆襲の足掛かりとしたのだ」
「……デーツ撃ったのもてめえか」
「察しがいいな。猫又の魂には軽い妖術の力もある。それらを使えば弾丸の有効射程を伸ばすなど造作も―「バグテイルさんッ!」
警備兵に憑依したダリアの発言を遮って余所余所しい呼び名で繁を呼んだのは、本編中彼とさして関わりのなかったアリサであった。
「どうしたアリサ・ガンロッド?」
「私は元聖職者で、退魔・除霊の心得があります!その技術があればダリアを倒せるかも!」
「何、そりゃマジか!?」
「ふゥン、半端者の小娘が知ったような口を―がふッ!?」
「よし!やれ!香織は引き続きデーツの治癒だ!」
「了解!」
「わかりました!ではバグテイルさん、私が次に"今です"と叫んだらその警備兵にギリギリ瀕死になるくらいの攻撃をして下さい!」
「任せろ!」
「止めろォォォォ!」
繁が警備兵の上に座り込んだままズムワルトを振り上げた、刹那。
「―――今です!」
「どゥら!」
「グぼゥぇガっ!」
「霊滅!」
「っぎ、はッ、ェぁ、ァアァぁ―――」
繁の槍で心臓と肺を貫かれ瀕死の重傷を負った上にアリサの術を受けたダリアに勝機はなく、悪霊は即座に消滅した。
「――っと、これでもうカタル・ティゾルには出られないでしょう」
「地獄にでも落としたのか?」
「はい。正確には時空・次元の合間にある掃き溜めみたいな場所に行くみたいです。近年の神学等の分野によれば霊とは情報を持ったエネルギーだそうで、その掃き溜めに行くと情報同士の結合を崩されたり、エネルギーそのものを貪られるらしいです」
「つまり奴が復活する可能性は?」
「ほぼ皆無でしょうね」
「根性ある奴でも二千年はかかるというぜ。そもそもそ成功率原則ゼロの運運試しと来た」
「ならこっちはもう大丈夫だな。香織、デーツの容態は?」
「芳しくはないね……今晶さん家に連絡入れて救急隊呼んで貰ってるけど、専門の先生が―「断り、なさいッ」―!?」
苦しげな様子で香織とアリサから治癒魔力を受けるデーツの発した言葉は、一同を絶句させた。
「救急隊なんて呼んでは駄目……今すぐ、断りなさいッ……」
「で、デーツさん、何言ってんの!?あんた正気!?」
「そうですぜデーツ様!いきなり何を仰います!?」
「無礼を承知で問いますが、気でもフれましたか!?貴女にはこれからも末永く生きて貰わねば――「無駄なのよっ!」
そこで再び声を張り上げたデーツは、激しくせき込みながら必死の思いで言葉を紡ぐ。
「無駄……なのよ、治療なんて……自分で、理解できるの……頭蓋骨の三分の二が潰れてて、中身の内臓はッ……最早修復不可能……恐らくッ、そのペースなら……救援隊が着く前にッ、私は……死ぬ……」
「そんな……」
「だ、だからってマスター見殺しになんざできねっスよ!『何時も希望を捨てずに生きろ』つたなァ、他でもねぇマスターでしょうが!」
「デッド……」
「そもそもイスハクル家の家訓のからして『天命覆すはヒトの意志』じゃあないですか!美しい死より醜い生に価値を見出だすのがイスハクルなんじゃないんスか!?マスターの腕なら、自分で自分を」
「デッド君落ち着いて……デーツ様にとってもこれは苦渋の決断であっ―「だからって見殺しにしろってのか!?」
「そんなこと言うもんか。ただ僕は、こういう時こそ冷静な取捨選択が必要だと言ってるんだよ」
「それも、そうか……喧嘩腰ンなって悪かったな、刻十……んじゃ、俺席外すわ」
「え……デッドさん、何もそこまで……」
「止めてくれんな、アリサ……この場に居たら感情的になっちまいそうでな……何かあったら連絡くれや」
足取りのおぼつかない様子のデッドは、そのままゆっくりと何処かへ飛んでいってしまった。
「……んじゃ、俺らも帰っか。この場に外野が居ちゃマズいだろうからな……香織、忍びねぇかもしれんが治癒は中止だ。ひとまず一旦解散、諸々の作業が済み次第出発とする」
「「「「「「「『了解」」」」 しました」』 です」 なのだ」
「行ってしまわれるのですか、ツジラ殿……」
「おぅ、後はそっちで何とかしとけや。それとデーツよ」
「……何?」
次々と官邸内へ散っていく仲間達に続いて立ち上がり歩き出した繁は、ふと思わせぶりに振り返りサシガメ型のフェイスマスクを取り払う。
「――てめえで覚悟が出来てんなら、やれる限りにやり尽くせ。余計かもとか無駄かもとか思うな」
「っ……当たり前、じゃない……言われるまでもないわ……」
「そうか。ならいい」
再びフェイスマスクを被った繁は、無味乾燥な一言だけを遺してその場から立ち去っていった。
「……それで、私が死を選んだ理由だけど……」
「……はい」
「一つは、さっき言ったように……普通の治療が通用しないから……そしてもう一つはあの子の……デッドの為でもあるの……」
「デッドさんの為……ですか?」
「そうよ……確かにあの子が言ったように……屍術で自分自身を起動屍にして生き長らえる事は可能だわ……でも、でもそうしたら、あの子はあの子で無くなってしまうの……」
「彼が彼でなくなる……どういう事です?」
「……屍術という、魔術系統のシステムに関わる事なのだけど……簡単に言えば、起動屍を維持している術者が……自らに屍術を施すと……その維持下にあった起動屍は、自我も強い生命力もない下位互換の存在・"屍術体"になってしまうの……そうなったら最後、修復はできないわ……そんなの、悲しすぎるでしょう……?」
「そうだったんですか……」
自己犠牲に隠されたデーツの愛情を知った刻十は、デッドにEメールでその事を伝えた。"デーツ様が死を選んだのは、誰より君の為だったんだ"と。
それに対するデッドの返信は"そうか"の三字だけだったが、その三字に含まれている悔いや悲しみを察する程度は刻十にとって雑作もない。
「それにね」
一言一句に己の生命力を込めるように、デーツは言葉を紡ぐ。
「これは……ある意味好機でもあるの……」
「好機、ですか?」
「そう……術者が起動屍より先に死ぬとき、またその逆であっても……術者は最後の最後である権利を譲渡されるわ……」
「……権利?」
「……そう……術者はね、起動屍より先に死ぬとき……自分自身の生命を、維持下の起動屍に与えることができるの……術者の命を得た起動屍は、当然純粋な生命体として真の意味で蘇生される……」
「何……だとッ……!?」
「……しかもそうなった者は、起動屍であった頃より更に健康な、強い体を得られるの……だから私は……敢えて、死を――「うああぁぁああああああああッ!マスタぁあああああああああ!」
デーツの言葉を遮るように、突如床面を突き破って学ランを着込んだ赤い巨体―要するにデッド―が滝のように(こう表記した時点で既に粒ですらないが)大粒の涙を流しながら飛び出してきた。席を外すと言った割に、案外近くに潜んでいたのである。
「で、デッド君!?何でここに!?」
「くへぁあああああーッ、ェひぃぃいいいいいっ、ひぐっ……zっ……ごめ゛ん゛な゛ァ゛……俺っ、席外すっつった癖にっ、やっぱ話っ、気になってっ……そんで……バレねえようにアトラスで下の階の天井から床掘って……そんで……話聞いててっ……そしたら、マスターがっ、俺の所為で死ななきゃなんねって知ってっ……zっ……でも゛何どが我慢じでだげどっ……ぞの゛後の゛事ま゛で、考え゛でぐれ゛でだっで知ってっ……でも゛俺、な゛ん゛も゛でぎな゛ぐで……結局俺っ……何時も゛助げら゛れ゛でばっがで、迷惑がげでばっがだっだがら゛ぁ゛っ……ぁあああぁぁぁあ……ぅぅぅ……」
穴から半身を出したまま床面にふさぎ込んでしまったデッドは、その後も身体が干涸らび、喉が潰れそうな勢いで泣きじゃくる。
「そもそもマスターだけじゃねえ、皆にも迷惑かけっぱなしだったろ俺ェ……刻十から借りたゲームソフトうっかり中古屋に売っちまうわ、生一さんの脱皮手伝う時調子こいて変なトコ触るわ、スキンシップっつってアリサのケツ揉むわ、クソ暑い中ジランに発電機まがいの事させるわ、聖がワサビ駄目なの忘れて寿司屋でサビ抜き頼むの忘れるわ、空気読まずにアトラスぶん回してレノーギに怪我さすわ、無礼講とは言え宴会でデトラに無茶降りかますわ、入ってきたばっかのシャラに無理な筋トレさすわ……マジどうしようもねぇよ俺……」
「デッドさん……まだそれ気にしてたんですか……」
「考古学者じゃねぇんだからンな大昔の事なぞ蒸し返さんで下せぇや」
「そうだよ。それ言ったら僕らだって君には色々負担かけたし」
「思い悩むまでもありませんわ」
「過去を悔いてばかりというのは、貴方らしくないですし」
「オアイコって奴だろ、そんなもん。なぁ?」
「そうよね。あれはあれで結果的に楽しかったし」
「無茶しすぎた僕の所為でもありますから、元気出して下さい」
「お前ら……マジ……すまんかった……あと……ありがとう……」
「……顔をお上げなさい、デッド……今際の際だもの、せめて飛竜のように堂々とした貴方をよく拝ませて……」
「はい……」
「嗚呼……貴方は相変わらずね……やはり私の目に狂いは無かった……」
「そりゃそうですよ……何たって俺のマスターですもん……」
「そう……かしらね……ッッ!」
刹那、デーツの身体が大きく痙攣する。慌てて全員が詰め寄るが、デーツは小声で大丈夫だと言ってゆっくり起き上がり、それぞれに向き直り言葉を紡ぐ。
「……花音、私達の長い付き合いも最早これまでのようね……」
「はい、デーツ様……私は魔術師として、女として、貴女様に仕えられたことを何より誇りに思いますわ……」
「嬉しい事を言ってくれるじゃない……私としても、貴女は理想的な部下だったわ……でも今度は、貴女がこの子達を率いる番よ……覚悟を決めて、しっかり頑張りなさい……」
「はい……心得ております……」
「……刻十、貴方には色々な仕事を任せてしまったわね……今思うと申し訳ないわ……」
「そんなことはありませんよ……貴女様に拾って頂けなければ、僕は今頃何も成せないまま死んでいたでしょう……貴女様が居たからこそ、今の僕があるんです……」
「そう言われると……主君冥利に尽きるわ……ありがとう……」
「それは此方の台詞です……有り難う御座いました……」
「……アリサ、ジラン……まさしく兵団の"癒し"であり"電力"だった貴方達は、私の誇りよ……」
「癒しだなんてそんな……勿体ない御言葉です……」
「俺もッスよッ……そんな、電力なんて小綺麗なもんじゃねぇッス……」
「謙遜しないで……貴方達はちょっと自信家なくらいが丁度なんだから……」
「「はい、デーツ様……」」
「……聖、貴女にも苦労をかけたわね……只でさえ散々な人生だったでしょうに……」
「……何を仰有るかと思えば、そんなことですか……あの程度、私にとっては朝飯前でした……もっと使って頂いても構わなんだのですよ?」
「御免なさいね……でも、この世で最も信じるべき筈のヒトに殺されかけた貴女を思うと、どうしても……」
「仰有っている意味が、よく判りませんな……この風戸聖、この世で最も信ずべきは貴女様と心得ております故……」
「……レノーギ、デトラ……周囲の所為でお互い以外に心を開けず、不毛な怒りや殺意に囚われていた貴方達は手の掛かる子達だったけど……だからこそ大切な教え子よ……」
「……勿体なき御言葉、感謝致しますわ……」
「……本当ですよ……俺ら二人、事ある毎に暴れ回ってばっかで……」
「いいのよ……言ったでしょう?教育者にとっては、真面目な子も手の掛かる子も同じくらい可愛いの……謝るくらいなら、しっかり生きてみせなさい……」
「はい……」
「わかりました……"先生"ッ」
「……シャラ、貴方とはもっと一緒に居てあげられれば良かったのだけど……こんな形でのお別れになってしまうなんて……」
「……ひッ、ぐッ……ぅっ……僕も゛でずっ……も゛っど……デーヅざま゛がら゛……色々教わ゛り゛だがっだでず……でも゛、辛い゛のは皆一緒だがら゛……」
「……嗚呼、強くなったわね……シャラ……」
「デーヅざま゛っ……デーヅざま゛ぁ……ぅっぁあぁぅぅ……駄目だぁ゛……ごめ゛ん゛な゛ざい゛……皆よ゛り゛先に゛泣がな゛い゛っで決め゛でだの゛に゛……」
「そして……デッド……私の可愛い腹心……」
「……はい、至高の我が主…………」
「真の名を捨て、己の身を擲ってまで私への忠誠心を示してくれた貴方は、きっとイスハクルが世界に誇る男となるでしょう……でももし、貴方がそれで満足できないようなら……その時は……」
「はい……」
「……思うままに生き、そして捜し求めなさい……貴方だけの……"道"を……」
「はい、分かりました。マスターのお言葉通りに……」
「……生きて……兵庫……一……正……」
聞き取れるかどうかさえ怪しい程のか細い声で、かつて自分の腹心が忠義の為に捨てた名を口にしたデーツは、安らかな笑顔で眠るように息を引き取った。
彼女の命が果てるのと同時に、デッドの体内に形容し難い温かな力が満ち溢れる。それが主の残した最後の愛なのだと悟った部下は、竜の声帯を震わせて、腹の底から大声で泣いた。
―その後―
クレール・サイカ・ヴィドックの婚儀が執り行われたのは、デーツ・イスハクルの葬儀の翌週であった。また、デーツ死亡の報告を受けた両家の堅物達は深く悲しみ、以後考えを改めんと心に誓ったという。
術の根源が絶たれた事により、国民にかけられたダリアの洗脳は悉く解除されていった。同時にその時代を象徴する国中の飾りは周辺国政府やシームルグ財閥のバックアップを受けたイスハクル家とヴィドック家によって漏れなく撤去され、真宝は元の姿を取り戻しつつあった。
しかしそれでも、生き残った国民の気分は晴れなかった。幾ら姿が元に戻って行こうとも、彼らにとってこの土地は最早真宝とは呼べなくなっていたのである。そこで国民達は、この土地に真宝でない新しい国を興せばいいと思い立ち、活動を開始する。
その後紆余曲折を経てイスハクル家の固有領土となったその大地は、偉大なる指導者デーツを称えて『麗紅』と名付けられ、イスハクル家の面々が中心となって統治することとなった。
デーツの部下達はその大地で私設兵団としての活動を続けながら、亡き彼女の夢を継ぐ形で飲食店を経営していた。
しかしその場に、デッドの姿はない。というのもどうやら、飲食店の仕事は彼に向いていなかったらしく、それを仲間達に見抜かれた彼はレイズからの奨めで兵団を抜け、諸国を巡る気ままな旅人になったのである。
リストラ或いは厄介払いと捉えられそうな扱いだが本人及び周囲にそんなつもりは一切なく、それぞれは今の自分自身に満足しているという。
かくして長々と続き130話にも及んだヤムタ編は、こんな形で完結した。
次回、エレモス編スタート!
謎の大陸で繁達がまさかの動きを見せる!?