第二百五十九話 どうしてもキリの良い所で終わらせたい作者は渋々次の話の字数に糸目を付けないと決意しました
戦闘終了!お疲れ様でした!
―前回より―
五つのブランク・ディメンションに入っていた者達が会議室へと戻って来たのは、ほぼ同じタイミングでの出来事だった。一同に会した十九名は適当にアナウンスを入れて生放送を終了し、それぞれの戦いについてその場へ座り込んであれこれ思い思いに語らい盛り上がった。
「いや然し、あのド変態サンデスモドキ野郎の腐れザーメン浴びた時ぁ頭ン中グッチャグチャだわ身体動かねーわベタつくわ臭ェわで気分悪ィもんでこりゃもう駄目だなと怪人産むかどうかの境目レベルで絶望したもんで……」
「気転利かせて助けてくれたリューラには心からお礼を言いたいのだ。あそこでああしてくれてなかったら今頃僕ら生きてないし」
「いやぁ、それほどの事でもねぇよ。二人を奴の洗脳から守れなかったのは私の過失だし、まして武器を奪われるなんてどうかしてた。気転云々は後付の話だしよ、二人のがよっぽど頑張ってたさ」
「にしてもシャラ、おめースゲーじゃねえか。只でさえ扱いが面倒だって有名なブランク・ディメンションを一気に五つも出しちまうなんざ、魔術さえ使えねーような俺らにとっちゃ神域って奴だぜ」
「その上それを維持したまま私達と一緒に魔術で戦ってしまうんだものね、神っていうか大魔王だわ」
「えへへ、有り難う御座います。でもあれ、香織さんが膨大な魔力を分けてくれたおかげなんですよ。ブランク・ディメンションって兎に角規模が大きい魔術だけに消費もバカにならなくて、幾ら魔力をコンパクトな形でストックしておける列王の輪でも大損だと思うんです。それでも香織さん、僕が苦しくないようにって普通に戦う為の魔力まで分けてくれましたし」
「そうだったの……まぁ私も何だかんだ繁には助けられたし、今度は私達が恩を返す番かしらね。実家にも言って伝えないと」
「実家と言えばデーツ様、二分ほど前にレイズ様より我々全員の携帯電話にEメールが届いておりますわ」
「お兄様からメール?……あら本当、気付かなかったわ」
レイズ・イスハクル。イスハクル家の現当主にしてデーツの実兄であり、遊び心から各地で保護した人間達を集めて私設兵団を創設した張本人である。
「っと、何々……って、これ空メール(カラメ)なんスけど」
「私もですー。態々"このメールに本文はありません"って表示が……」
「親方が空メたぁ……新手の遊び心ですかねェ」
「いや、それ多分機種の関係でタイトルの表示が小さいだけなんじゃないかな……」
刻十にそう指摘されEメールのタイトルを拡大したデッドとアリサは思わず噴き出しそうになった。
と言うのもこのレイズからのEメール、確かに本文には一字どころか空白や改行の一つも打ち込まれてはいないのだがそれもその筈で、本来本文覧に打ち込まれるべきであろう文字列の全てがタイトル覧に打ち込まれていたのだ。
要するにレイズはそのメッセージを伝えたい余り焦ったのか誤ってタイトル覧に入力してしまい、それに気付かず(或いは気付いたものの修正を放棄して)送信ボタンを押してしまったのである。
とはいえメールそのものの内容(として、タイトル覧に記入された文字列)はデーツ一味を歓喜させるに十分なものであった。
サイカとシームルグ財閥御曹司の縁談が破談に。ネフティ・シームルグ氏の一声により。
タイトル覧の字数制限に引っかかった事で生じた不自然な途切れを省いたためか、文中に記されていたのはそんな43字の短文であったが、デーツ達にとってはそれだけで充分でさえあった。
「もしもし」
『お、デーツか。いやぁすまんな、あんなメールを送ってしまって。慌てていたものでつい』
「いえ、その点についてはご心配なく。それよりサイカの縁談が破談になったとの事ですが……」
『ン、そうなんだよ。丁度先程の放送が実家にも届いていてね、最初は堅物の有象無象が「名家の娘が部下諸共犯罪集団に与するなど言語道断」「絶縁妥当」などと囀っていたんだが、そこにネフティ氏による鶴の一声―否、この場合は氏の種族に因み"鬼の一声"とでも言おうか。兎も角それで五月蠅かった連中も黙り込んでね、その後の話術も見事だったなぁ』
「ともあれサイカもリゼル君も望む相手と結婚できるようになったのですね?」
『うむ、その辺りは心配に及ばない。君の報告書が役に立ったよ。ツジラ一味の超人集団っぷりと、彼らと結託できる可能性を少しばかりチラつかせただけで、騒がしかった奴らを一瞬で黙らせられたんだからね。いや全く、持つべきは家族だと痛感したよ』
「お褒めに預かり光栄ですわ。それでこそ彼らに協力した甲斐があるというものですわ。報告事項もまだまだありますから報告書の編集もしないといけませんし、まだまだ気を抜いてはいられませんけど」
『まぁその辺りは一仕事済んだのだしゆっくり進めてくれればいいさ。それと、サイカと坂原君の結婚式の日程を合わせたいんだが、帰りはいつ頃だい?』
「報告書を纏めたら、あとは十日町家やポクナシリに挨拶回りをするだけですから、遅くても四日後には帰れそうで―――」
刹那、デーツの動きが―まるで不具合の生じた製本機のように―ピタリと止まったかと思うと、白衣を羽織った彼女の柔軟な赤い身体が床面に倒れ込む。力を失った手からは携帯電話が転げ落ち、電話口のレイズは突然の出来事に困惑する。
そしてその背中には、身体と同じ色の小さな丸い"点"―否、点ではなく穿たれた"穴"―が、ぽつりと一つだけ存在していた。
残念だったなぁ、まだ終わっちゃいねぇんだよ。