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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
256/450

第二百五十六話 トライバスタード-2564階





はっきり言おう、この回が常軌を逸して手抜きなのは私の責任だ。だが私は謝らない。

―第二百五十話より―


 十名全員で一つのデブランク・ディメンションへ入ったデーツ一味と五智・九部・今野という議会メンバー三名との戦いは、何とも奇妙な形で進んでいた。


「はいッ、そういう訳で第一試合終了となりました~。解説のイスハクルさん、如何でしたか?」

「そうですねぇ、やはり見所は何と言っても決め手となった風戸選手の一撃でしょう」

「あぁ~やっぱそれ推しますかぁ、流石イスハクルさんッ!見る目が確かだぜェ!」


 何らかの"虫"に深く関わる者の性質を投影し独自の空間を造り上げる、ブランク・ディメンションの有する"貌"が一つ・一万と二千の蜘蛛を宿す創聖樹海魔境―――の機能によって作られた円形闘技場の一角に設けられた放送席らしきスペースでスポーツ中継のようなやりとりをしているのは、一丁前にスーツを着込みインカムを身に付けたアリサにジラン、そしてデーツであった。

 一方の円形闘技場では刻十・生一・聖の三名が蜘蛛だらけの観客席に爽やかな笑顔を振りまいており、聖が踏み付けているのは最早原型を止めていないレベルにまで破壊された何らかの機械―もとい、ダリアの後輩である機械姦マニアこと、五智間代ごちましろの残骸であった。

 更に放送席の反対側では蜘蛛の糸で何重にも縛られた九部と今野が貌を顰めており、その様子はまるで公開処刑の会場に繋がれた死刑囚のようであった。しかしそれもその筈、今現在この場で行われている"戦い"は実質"公開処刑"とそう変わりないものである。『円形闘技場にて真宝首脳一名とデーツ一味のメンバー複数を戦わせる』というシンプルなルールは古代ローマで行われた見世物闘技を思わせ、観客席に座った蜘蛛達の環視に晒されながら無理矢理に不利な殺し合いを強いられる五智達の姿はまさしく剣奴グラディエーターそのものにさえ見えた。


◆◆◆◆


「何て恐ろしい……大型竜種と互角とも言われる五智が、ああもあっさりと……」

「全くだ。奴の得た"肉人"の力は『脳が無事なら実質不死』という極めて強力なもの……それを利用し機械の身体に己の脳を収めた五智に死角は無かった筈。それを事も有ろうに単純な腕力のみで打ち破るとは……」

「嗚呼、次は私達って考えると余計勝てる気がしなくなってくるわね……」

「いや、そうでもないぞ……確かに五智は負けたが、奴の敗北は我々の勝利への足掛かりになる。力押しに負けたのなら、より効率的に守備を固める事ができれば勝利することなど容易いはずだ」

「そう……かしらね」

「ああそうだとも。次はどうやら俺の番らしいしな、ここで一気に負けを取り戻してやる!」


◆◆◆


 五智対聖・生一・刻十の戦いの次に執り行われた九部対レノーギ・デトラ・シャラの戦いは、つい五行か六行前の台詞が嘘のように九部の劣勢で進んでいた。元々己の筋肉を幻妖の術で吸収した魂により強化し肉弾戦で戦う(それゆえに表向きではレスリング部期待の星であり、少女を相手取った行為も格闘技の要素を取り入れたレイプまがいのストレートなものを好む)九部にとって、遠距離や多彩な魔術を軸に戦うレノーギ達との相性は根底からすこぶる悪い。

 それでも何とかしぶとく生き残り続けた九部だったが、遂にデトラの砲撃で頭部を丸々吹っ飛ばされ、絶命判定が下ることとなる。観客席の蜘蛛共は一方的なワンサイドゲームに若干不満な様子であったが、しかしだからこそ最終第三試合に対する期待は高まっていた―――が、その後試合は思わぬ展開を見せることとなる。


◇◇◇


「こッ、これはなんということでしょうか!信じ難い光景です!」

「かッ、解説のイスハクルさんッ!こんなことって有り得るんですかね!?」

「あらぁ……今年で四十三になるけど、こんなの初めて見ましたわ~」


 放送席で騒ぐアリサの言う"信じ難い光景"とは即ち、首を吹き飛ばされた九部が生きていたことに他ならない。


「おいおい、何で頭吹っ飛んだ奴が生きてんだよ……」

「っていうか、何あれ……ガチムチの身体に顔があってキモいんだけど……」

「……本当、冗談抜きに気持ち悪い姿だなぁ……」


 砲撃で首を吹き飛ばされるというと一般的には避けるべき致命傷であるが、しかしこの九部という男にとってはそれこそがこの戦いでの狙いでもあった。


「ふん……甘かったなぁ、貴様ら。俺は幻妖の術で刑天けいてんの魂を吸収した身……その真の力は、こうして頭部を失ってこそ発揮される」

「何?」

「わからんか?この力が発動している限り俺の体内にはテニスボールほどのコアが誕生し、それが無事な限りどんな傷でも再生できるようになる。更にこの中枢はこのように体内を自由自在に動かすこともできてなぁ……ほれ、このように体の外へ出すこともできる。どうだ?如何に精密で威力に秀でた射撃を軸とするお前とはいえ、この俺を倒すことなどできようはずが――ぐべぁっ!?」


 長々と話し込む九部の鳩尾(顔面でいう鼻先)の辺りを貫通する、一発の砲弾。

 レノーギのカノン・ザ・ラティマーより放たれた何の変哲も無い一発は、しかしその確かな火力でさらけ出されたコアを粉砕し、今度こそ九部を完全に絶命させた。


 かくして五智と九部の敗北は一人残された今野を奮起させた――が、幾ら妖怪の中でも上位とされる鴉天狗の魂を効率的に吸収しその力を我が物とした彼の力が強力であろうとも、最終第三試合の相手がデッドただ一人である時点で勝敗は目に見えていた。鴉天狗の小細工もアトラスを使いこなすデッドの絶対的な火力の前には単なる悪あがきでしかなく、"試合"は僅か四分足らずで決着した。


 勿論、今野の惨敗ミンチという結果で。

次回、今回が手抜きだっただけに次回はより濃厚なエピソードにしたい。

そして次回と次々回くらいで、長引いてもあと四話くらいでシーズン5は完結させるつもりです。

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