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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第二百五十一話 リオ The Red Bone





決着――は、したけどオチ微妙……

―前回より・真っ白な異空間―


「そ、の声……まさか、璃桜?」

「御名答。誇りを捨て自ら毒されて尚その記憶は衰えていないといった所でしょうか」

「まさか、そんな……璃桜、なの……?」

「如何にも。私こそ建逆璃桜。貴女様に仕えていた侍従に御座いますれば」


 気絶した隙に真っ白な空間―もとい、香織の指示を受けたシャラにより複数用意されたブランク・ディメンションの中へ引きずり込まれた恋双は、嘗て逆恨み同然の(しかし本人にとっては至極真っ当な)感情によって破滅させた筈の女が目の前で平然と言葉を紡いでいる事に驚きを隠せないでいた。


「(そんな、馬鹿な……あいつは確かに"始祖の心臓"を埋め込まれて不完全な夜魔幻になった筈なのに……心臓を埋め込まれた以上そんな流暢に喋れるわけないし、あの闘技場を出ればあんたは遅かれ早かれ死ぬ筈なのに……何で……何であんたはそうピンピンしてらんのよっ!?)」

 恋双は考えた。考えに考えた。必至で考え、記憶を整理していった。始祖の心臓―古代ヤムタの絶滅種・夜魔幻の始祖たる個体の神秘が凝縮された心臓は生物の血液を夜魔幻のそれに変化させ、やがては宿主を完全な夜魔幻へと変異させてしまう。その後の末路は語るに及ばずで、血を吸わずに居続けようものならば発狂し自我を喪失するか餓死する筈である。なのにこの女は生きている。これはどういう事なのか?

 熟考に熟考を重ねた恋双は、捩切れるほどに頭を捻った結果ある結論に辿り着く。


「あんた、もしかして……幽霊?」

「いきなり何を言い出すのですか、貴方は」

「いや、だって、あんた、夜魔幻になって、ヒトの血吸わないと狂っちゃって、そんな落ち着いてられる筈――「だからって勝手に殺さないでくれますか。この通り生きていますよ」――そ、そう……」

「闘技場が壊されたあの日、必至の思いで逃げ出した所を親切な観光客に拾われましてね。その後紆余曲折を経て夜魔幻としての自分を支配するに至ったのですよ」

「は……はは……そう、そうだったの……それは良かったわねぇ……」

「フフッ、えぇ、本当に運のいいオンナですよ私は。貴方に苦しめられた三年間は、砂粒ほどの希望もなく、内臓を吐き出しきって尚失せることのないような不快感に満ち溢れた最悪の日々でしたがね、もう戻りはしない。戻ってなるものか……」

「(いきなり何言ってんのこいつ。闘技場の瓦礫に頭ぶつけでもしたのかしら)」

「クズの金蔓だった私がヒトになれたのなら、それらしく思うまま生きるがヒトの常。ならば行くべき旅路を力の限り歩ききれねば損というもの。そこで、我が記念すべき旅路を少しでも整えたく思いましてね。忌まわしい過去とは早急に決別せねばならんのですよ」

「……で、それとあたしの前に現れたことになんの関係があるわけ?」

「何の関係があるか……ですか。貴女らしくない愚問ですね、真恋双。ご両親が健在であった頃ならば、この国がまともであった頃ならば、そんな質問するまでもなく察しが付いたでしょうに」

「何っ?」

「……やはり貴女は、この国共々毒され墜ちてしまわれた。実に嘆かわしいことだ、真恋双。嘗て"紫水晶の女王百合"とも呼ばれたほどの貴様がこうも落ちぶれてしまうとは」

 字面だけ見ると如何にも相手を挑発するような口ぶりだが、当人は至って真面目に言っており挑発するような意図はまるでない事をここに付記しておく。

「な、何よ!?何が言いたいの!?」

「……まだ気付かんか、真恋双。私はな、貴様と決着ケリを付けに来たんだよ」

「け、ケリ?」

「そうだ。四歳と三歳で出会って以来、二十年余り続いた我々の関係に、今日ここで決着をつける」

「まさか私をやろうっての?」

「いや、その前に問答だ。殺すのは答えを聞いてからでも遅くはない」

「問答ねぇ……いいわ、答えてやろうじゃない」

「よし……ならば最初の問いだ。お前は自分のしてきた行い全てが正しいと思うか?」

「当たり前じゃない。答えはYESよ。私の行いは全て正しい」

「ふん……では第二の問いだ。何故白聖剣を殺した?」

「何故って、決まってるじゃない。私の告白を受け入れなかったからよ。女の恋心をああもあっさりと踏みにじる奴なんて、死んで当然だわ」

「そうか……続いて第三の問いだ。何故真宝をあんな姿にした?」

「ダリアに提案されたからよ。彼のセンスはこの上なく素晴らしかったわ」

「……第四の問いだ。貴様の親や親戚を皆殺しにしたのは何故だ?」

「みんな私を認めようとしなかったから。自分の立場を維持したいからって、何時も何時も難癖や言い掛かりで私の邪魔ばかりしてたし、邪魔だったのよ」

「第五、貴様は嘗ての真宝を嫌い憎むか?」

「YES、当然でしょう。あんな何もかも古臭くてダサい国、こうやって作り替えられないなら滅ぼされた国のためにもなるわ!」

「……解った。問答を終了する」

 静かにそう告げた璃桜は、腰より『再起の産廃刀』を抜いてその切っ先を恋双の顔面に向けた。

「畜生の分際で随分と威勢がいいのね。でも威勢がいいだけで勝ち抜けるほど、世の中甘くはできてないもんなのよッ!」

 すかさず恋双は素早く自身のPSを展開し身構える。

「さぁ、どうするのかしらねぇ?もう知ってるだろうけど、私のPSは防御システムが不完全な代わりに飛行速度と高度に関しては現在でも充分通用するレベルなのよ。そんな私が本気を出せば翼のないあんたの攻撃くらい何ともぶふぎゃっ!?」


 恋双の自慢話を遮るように、彼女の顔面に謎の爆発が巻き起こる。爆発の衝撃は空中に浮いていた恋双を吹き飛ばし、使われていないが故に不調を来していたPSそのものを一瞬で機能停止に追い込んだ。


「……っぐ、な、何よ……何なのよっ!?何が起こったって――ッ!?」


 産まれてこの方一度も命を賭けて本気で戦ったことのない恋双は突然の攻撃に戸惑い大声で相手に文句を言おうとするが、その口は突如何処からか伸びてきた赤い腕によってふさがれてしまった。


「ッッッ~!?ンンッッン~ッ!?」

「……『翼のないあんたの攻撃くらい何とも』……何だ?」

 何処からか伸びてきた赤い腕の主こと、能動的に夜魔幻化した璃桜は自らの右手で恋双の顔面を掴みながら、脅すような声で問いかける。

「ンっ、んッっ!ンッンッ~ッ!?」

 口を塞がれた恋双は当然言葉も発せられないまま、しかし何とかその腕から逃れようと必至で暴れ回り抵抗する――が、その抵抗も夜魔幻の血によって大幅に強化された竜属種の腕力には到底敵わない。

「……『威勢がいいだけで勝ち抜けるほど世の中甘くは出来ていない』……か。確かにそうだな、真恋双。今の貴様こそ、まさにそうだ……」

 顔面を握り締める力を強めながら淡々とそう言う璃桜が空いた左手で目の前を払うと、それを合図にしたように恋双の周囲から無数の赤い骨の腕が現れ、恋双の華奢な身体を乱暴にひっ掴む。そして――


「ゴミになってしまえよ、貴様」


 ――璃桜らしからぬ生気の感じられない一言が紡がれるのと同時に、無数の赤い骨の腕が掴んだものを握り潰し、引き裂き、叩きのめし、投げ捨て――そうして一人の"ヒト"であったものは、やがて単なる"骨肉と布のミンチ"へと成り果てた。


「……フッ」


 溜息を吐くと同時に元の青い竜属種へと戻った璃桜は、疲れ果てたような表情で白い底面に座り込む。


「やはり、いかんなぁ……夜魔幻化したまま喋ろうとすると、血の力に影響されて口調がぶれてしまう。戦う分には何ら影響はないが、服や肉が透明化するのと同じく能力に順応しきれていないようでどうも引っかかる……」


 再び静かに溜息を吐いた璃桜は、結局一度も使うことのなかったブランク・ディメンションの白い底面に寝転がり、そのまま一眠りすることにした。

・『再起の産廃刀』の固有効果について

再起の産廃刀の固有効果はある意味流星刀フドウに似たものである。この廃材で形作られたような刀にある程度のダメージが及ぶと刀そのものがバラバラになり、同時に対象として指定した一箇所を爆破することができる。

バラバラになった刀は持ち主の意志で自由に再構築が可能。また、持ち主の意志で刀を自壊させる事により能動的に爆破効果を使うこともできる。


・璃桜の夜魔幻化について

体内を通う夜魔幻の力を解放する事により大幅なパワーアップが可能。

この時彼女の身に付けていた衣類や骨以外の体組織が目視不可能なほどに透明化し、全ての骨は赤く染まる。

更に『背中から本来備わっていないはずの翼が生える』『骨格の形状が大きく代わる』『口調がぶれる』など数々の点で変化が起こるようになる。

行使できる異能は多岐に渡るが璃桜は未だ未熟なため範囲が限定されており、今まで喰い殺した命を眷属として使役できるだけに限られる(眷属の形態も未熟さ故か未だ単なる赤い腕の骨で統一)。

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