第二百五十話 突破。
おっしゃあああああああああ!議会戦来たぁぁぁぁぁぁ!
―前回より・機内―
「SFもんに出てくる戦闘兵器みてぇな外見の割に内部は乗物の中ですらねーような高機能ぶりだな」
《そりゃそーよ、あたしのヘルクルは燃費の問題さえ解決できれば最強なんだもん!》
列王の輪が有する形態の一つにして真鍮側の『パッツィーア』である『ソレンネ・パッツィーア』はSFチックな大型兵器の形態をとる。その大きさ・質量は列王の輪が有する形態の中でも最大であり、消費エネルギーさえ補充できればこれ以上にない大軍兵器として運用できるようになる。
そんなソレンネ・パッツィーアの担当精霊はヘルクルという巨獣である。どの精霊よりも大柄な彼の容姿は、黒に近い茶褐色の分厚い毛皮に覆われた大型肉食恐竜を軸にワニの頭、熊の腕、水牛の角、猪の牙を持ち、両肩からは赤紫色に光沢を放つ蟹のような節足が生え、首筋から尾にかけて巨大な条鰭(一般的な硬骨魚の鰭)の背鰭が生えて……と、一言で"合成獣"と言い表せば早いが、詳細を述べるとここまで長ったらしくなってしまう程にゴチャゴチャしていて異様なものである。
そんな異様さを醸し出すヘルクルは―というより"パッツィーア"の形態を担当する二体の精霊は、他と違って明確な言語能力を持たない(理解するだけの知能はある)。故に持ち主との意志疎通を円滑化するための通訳として、基本光球型で決まった姿を持たない『副精霊』が存在する。
先程繁に自慢話をしていたマイタもまたそんな副精霊の一体である。声の通りに幼い(本人曰く、小学校高学年~中学生程度の)少女のような人格を有する彼女は、カドムの命によりヘルクルの言葉の通訳やその他諸々の補佐などを担当する。明るく活発で気丈な性格の為か精霊間での人望も厚く、張り合う事の多い精霊達の中を取り持つムードメイカーでもある。
特に凶暴そうな外見に反して少年のように純朴であるが故必要以上に熱くなりがちなヘルクルにとっては姉のような存在で、この二体はほぼ常時行動を共にしていると言ってよい。
「んで、奴らの居場所は割れてんのか?」
「最初の方で奴らが逃げ出さないように魔術で建物全体を封鎖してあるから、よっぽどの事でもない限りはこの先の部屋に居ると思う」
「ほうほう、つまり奴らを閉じこめた中へ突っ込んで一気に叩き潰す訳だな?」
「んー、ほぼ正解だけどちょっと違うかなぁ。突っ込んで叩き潰すのはそうなんだけど、それにしたって皆が本気出すには屋内なんて狭いじゃない?」
「それもそうか……まぁ俺とかが本気出しちまったら死人出るしなぁ」
「まぁデッドさんだけが問題って訳でもないけど、そういう訳だから今回はちょっと変わった方法で戦おうかと思ってるのよね」
「変わった方法?」
「そう。とは言っても貴方達の真似事って言えばそれまでな方法だけどね」
―同時刻・会議室―
「クソ……よもやこんな所に閉じこめられてしまうとは……」
「不覚……我々としたことが、何というミスを……」
[斯様な惨状、最早言葉も出ん……]
「お前ら、ネガティブになるな。解呪に尽力している上地と今野を信じろ」
「そうよ。そうやってふさぎ込んでると何れ奴らに付け込まれるじゃないの」
会議室に閉じこめられたばかりか敵の侵入をも許してしまった議会の面々は、澱んだ空気の中で暗い気分から抜け出せないで居た。
「そうは仰有いますがお二方、我々のように誰かの下でしか力を発揮できないような者にとって"望みのない状況下で自身が無力なまま状況が好転しない"事はかなりの苦痛なのですよ」
「そうだとしても上地や今野を応援するくらいはできるでしょうが。っていうか今野に上地、進行具合はどうなの?」
「残念ながら一向に解ける気配がありませんわッ」
「こんなにややこしい配列は初めて見たェ……多分かけた奴は相当性格悪いェ」
「っていうか、頭おかしい変態よね……はぁ、何か最近いいことないような気がしてならないんだけど、疫病神にでも憑かれてるのかしらね」
「縁起でも無いこと言うなって言いたくなるが、否定できんのが何とも言えぬェ……」
ローレシア海溝の底を掘り進むレベルで沈みゆく気分の二人は、それでも尚手を休めずに施錠魔術の解除作業を続行しようとする――が、次の瞬間。
「さて、作業を続けるェ。これさえ済めば少しバゲガァッ!?」
「そうね、ここさえ終われば何とかなるかもしレベブゥッ!?」
巨大な質量を持った物体により、脆くも突き破られる会議室の扉。その衝撃はこの上なく強烈で、咄嗟に退こうとした上地と今野を吹き飛ばすばかりか、飛散した破片は奥にいた他の議会員達を一撃で失神させてしまった。
そして意識を失った議会員達の姿は、瞬時に跡形もなく消え失せてしまった。
同時に扉を突き破って会議室に乱入した巨獣型ロボットも搭乗者ごと何処かへ消え去り、遂に首相官邸内には敗者の死体と建物の残骸が残るだけとなった。
―果て―
「……ん、ンん……」
意識を失った恋双が目覚めたのは、例の如くただただ真っ白な異空間であった。
「着替えてご飯……ってそうじゃない、確か会議室で待ってたらいきなり何かがドアを突き破って、それから気絶して……ってかここどこ!?」
恋双は慌てて辺りを見渡し、当然絶句する。
「お目覚めですか」
混乱して言葉も出ない彼女の背後から響き渡る、若い女と思しき声。
よく聞き覚えのあるその声を聞いた恋双は、震えるような声で恐る恐る問いかける。
「そ、の声……まさか、璃桜?」
「御名答。誇りを捨て自ら毒されて尚その記憶は衰えていないといった所でしょうか」
「まさか、そんな……璃桜、なの……?」
「如何にも。私こそ建逆璃桜。貴女様に仕えていた侍従に御座いますれば」
次回、二人の因縁に決着!




