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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン2-ラビーレマ編-
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第二十五話 マチでヒリュウが燃え尽きる頃





おとこ運無さ故に繁殖(けっこん)出来ないワイバーンの足下が、大炎上!

―前回より―


 雄運無さ故の苛立ちが原因で街を襲ってしまったワイバーンの足下で上がった炎は、瞬く間に彼女を取り囲んだ。

『ヴァオォォォォォン!ゴアォオォォォン!』

 緑色の炎に脚を焼かれ、腹を炙られたワイバーンは飛び立とうと躍起になるが、一度着地の為地面に下ろした両足と両翼は接着剤のようなもので地面に固定され、動かすことが出来ない。

 更にはシッキタシアス科特有の熱や水分を逃がさない鱗の性質が災いし、その巨体は極端に熱せられていく。

 繁と香織はこれを受けて


『グァォアアァァァッ!』


 ワイバーンは尚も地面に貼り付いて動けないまま炙られていく。

 そしてその熱は脳を余裕で煮えたぎらせ、熱中症に近い症状に陥ったワイバーンはうめき声も上げずに絶命した。

 逃げ惑っていた人々は最初、自分達の眼前で何が起こったのか理解できず戸惑っていたものの、次第に状況を理解。訳も判らず盛大に歓喜した。

 緑色をした炎は自然に消え去り、石畳の幅広い道に残されたのは無傷なまま熱を持って死に絶えたワイバーンの亡骸のみという有様であった。

「凄いな、まさか古式特級魔術か?」


「いや……寧ろ科学的な手法によるものじゃないかな。只でさえ少ない古式特級魔術の使い手が、よりにもよってラビーレマに居るとは思えない。多分遠隔から飛び道具で炎や接着剤を仕込んだんだと思う」

「あの緑色の炎は?」

「炎色反応だな」

「炎色反応?結晶乗っけた針金の先端をバーナーで焼いたらそこだけ色が変わるっていうアレ?」

「花火の色づけとかにも使うよね」

「そう。基本原理はそれだが、燃料に色々な化学物質を混ぜて焼く方法だと炎全体に色が付く。極一部でも色々な色があってな?炎の色が緑だった所を見ると、燃料に混ざってたのはバリウムかホウ素、それか銅だろうな」

「断定出来るものなの?」

「そりゃお前、色彩パターンなんぞ成分構成や温度の違いで千差万別だ。これならこの色、なんて断定出来る物質なんぞありゃしねぇ。あとよ、ニコラ」

「何?」

「お前言ってたよな?『ヴァーミンの有資格者同士は互いを認知しあい、偶発的に出会いもする』ってよ」

「言ったねぇ」

「何かよ、今になってそれが初めて判った気がしたぜ。実は今朝紋章が右肩の方に現れてたんだが……今その右肩、無茶苦茶脈打ってんだよ」

「って事は……つまり……あれをやったのは、ヴァーミンの有資格者かも知れないって事…?」

「そういう仮説も、強ち間違いじゃねぇかもな。番号は判らんが、十中八九向こうもこっちを認識していると考えて間違いあるめぇ」

「となると、今回の案件にも絡んでるのかな?」

「それは些か飛躍した推測だが、頭に入れておいて損はねぇだろうよ」

 等と語らいながら、繁達は東ゾイロス高等学校で起こる謎の事件について何かラジオに使えそうな情報を探すため、その場から立ち去った。ワイバーン死亡に沸き立っていた群衆達も次第に死体の周囲から離れ始め、各々の目的地へ向かいだす。

 何処からともなく現れた、地を這う無数の赤い粒子がワイバーンの死骸へ一斉に集る。そして粒子が動く度、ワイバーンの死肉が驚くべき速度で消えていく。この粒子こそはラビーレマ全土に備わった有機ゴミ処理システム『トラッシュバイター』である。

 この胡麻粒ほどの小さな飛べない甲虫達は極小の電子機器によりその行動を制御されており、命令されるが侭に動き、貪り、増え、そして死んでいく。他の大陸政府からは未だに暴走の危険性を示唆され続けているこのシステムだが、不思議なことに今の今まで災害を引き起こしたことは一度もない。死骸を食い尽くしたトラッシュバイターが立ち去ると、今度は何処から都もなくゴミ収集用のキャタピラ車が現れてワイバーンの白骨を回収していった。


 全てが丸く収まったのを見計らったかのように、建物の影から素早く女が現れた。アジア人的な顔つきに緑色のポニーテールを棚引かせたその女の年齢は、見たところ20代ほどであろうか。

 ほっそりした肢体が爽やかな外観の黒いスーツを着こなす様は、彼女があらゆる能力に秀でた秀才である事を彷彿とさせる。

 女はゴミ収集車が取りこぼした骨片に歩み寄り、それを拾い上げて呟く。

「馬鹿ですねえ、貴女も。幾ら結婚できないからって、幾ら(おとこ)運が無いからって、街に攻め入るなんて……本当に、救いようのない馬鹿ですよねえ」

 骨片を近くのゴミ箱に投げ捨てた女は、そのままラビーレマの町並を歩き出す。

「まぁ、そんな馬鹿の事なんて気にしてたらキリがありませんよね。馬鹿ほどこの世界に腐るほど居るようなものなんて、そうありませんから。それより今注目すべきは、あの三人組ですよ。彼ら……特にあの昆虫のようなマスクを被った男性は、実に興味深い。

あのマスクの形状からするとモチーフは蛾でしょうか?しかしながら見たことの無い姿……もしや、アクサノ学会も認知していない新種…?何やら面白そうな雰囲気ですねぇ……彼らの後、付けてみても良いかも知れません……っと、それより前に何か食べましょう。流石にお腹が空きました」


 女はごく普通に、飲食店のある方角へと歩み出した。しかし彼女が三歩進んだ直後、その姿は一瞬にして消え失せてしまった。

突如現れた謎の女、その脚力の秘密とは!?

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