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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
246/450

第二百四十六話 これはリューラ回ですか?R.はい、色々閲覧注意です:中編





明らかになるビレッド・ペーションの過去。

―解説―


 ビレッド・ペーション。原則上下関係のない官邸特選隊の隊長を自称するこの霊長種は、本名を輿石西子という。温厚かつ真面目で何事にも全力で取り組む誠実さ故、官邸では多くの者から慕われる好人物である――が、それはあくまでダリアが脳に術を施した結果形成された"仮の姿"でしかなく、その本性は前回の終盤で述べたような単なるゲスでしかない。

 その思考は狂信的なまでに拗れて腐敗しきった女尊男卑(女性至上主義)思想から成り、彼女にとって男とは自身の為に死ぬまで働き続ける奴隷か家畜(もしくは生きたATM)、または弄くり回して遊ぶ玩具なのだと本気で思い込んでいる(そして質の悪いことに、彼女は自分の思想・趣向が至って普通のものなのだと信じて疑わない)。

 その狂った思想は生まれながらのものであり、遺伝などでは決してない。最初の目覚めは4歳の頃、自分に従わなかった幼稚園の同級生を病院送りにしたことに始まる。その時はまだ自覚が薄かった所為か両親に咎められても素直に聞き入れていたらしいが、正そうとする両親の努力も虚しく歪みは歳と共にエスカレートしていき、年齢不相応な幼児体型に似合わぬ男子相手の暴力沙汰を度々起こすようになる。

 周囲はそれを咎めたが、尚も自身の正気を盲信し続けた彼女は、中学二年生のある日に自身を咎めた両親を殺害。各地で盗みや殺しを繰り返しながらしぶとく生き延びていた所を容姿に目の眩んだ今野に拾われ、ダリア達の保護下に置かれることとなる。この頃より本名に嫌気が差した彼女は、ビレッド・ペーションなる源氏名を名乗るようになる。


 安定して好き放題できる生活に満足こそすれ男の支配下に置かれる事が何より気に食わなかった輿石はやがて反逆を計画し、手始めに自分を拾った今野を誘惑しベッドに誘い込むと、性行為を装い彼の性器を隠し持っていたナイフで滅多刺しにし素手で乱雑に引き千切った。元より半端な性同一性障害者にしてマゾヒストでもあった今野はそれに至上の悦楽を感じ、その夜以降(一時期だが)彼女に付き従う奴隷になってしまう。

 事態を重く見たダリアは今野と輿石の脳に術を施し、今野の記憶を一部改竄すると同時に輿石を上で述べたような人格者に変えてしまった。その作戦は見事に成功したわけだが、輿石の術はあくまで"重ね塗り"に過ぎず、その奥底では本来の凶悪な人格が今も尚蠢き続けている(肉体の支配権を奪うことはできないが)。


 そして今日、ダリアは城内に放った輿石の脳に施された術を解除した。戦わせる場合は、おぞましい本性のままが好都合だと考えたのである(また本性に戻ると知能も低下するため、運が良ければ無謀な行動に出て殺されてくれるだろうと踏んでもいた)。


―前回より―


「アハハハハハハハハ!さぁ、跪きなさい!」


 簡素で無機質な通路を所狭しと暴れ回るのは、大蛇が如し極太のオニイソメ(巨大ゴカイ)へと姿を変えた輿石であった。その巨体には所々にホモ・サピエンスのものと思しきパーツ(目玉や手足の指)が散見される。


「畜生が、なんなんだありゃあ!クソ忌まわしいガキめが、いきなりミミズのバケモンになりやがって!」

二十五番リューラよ、ありゃミミズじゃなくてゴカイだぜ。それもヤムタ温帯域じゃ最大級のオニイソメって奴だ。まぁデザインはかなり違ェし最大級ったってあんな巨大でもねーが」

「ぬふゥん、喋ってる暇があるとは余裕なようね!ならばこれでも喰らうがいいわ!」


 そう言って鎌首をもたげ大きく反り返った輿石は、クワガタムシのような大顎の備わった大口から深い血色の不透明な球体を吐き出した。高速で飛ぶそれを瞬時に危険なものと判断したリューラは大きく飛び退くことで何とかそれを回避。

 一方、球体が当たった床材は煙も上げず削り取られたように消滅してしまった。


「……回避しといて正解だったな」

「あぁ、流石の俺でもあんな酷ェもん喰らったらどうなるかわかりゃしねぇよ」

「だろうな。兎も角今は奴をぶちのめすォあェィッ!?」

 話し込んでいたリューラの顔面を、先程と同じ球体が掠める。すんでの所で避けた為重傷は免れたが、頭髪をそこそこ削られたようである。

「クソ。連射してこねーのが救いだが、下手に喰らやぁ掠っただけでも間違いなく死ぬな」

「だな。弾道はシンプルだがこう狭い通路じゃ避けてる余裕もねぇし……一体ありゃ何なんだ?」


 このビレッド・ペーション(本評:輿石西子)という女は最初に述べた性格の割に馬鹿にできない実力の持ち主である。というのもこの女、殆どの読者諸君がお気づきであろう通り蛭の象徴を持つ第五のヴァーミン・リーチの保有者(異能を保有し行使することのできる有資格者のこと。単純に有資格者という場合、保有していない者も含む)であり、保有から半月も経っていない新参である。

ともすれば普通は固有の異能―リーチの場合、触れた存在を消し去るように削り取る液弾の発射―を使いこなすのが精一杯の筈だが、この女は然し破殻化を通り越して爆生をも使いこなすレベルに至っているのである。また、爆生を経て尚五感全てが機能している辺り、もしかしたら先代のリーチ保有者である鳴頃野神子音より格上であるのかもしれない。


「どうすりゃいいと思う?距離取りゃあの弾に殺られようが」

「かといって近付くとあのクワガタのハサミみてーのに狩られっ――ぶねぇぇぁっ!」

 間髪入れずに繰り出された輿石の突進をすんでの所で回避したリューラは、脱力し壁にもたれ掛かりながら言う。


「ンぅ……惜しいところで外しちゃったわ、ンもぅ」


「クソッタレぃ、プロテイン打ちすぎた釣り餌の癖に早ぇじゃねーかッ!」

「あぁ、加速の加減はできねーようだがとんでもねぇ筋力だな――ッてまた来たぁ!?」

「しかも心なしかでかくなってねぇか!?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや、心なしかってレベルじゃねぇだろ!どう見てもでかくなりすぎだろ!どういう原理だよ!?」

 バシロの言うとおり、輿石のサイズは常軌を逸していた。元はパニック洋画等に出てくる大蛇程度のサイズしかなかった胴体が、ゆうにその十数倍、狭い通路を埋め尽くすほどの太さになっているのである。更にその断面は平べったい楕円形から完全な円筒形となり、元々二つ(牙四本)だった筈の大顎は八つに増えている。


「どぅひゃはははははははっ!これでとどめよ!交尾に使い終わった雄の貧相なチ○ポを噛み切るのにも使われるとも言われるこの大顎で、あんたらをミンチにしてやるわッ!」


「けッ、何て下品な女だ。しかも性器食うって話も強ち間違いじゃねーから困る」

「マジか、オニイソメに産まれなくて良かったぜ。食うも食われるも願い下げだ」

「性器だけってのがまたわけわかんねぇよな。再生するって説が有力だが……」

「だとしてもキツいだろ……つーかアレ、どうするよ。もう痛めつけんの諦めて殺すか?」

「それもいいかもな……この字数じゃ次回も俺ら主役んなるだろうし、ダラダラ長引かせんのもアレだろ」

「よっしゃ、決まりなー。個人的にああいう手合いをあっさり殺すのは勿体ねーんだ、が……まぁいいや」

 迫り来るオニイソメ(ですらなくなった環形動物のような何か)の真正面に立ったリューラは、スカルバーナーを右腕で掲げる。

「バシロ、右手伝ってこの剣に来い。奴があのドアより前に来たところで真っ二つにしてやろうぜ」

「この前開発した新技か?いいねェ、ンの釣り餌モドキにゃ丁度いい」


 かくして二人は"新技"の構えに入り、輿石の頭がリューラの指し示したドアへと到達する。


「よっしゃ、来た!」

「行くぜ必殺!」

「「夫婦奥義之天めおとおうぎのてん……星界二分と――「セァアアアア!」――!?」」


 リューラがバシロのまとわりついたスカルバーナーを振り下ろそうとした瞬間、何やら若い女のものと思われる妙に猛々しい叫び声を伴い、何かが通路の天井を突き破り通路へと降ってきた(・・・・・)

 降ってきた"何か"は降下と同時にオニイソメ(要するに輿石)の頭へ強烈な打撃を叩き込み、リューラとバシロが斬り殺す筈であった輿石(要するにオニイソメ)を一瞬で気絶させ、その爆生を強制解除させてしまった。


「「……」」


 予想だにしない出来事に床面へ下顎がつきそうなレベルで口を開け途方に暮れる二人だったが、すぐさま立て直し戦闘の構えを取る。結果的に加勢してくれたとはいえ、土煙に覆われていて詳細な姿は窺い知れない以上油断など出来はしないからだ――が、分厚い土煙の向こうから聞こえてきた声は、そんな二人を思わず拍子抜けさせた。


「……っと、これでもう動けまい。全く手間をかけさせおってからに……」

「ん、その声はまさか……」

「……璃桜、かよ?」

「おや、その声と気配はよもやフォスコドル殿にジゴール殿ですか?よもやこんな場所で出会うとは、奇遇ですね」


 土煙が晴れた先に佇んでいたのは、右手で敵の亡骸と思しき物体を掴んだ竜属種の女・建逆璃桜であった。

次回、輿石もといビレッドが辿る悲惨な結末とは!?



※余談…今も放送されている人気バラエティ番組には『婚期を逃しそうな男女が悩みを吐露し、出演者や専門家に解決策を仰ぐ』というコーナーが存在する。

ある生放送回でそのコーナーに出演したオニイソメ系軟体種の女性は、スタジオにて「『息子を傷物にするような阿婆擦れを嫁になどとれるか』と言われ互いに愛し合っていた男性との婚約を解消された事があり、以後婚活をする勇気もないまま30手前に差し掛かりつつあるのだがどうすればよいか」との悩みを吐露。

続けて「ヒトとして社会に適応する以上我々にそのような原始的かつ野蛮な習性は一切残っていないのにあんまりだ」と、震え声で補足しスタジオで泣き崩れてしまった。

これに対し蜘蛛系外殻種の男性司会者や出演者の一人であった蟷螂系外殻種の女優などは彼女に激しく同意し、司会者に至っては姉が同じような差別を受け自殺したと告白。スタジオは他種族に対する不等な差別が存在する現実への悲しみと怒りのムードに包まれ、番組にもこのことに涙し怒り狂ったとの投書が多く寄せられた。

終いには各大陸を騒がせる大ニュースとなり、政府は種族差別に関する法を整備。改心した実家に認められたオニイソメ系軟体種の女性は、愛し合う男性と結ばれ添い遂げたという。

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