第二百四十四話 もる×くり!
更新送れてごめんなさい……
―前回より―
「っだぇああぁあああぃ、クソッタレェ!何がどうなってんでィ!」
「しッ、知らないですよぅ!わかってるのは、あのバズーカの弾が変な紫のカプセルからビーム爆弾に変わったってくらいですっ!」
「いやぁ、凄いねー。余裕の火力だ、サイズが違うよ」
自ら射出したありとあらゆるものを食い尽くした『カノン・ウライ』から放たれる炸裂光弾の破壊力は、まさに脅威と呼ぶに相応しいものであった。子供の掌へ少し余る程度の、それこそ現実のグレネード弾よりも小さいような単なる光の塊が空中を高速で飛ぶ様子は、傍目から見ている分には美しいだけで済む。だが問題なのはそれが何らかの固体(例えば地面やヒトの肉体など)に接触してからで、光弾はほんの少し掠っただけでも勢い良く炸裂し、半径1.5m範囲の物体を確実に粉砕してしまう。更に質の悪い事には弾丸、かなりの速度で連射が可能でもある。
その純然たる"破壊"から逃れられる存在は皆無に等しく、一度放たれればば如何なる妨害をも許さない。それこそ『三王砲』最強の破壊力を誇るとされる『カノン・ウライ』の固有効果である(奇妙なカプセルを射出する機能はあくまでその前座として組み込まれたに過ぎず、内包された使い魔なども所詮はウライという武器の弾丸を作り出す為の原材料に過ぎない)。
「順調。黒木、そろそろ一発派手なのを頼む」
「だね。幾らあの虫女や馬面でもウライの弾を避けつつベリクの衝撃波を防ぐなんて不可能だろうし、もう甲とか乙とか関係なく死ぬと思うよ」
「おっけィ、それじゃ一発派手なのをお見舞いしてやるとするわッ!」
再三ベリクを振り上げた黒木は、反動でその小さな身体が浮き上がるほどの激しさで大槌を床面へ振り下ろした。床へ沿うように発生した衝撃波はボロボロであった床材を更に砕き、ウライの弾丸をも破壊し空中で炸裂させ、止めとばかりに両隣の部屋と寝室を隔てていた壁二枚を完全に破壊した。
「(ン、思いっ切り撃ったら甲になっちゃったわ。まぁどうせ避けも防げもしなかっただろうけど)……それにしても酷いホコリね、清掃員仕事なさいよ全く」
「いや、これホコリじゃなくて細かく砕けたコンクリートとかじゃないかな、よくわかんないけど」
「凝視。どうにも死体が見当たらぬが……やったか?」
「やったんじゃないの?多分やったんだよ」
「"多分"?多分ですって?やめてよあんた達、"多分"なんかじゃないわ。やったのよ。あいつらはウライの弾に夢中になりすぎてベリクの衝撃波を避けきれずに死んだのよ」
「じゃあどうして死体が見当たらないの?」
「残らないほど粉々になったか、瓦礫に埋もれたからに決まってるじゃない。らしくないわよノーラ、あんたともあろう鳥がそんなことも失念してるだなん―――「ぬッ!?」
ふと、何かを見付けたらしい疾手が、黒木の言葉を遮るように声を上げた。
「……ちょっと右天、あんたひとの話に割り込まないでよ」
「失敬。妙なものが視界に写り込んだのでな」
「妙なもの?」
「左様。あれだ」
そう言って疾手が指差したのは、ヒト一人か二人が通れるほどの大きく深い穴であった。
「あれったって、ただの穴じゃないの」
「左様。だが何か妙ではないだろうか?」
「んー、別におかしいところは見受けられない……かな。ウライの弾で空けた穴じゃないの?」
「そうよ、それよ。それじゃなきゃおかしいわ」
「……そうか。それもそうだな。妙に深い気がするのは錯覚か」
「そういう事だわよ。それより問題はこの部屋よ、あいつ等の所為で隣の部屋までグチャグチャだわ。ダリア様に何と言われるかわかったものじゃ――「ひッ!?」
「……またこの流れ?ちょっとノーラ、あんたまでどうしたってのよ?」
「ご、ごめん。なんか変な音が聞こえたからつい……」
「変な音?またどうせ気のせいじゃ――あ」
言い終えぬ間に、黒木はふと間の抜けたような声を上げてしまう。
「どしたの?何かあった?」
ノーラの問いかけに答えるように、黒木はある一方だけを指差す。
そしてその先にあったものを見た二人は、思わず絶句した。
「ふぅ、大丈夫ですか皆さん」
『怪我とかありません?』
「御陰様で何とかなったよ」
「一時はどうなるかと思いましたー」
「この部屋が一階だったのは思わぬ幸運だったぜェ」
建材であるコンクリートさえ崩れ去った地面を突き破るようにして現れたのは、茶褐色の外骨格とモグラのような幅広い腕を持つ昆虫のようなヒューマノイドであった。それに続くようにして、緑髪で黒スーツを来た長身痩躯の若い男、白い体毛の馬系禽獣種、修道女のような身なりの尖耳種、青白い雷電で成されたような巨漢の竜が順に穴から姿を現す。
そう、(読者諸君ならばもう察しているとは思うが)桃李達は地中に潜りベリクの衝撃波から逃げ延びていたのである。
「な……あ、あんた……たち……」
「まさか……そんな……」
「何故?貴様等は死体も残らず死んだのでは……」
『勝手に殺さないで下さいませんか。我々はこの通り無事ですよ』
「そうそう。要するに君らはしくじったって訳さ……」
「そのしくじりってなァ要するに……」
「上や横ばかり攻撃する事に気を取られ"下方向への対応"を失念していたことです」
「疑問……だとしても貴様らには、地中への素早い逃走を可能とするような因子が見られない筈だ。そこな青白い巨漢めならば床材の鉄筋コンクリートに穴でも空けられようが、この官邸は元より農耕に適さぬ凝り固まった土壌の上に建っている。その硬度は図体がそやつの二倍ほどもある竜属種でも1m掘り進むのに20分はかかると言っていた。ともすれば貴様らにベリクを回避することなど到底――「できるんですよ、これが」―何?」
疾手の言葉を遮ったのは、元の姿に戻った昆虫のようなヒューマノイド―もとい、爆生で姿を変えていた桃李であった。
「昆虫どころか理科の基礎さえろくに持ち合わせていなさそうなあなたがたにこんな話をしても無駄でしょうが、私は試行錯誤の末爆生によって直翅目の生物に化けられるようになりましてね。先程見たバッタの姿がそれです」
「……悪かったわね。理科どころか勉強なんて小三で止まってるわよ!でもそんな私達だって、バッタが穴を掘らないって事くらい知ってるわ。あんたのバッタと穴掘りと、何の関係があるっての?」
「確かに、仰有るとおりバッタに地中を掘り進むような能力はありません。ですが、直翅目ならば別です。バッタ目とも称されるこのグループには、スズムシにコオロギなどが属しているわけですが……その中でも取り分け変わり種なのがケラという虫でして」
「ケラって……オケラのこと?」
「そう呼ばれることもありますね。『モールクリケット(モグラコオロギ)』の別名を持つこの種は、その名の通りモグラの前脚のように発達した腕で地中を高速で掘り進むという、バッタの親戚にしては妙な特技を持った奴でして」
「つまり、あんたはオケラに変身して地中に逃げたってこと?」
「平たく言うとそうなります。まぁ実際のケラはこんな固い土より腐葉土などの軟らかい土を好むんですがね、そこは爆生によって付与された異能でどうにかカバーできま―――」
桃李が言い終えるより先に、疾手のウライが光の弾丸を撃ち出した。弾丸は当然のように炸裂するが、そこに桃李達の姿はない。瓦礫の一つを囮に一瞬で回避していたのである。
「――危ないですねぇ。話に話で割り込むなら兎も角、いきなり発砲だなんて」
「失敗……だが、次は外さ――んッ!?」
再びウライを構えようとする疾手の頭に、何かの水滴が落ちてきた。雨漏りではないだろうし、天井にヒビが入っていたにせよあの辺りに水気のものなど存在しない筈だ。水滴は続いてノーラと黒木の頭にも落ちてきた。
「んッ、何よこれ……何だか妙にヌルヌルしてるんだけど……」
「……これって、油?でも何で油なんか――――がぁぁぁぁぁぁぁ!?」
刹那、羽毛に覆われたノーラの頭と右掌が発火、瞬く間に燃え盛る火達磨になってしまった。
「ノーラッ、何が――ぎゃぇぇぇぇぇっ!?」
「何事!?何故身体から炎が―――ぐぉぇぁぁぁぁぁぁっ!」
黒木と疾手も立て続けに発火・炎上し、瞬く間に火達磨と化し焼け死んでしまった。
桃李の有する『コックローチ』の油を媒体にした温度操作能力である。
「んン、火加減を間違えましたかね。すみません、ジランさん。折角の鶏肉を焦がしてしまったばかりか、手袋や財布の材料も台無しにしてしまいました」
「あァ、気にすンねェ。焼き鳥は帰りにどっかで適当に買わァ」
「そうですか。しかし火加減を間違えたのはどうにも……いっそ凍らせるべきだったか」
『桃李、我が妹よ。逆に考えるのです。ライトノベルによくありがちな「ドジっ娘キャラ」としての立ち位置を確立できると考えるのです』
「あー、まぁ緑は不遇・不人気のレッテルを貼られやすい色らしいですから、その方向転換はありかもしれませんねー。まぁ正直ドジっ娘キャラって特に露骨な媚び売りがあって嫌いなんですけど」
『無論そこいらにいるような有象無象の間抜けキャラを演じろとは言ってませんよ。あくまで"貴女なり"でいいんです』
「そうだよ桃李さん。あくまで君なりの、君らしさを追求すればいいんだから」
「……ジランちゃん」
「何スか、聖女」
「小樽のお二人と刻十さんがわけのわからない話をしてるんですが」
「無理に入ってかないのがいいと思いますぜ。下手すっと取り返しのつかねーことになりそうだ」
かくして飛姫種部隊三名を撃破した桃李達は、かつて寝室であったあれ放題の部屋を後にした。
次回、リューラ怒りの大暴虐!?ギリギリの猥褻用語が飛び交う危険な虐殺劇の予感!
(まぁそれっぽい単語は全て伏せ字にしますが。もしかしたら245話だけノクターン送りにするかもしれません)