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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
242/450

第二百四十二話 我が妹は多新翅上目:前編



終盤にて明かされる桃李の爆生とは!?

―前回より・寝室―


「さぁ、今度こそ砕け散りなさい!このベリクの神罰でッッッ!」

 戦闘開始から三度目になる『覇王神殿ベリク』の固有効果発動は、只でさえボロボロになった寝室に更なる追い打ちをかけ、四枚ある壁を崩壊寸前のレベルにまで追い込み薄手の木材で作られたドアを粉砕した。

 広範囲にある自身と味方以外の物体を破壊する強力な衝撃波を放つベリクの固有効果は、その範囲によってこうおつに分けられる(とはいえ、どちらも一長一短なのではっきりと優劣を断言できるものではないが)。それらを簡単に言ってしまうと、前回最初に発動した無差別破壊を引き起こすタイプが甲であり、続いて発動した対象物だけを狙って確実にダメージを与えるタイプが乙である(そしてそれらを下回るへいというものがあるなら、それはきっと固有効果を用いない単なる殴打のことである)。

 それぞれの特徴として、甲は精度は低いものの範囲が広く、対して乙は対象を細かく指定し如何なる物体をも的確に破壊できる反面範囲では甲に劣る。黒木が初手(及び三度目となる今回)で甲を発動したのは単なる気分的理由によるものであり、さして意味などはない。

「っと、いけないいけない。感極まって思わず甲の方撃っちゃったわ」

「希望。甲は動きを読まれれば簡単に回避されてしまう。有限である以上乙を用いてくれ」

「善処するわー」

「っていうか回数制限あるんだからなるべく直接殴りに行ってね。二人で四分間フォローするのは余裕だけど」

「はいはーい」


◇◇◇


「どうします兄さん。先程見て聞いた通り、あの唐揚げが持っている球体には攻撃してきた相手を精密に模倣し攻撃に用いる能力が在るようですが……」

『無論、それだけではありませんがね。先程奴に向かっていった時、私は左腕である海馬(タツノオトシゴ)の尾であの生姜焼きを薙ごうとした……この意味、貴女ならお判りでしょう?』

「えぇ、勿論です。つまりあの偽物は兄さんの思考をほぼ完全かつ素早く読み取り、相手より確実に素早く動くことができると、そういうことでしょう?」

『その通り。"模倣"といっても姿だけを似せるのではなく、思考までも真似てくる訳ですよ。しかもその破壊力とスピードに至っては模倣対象を確実に上回るとなれば……どうやって突破しろというんですかねぇ、あんなものを』

「ベリクだかいうあのハンマーの所為で近付く事すらままなりませんし、逃げ回りながら綻びを探すしかないでしょう。幾らアリサ女史の防御魔術が高度だとはいえ、あの衝撃波まで完全に防ぎきれるとは限りませんし」


◆◆◆


「んー……それにしても面白いなぁ、あの恐竜モドキの持ってる大砲。中からカプセルが飛び出すならまだしも、その中からあんな可愛いクリーチャーが出てくるなんてワクワクするよ」

「言ってる場合ですかィ。つーかあのバケモンが可愛いとかどんな神経ですかアンタ」

「そうですよ刻十さん。何だか前より感性のズレが酷くなってません?」

「そうかな?元々そんなに感性がズレてるとは思わないんだけど……んで、アリサちゃんさ」

「はい、何ですか?」

「僕が思うにあのクリーチャー、独立した生命体ではなく術か何かで作られたものだと思うんだけど……どうかな?」

「ほぼ間違いないと思います。けど"作られた"というよりあれ自体が一つの独立した魔術なのかもしれません」

「その上あの怪獣気取りめの発言が確かなら、奴のタマはまだ色々あるってこった。どんなもんが飛び出してきても不思議じゃありませんぜ」

「そうなんだよねぇ。あの程度のクリーチャーなら僕のでどうにかできるけど、例えば拘束系とか封印系とかに来られるとかなりキツ――っと、もう次のを出してるみたいだね。しかもお次は蛇と石像に……水銀のお化けかな。兎も角どれも可愛いねぇ」

「いや、どう見ても不気味ですよね!?蛇は兎も角、あの石像は不気味過ぎますよ!?」

「夜中にガキが見たら泣きすぎで脱水症状起こすレベルですぜ――っつかやべ!何か攻撃飛んできたぁっ!」

 咄嗟に敵の攻撃を察知したジランは、アリサと刻十を小脇に抱えその場から飛び退いた。次の瞬間、石像が手に持っていた石製の(ナタ)が三人のいた位置へ盛大に突き刺さり、続けざまに大蛇が吐いた汚らしいゲルめいた塊が飛来。巨大な石鉈と寝室の壁とをボロボロに腐食させてしまった。

「何ッて野郎だ!鉈ぶん投げるだけでいいっつーのにから、わざわざ腐った寒天みてえなもん吐いて来やがって!」

「悪趣味だねー」

「貴方がそれを言いますか……まぁこんな場所に住んでる時点で頭おかしいのは確かですけどね」

「まぁ僕もこんな顔して戦闘狂バトルマニアで変なモノ好きだからそこは否定しないさ――っと、まだまだ来るよ。さぁジランくん、ラジオ体操の時間だよ~」

「どこにこんなラジオ体操があるっつーんですか!?」

「まずは全身の筋肉を使って、飛んでくる鉈と水槽のパイプに詰まって腐ったカエルの卵を避ける運動から~」

「そんな運動ねーでしょっ!?つーか最初ッから全身の筋肉使うとかありえねーッ!」


◇◇◇


『ふゥん、どうやら会議はここまでのようですねー』

「ですかね。何なら戦闘は向こうに任せてこちらは会議続行という手もありますが」

『賢明な判断とは言い難いですね、それ。あの石像と蛇の数が増え続けてますし』

「となるとやはり、ここは逃げながら考えるしかないのでしょうかね――っと、ィよっ、危ないな全く」

 跳んでくる鉈とゲルをダンスのようなステップで回避した桃李は、ベリクの衝撃波でボロボロになった床面に目を遣りながら言う。

「しかし床面がこれでは上手く走れる気がしませんし……爆生、ですかね」

 などと言いながら破殻化した桃李の姿は、若草色の外骨格を持ったバッタかキリギリスを思わせるものであった。

『さて、ここからは別行動ですね』

「そうなりますかね……それでは兄さん、お互い頑張りま――しょゥッ!」

 爆生によりバッタの形質を得た桃李は、その跳躍力によって一気に天井まで跳び上がっていった。

 その姿を見た羽辰は、そんな妹の姿を感慨深そうに見つめながらふと思う。

『(昆虫型ながらにもくを超え、上目じょうもくをも爆生に取り入れるとは……我が妹ながら恐れ入りますよ、全く……っと、感傷に浸っている場合でも無かったか)』

 幽霊状態となった羽辰は、更に量産され続ける石像と大蛇の攻撃を華麗に(かつ無駄な動作を交えて)避けた羽辰は、妹に続く形で敵を攪乱していく。

『(どんな堤も蟻を寄せ付けないようにはできるが、穿孔そのものを防ぐことなどできはしない……ならばあの陣形に於ける、穿孔されやすい場所とは一体……)』

次回、桃李の辿り着いた"上目を取り入れた爆生"の力とは!?

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