第二百四十一話 炸裂ジンギ
とか言いつつ一人だけ神器じゃないの居るけど……
―前回より・寝室―
「さぁ、吹き飛びなさい!この『覇王神殿ベリク』の力をその身で味わうがいいわ!」
先手を取らんと真っ先に行動を起こしたのは、魔物を象った大槌『覇王神殿ベリク』を振るう黒木であった。幼女の姿故の細腕によって掲げられた大槌が、既にボロボロになって建材が剥き出しになった(嘗て)寝室(であった空間)の床面へと振り下ろされる。
それと同時にベリクの固有効果が作動し、刻十達を強大な衝撃波が襲う。先程放たれたものとは異なるそれは他の何物をも巻き込むことなく、ただただ的確に五人の肉体を破壊しに掛かる。そのダメージは生物と霊体の中間である羽辰や魔力エネルギーの塊にも等しいジランといった、本来こういった類の攻撃に対しある程度の耐性を持ちうるはずの面々をも吹き飛ばし重傷を負わせていく。
「無惨。一撃で沈みおった」
「やっぱり凄いなぁ、柚葉のベリクは」
「当然よノーラ。何たってこのベリクはあんたのタルバ共々六神器最強と名高いんだから」
「左様。故に陽極最強は覇王神殿ベリク、そして陰極最強は邪恒星タルバと言える」
「序でにあんたのカノン・ウライは単純火力なら三王砲最高峰だし、これで奴らも消し炭よ」
***
緑色をしたグソクムシ系外殻種の老人カドム・イムが作った武器には常軌を逸した固有の機能が搭載されていることは、本作を第一話からここまで真面目に読み進めている勤勉かつ懐の広い読者ならばよく理解していることと思う。
そしてこの世のあらゆるものがそうであるように、それらの中には桁外れに強大な力を誇る代物が幾つかある。デッドや官邸特選隊の面々が用いた『五龍刃』に属する物が主に該当するのだが、それら五龍刃をも(あらゆる意味合いで)上回る力を誇るのが『六神器』と『三王砲』の計九つである。
三王砲はその名の通り三つ全てが何らかの銃砲であり、何れも独自の方法で弾丸を強化する固有効果を持つのが特徴である。
対する六神器の形状や固有効果には統一感がまるでなく、中には『武器としての機能を持たない』という、最早武器と呼ぶことさえ躊躇われるような例外中の例外まで存在する(そしてその"例外中の例外"こそ、ニコラの持つ藪医者リリーが"許容量超えのエネルギーを吸収した際に起こる暴発を何とか攻撃に転用可能な形に整えたもの"とされる『傍迷惑神ヲー』である)。
また、六神器は更に細かく分類すると"陰極"と"陽極"に分かれる。この分類はそれぞれの武器を個々の固有効果ごとに(かなり強引な考え方で)分類したものであり、陰極には主に保守的な固有効果を持つものが、陽極には攻撃的なものが属する。例えば狙ったものだけを的確に襲う衝撃波を放つベリクや、ただただ一直線に飛ぶ途轍もないエネルギーの塊であるヲーなどは陽極に属すのである。
***
「っく、っぅ……っふ……いやぁ、はは……PS潰したと思ったら、途端にこれか……参ったね、どうも……」
「……笑い事じゃねぇですぜ、五真兄貴……こんなん、核ミサイル入りの地雷を踏んじまったようなもんだ……」
「大丈夫ですよ、ジランさん……単純な破壊力なら、オクタニトロキュバンの方が……上、ですから……」
『そういう問題じゃないと思いますけどね……しかし恐ろしい攻撃だ、よもやこの身体にダメージなるものを受けてしまうとは』
「(とりあえず治癒魔術かけよう……ジランちゃんと羽辰さんは余裕みたいだけど他は私含め瀕死だし……)」
アリサ渾身の治癒魔術によって何とか持ち直した五名は、PSに取って代わる(上に、PSよりも遙かに強力な)武装を得た飛姫種三名を相手取る策を練りつつ戦闘を再開した。
「ふん、そっちの貧相なのは回復魔術の使い手ってわけね。でもこのベリスを前にしてそんな小細工なんて無意味よ!喰らいなさい、この圧倒的な火りょぶげっ!?」
振り上げられたベリクが床面を叩くより前に、黒木の頭部を挟み撃ちにする形で小樽兄妹の蹴りが叩き込まれた。隙を見て瞬時に三人の背後まで移動していたのである。
「ッぐ……っが……んのぉ!」
頭蓋骨が大きく揺らぐような感覚に陥りながらも何とか立ち直り、ベリクで背後の二人を薙ぎ払おうとする――が、青い大槌は二人に触れるでもなく立体映像のようにそれらをすり抜けてしまった。
「(しまったっ!ベリクは無差別にせよ対象指定にせよ、固有効果を二回使ったらその後四分間攻撃できないって欠点、この私としたことがすっかり失念していたなんてッ!)」
胸中にて全力で自身のミスを悔いる黒木に追い打ちをかけるべく二人がそれぞれの手段で異形のものへと姿を変えて襲い掛かれば、それを黙って見過ごすわけには行かぬとばかりにノーラと疾手が黒木を庇うように陣取り武器を構える。
「発射!止まっていろこの蚊トンボめ!」
疾手のカノン・ウライから放たれた紫色の弾丸は瞬時にシェパード大の肉食獣ともコウモリともつかない化け物へと姿を変え、丸まったような姿勢で桃李の前に立ちはだかる。
「私はゴキブリなんですが……ねッ!」
さして攻撃をしてくる気配もないそれはえらく脆弱に見え、桃李はすかさずそれを外骨格の貫手で刺し貫こうとした――が、貫いた瞬間化け物の身体の身体が爆発。桃李の身体を吹き飛ばし、衝撃で破殻化を強制解除させてしまった。
「どぅぉっ!?」
「爆裂。見切れまい?我が『ウライ』に備わる弾丸が一つ『憎魔榴弾』は、自身を破壊した者にその攻撃と同じ量のエネルギーを有するダメージを与える効果がある」
「桃李っ!――「余所見、禁物ゥ~」――がぐっ!?」
妹の身を案じる余り一瞬余所見をしてしまった羽辰の胴体に、羽辰の左腕と似たようなタツノオトシゴの尾を思わせるものが叩き込まれた。見ればノーラの周囲を包む透き通った青や赤、紫や黒というような色の混じり合う球状のオーラから、異形化した羽辰の上半身らしきものが生えている(但しその色は黒く、また心なしかサイズが一回り大きくなっているようにも見える)。
「『邪恒星タルバ』……攻撃をしてきた者の形態を模倣し、模倣対象の1.1倍の戦闘能力を得ることで相手を迎撃する武器さ。つまりこれが機能する限り、僕は決して負けやしない」
「そう!多才な弾丸で攻防一体の戦いをする疾手に、迎撃に関してはこと無敵なノーラ!そして比類無き破壊力を誇るこの私!まさに三位一体、無敵の布陣!あんた達じゃあ、逆立ちしたって超えられないわ!」
「なーんて言ってるけど、どうする?」
「どうするって、戦うしかないでしょ。向こうで小樽さん達も起き上がってますし」
「聖女に同意ッスわ。早いとこ奴らぶちのめして、手袋や財布んでもしちまいましょう。丁度焼き鳥も食いたかったんで都合いいやな」
次回、桃李が爆生を駆使して大活躍(予定)!