第二百四十話 無敵だけどガス欠なら只のカカシだよねっ
そういえば某ハーレムもんのSF小説、出版社と絵描き変えてまで新刊出したみたいだけど往生際悪すぎだろあのプロ(笑)
―第二百三十七話より・寝室―
「はぁ……はァ……ハぁ……どうすんのよこれッ!」
「知らないよ。兎も角あるだけのものでどうにかするしかないじゃない」
「迂闊。だが勝機は十二分にある」
少女達の眠る寝室にて勃発した桃李(及び羽辰)・刻十・アリサ(及びジラン)と飛姫種部隊幹部三名の計六名(実質八名)による戦いは、思わぬ展開を迎えていた。というのもこの飛姫種達―名をそれぞれ黒木柚葉、ノーラ・フィム、疾手右天という―は、ある事情によりPSを装備しようにもそれができない状況下にあった。
というのもこの三名、度重なる激戦で圧倒された挙げ句PSのエネルギーを使い果たしてしまっていたのである。原因は当然、彼女ら三名の持つPSが燃費の悪い機種であったからなのだが、それ以上に"そう仕向けられていた"という理由が強くもあった。
つまり、敢えて敵にPSを酷使させる事でエネルギー切れに持ち込ませたのである。香織が事前に入手した『飛姫種の戦闘はPSの機能と残存エネルギーに依存しきっている』という特性を上手く利用した戦術と言えよう。
ただこの戦術、文面だけ見るとえらく簡単に見えるかもしれないが、実際やってみようとするとこれが中々難しい。まず相手にPSの機能を積極的に使わせることでエネルギーを浪費させる時点で相手に依存するため安定せず、相手がエネルギー切れを危惧して保守的な姿勢に出始めると間違いなくジリ貧になり、下手に動けば此方が劣勢になりかねない。
そもそもPSのエネルギー消費を不等号で降順に並べると、大型火器<中型火器≦近接武器<小型火器<防御機能<飛行・加速装置 となる。無論出力や使用時間によってこれらの序列は変動し例外も存在するが、それでも大型火器の燃費が最も悪い事に変わりはない。よってPSの膨大なエネルギーを使い切らせる為には大型火器を積極的に使わせる事が基本になってくるが、多くの飛姫種は(個々の性格にもよるが)基本的に大型火器をあまり使わない。
何より武装類を頻繁に使わせていてはエネルギー切れより前に此方が死にかねない為、総じて効率は悪いと言える。かと言って此方から能動的に攻撃を仕掛けることで防御機能を酷使させてエネルギー切れを起こそうとしても減少するエネルギーは僅かであり、エネルギーが尽きるより前に此方が殺られてしまうだろう。
そもそもPSの防御機能には相手の攻撃を弾き返す性質もある為、刃物や鈍器で攻撃し続けるとなると破損は免れない。徒手格闘であるならば尚更危険なのは言うまでもなく、状況によっては死に直結する。かといって飛び道具や魔術などは消費が大きい上に動作の隙を突かれてしまい、賢い選択とは言い難い。
香織がローザ・ランチャによるPSそのものの無力化を選択した理由もまた、戦術上自身への損害を最小限に抑えるためであった。
このように"飛姫種にエネルギーを浪費させ弱体化を狙う"という戦術の成功率はほぼゼロなのだが、それを五割や九割に引き上げる工夫は(あくまで字面だけ見れば)至極簡単なものであり―――
要するに、数多の武器を用いて高速(大体秒間20発程度のペース)で連続攻撃を叩き込めばいいのである。
「(ふぅん、まさかこうも上手く行くとはねぇ)」
香織から事前に聞き入れていた作戦を見事成功させた刻十は、手に取った脇差型のキーホルダーに目を移す。この一見何の変哲もない―それこそ観光地の売店で売られていそうなキーホルダーこそ、カドム・イムが作った武器の一つにして、刻十の飛姫種無力化作戦に於ける鍵となった存在である。
恐らく彼が手掛けた武器の中でも最小クラスであろうこのキーホルダーの名は『悲願刀九百九十九』という。ペーパーナイフ程度のサイズしかなく、武器としての使い道と言えば暗器(護身・暗殺等の為に隠し持つ武器)くらいしかないような代物であるが、その真価は(カドム・イム製でなく、片手で扱えるサイズの刀剣や鈍器などに限るが)他の武器と併用してこそ発揮される。
「(軽量武器への自己増幅能力付与、だっけ……兎も角これを差し込めば、僕の愛用してるこの剣は僕の意のままに素早く分裂するようになる……ある程度破損したら消えてしまうものの、それでも十分だ)」
その名の通り一度に増殖可能な本数は最大999本(この数に分裂元である武器は含まないため実質千本となる)であり、刻十はこれを初歩的な転移・念動の魔術によって実質的な飛び道具として扱っている。
増殖が999本に達するとその時点で打ち止めとなり18秒間の待機時間に入ってしまうという欠点こそあるが、これは協力者との連携で充分カバー可能なレベルのものである。
「さてと……これでPSは無力化できたし、あとは彼女らを適当に――」
引っぱたいて黙らせでもすればいいかな 刻十がそう言い終えるより前に、寝室全体へと火の気を伴わない強力な波動が巻き起こり、飛姫種部隊三名を除く寝室内部の全てを―彼女らの敵から家具や照明器具、床材に至るまで―盛大に吹き飛ばした。
幸いにも衝撃波を免れたジランと羽辰が他の三名を吹き飛んだ家具や照明器具の破片などから守ったため大した負傷者は出なかったが、見れば三名の飛姫種はそれぞれ三者三様に個性的な武器を手にしている。
「PSを無力化できたくらいで、いい気になってんじゃないわよ!」
そう叫ぶのは、細長いツインテールを棚引かせた気の強そうな山猫系禽獣種の黒木柚葉。
掲げているのは身の丈程もある巨大なウォーハンマーで、重厚感に溢れた群青色のそれには刺々しい魔神か悪魔のようなもののような意匠が見られる。
「そうそう、僕らにはまだコレがあるからねぇ」
黒木に比べて落ち着いた様子の鳩系羽毛種ノーラ・フィムは、ハンドボールほどの大きさで光沢を放つ漆黒の球体を抱えている。
「左様。PSに頼ってしか戦えぬ飛姫種など、ゴミ」
赤い龍の頭を模したような(HK79に近いデザインの)グレネードランチャーを片手に前回死んだ同僚の存在をあっさり否定するのは、中型獣脚類に近い外見の地龍種・疾手右天。
かくして飛姫種達との戦いは、想定外の第二段階へと突入する。
次回、五龍刃をも上回る『六神器』『三皇砲』に秘められた脅威の力!