第二十四話 ネカフェから失礼致します
かくしてラビーレマへ辿り着いた三人だったが・・・
―翌日・ラビーレマ首都圏―
『さて、そういうわけでだ。俺らは今変装かましてラビーレマ首都圏某所―つーか東ゾイロス高校のすぐ近所にあるネカフェに居る訳だが』
『うん』
『だねぇ』
『何か絶賛行き詰まり中だよなこの状況』
『そうね』
『冗談抜きでやばいね』
お互い離れ離れの個室を取り、魔術道具による簡単な念話によって会話する三人。しかし現在三人は皆、総じてパソコンの前で項垂れていた。兆しが現れたのは何時頃だったか、三人とも移動途中から徐々に疲れが出始め、ラビーレマ首都圏に着く頃には不老不死である筈のニコラさえもかなり疲弊した状態になってしまっていた。
『何が原因なんだろ……』
『……ニコラ、お前何か知ってるんじゃねぇか?ラビーレマ独自の感染症とか、疾患とか』
『あるにはあるけどさ、どれもこんな症状じゃないわ……』
『じゃあ何が原因なんだ…?税関回避ルートでの長距離移動に備えて事前に疲労止めの薬飲んでたよな?確か香織の師匠の……』
『トリロ婆様直伝のアレね。効き目は確かだよ?』
『そりゃそうよ。大昔の薬学の教科書にも大きく書いてあるもの。「サキモリガの幼虫はタテムシと呼ばれ、その内蔵は疲労回復に効果覿面である」って。薬学の先生、生徒思いでサービス問題とかけっこう出してくれてたんだけど、テストには毎回その問題が出ててね。嫌でも覚えたわ』
『そうかよ……じゃあ香織、トリロ婆様はこの薬の副作用とか言及してたりしたか?』
『いやそれが……何にも無し。ノモシア圏内で使う分にはほぼ万能って言ってたけど……ちょい待ち、ノモシア圏内?』
香織は思い立ったように重い身体を持ち上げ、スリープモードにあったパソコンを叩き起こす。SFめいた大陸だというのにこういった細かい部分は現代の地球そのままである事に安堵しつつ、検索エンジンを立ち上げキーワードを入力。
検索結果で出てきたページを幾つか見て回った後、香織は机へ盛大に倒れ込み、その後か細い声で言った。
『ごめん。薬なんだけどさ……あったわ、副作用』
『……マジで?』
『……どんな副作用だ?』
『これさ……ノモシア区域以外の水・植物と併せて摂取すると真逆に作用するらしいの……』
それを聞いて二人は納得した。というのも彼らはこの薬を服用するに当たり、その辺の量販店でアクサノを原産地とする果実『キツルギ(学名:ムサ・マユシェンシス)』を原料とする乳酸飲料を購入。それを水代わりに薬を服用していたのである。
『つまり俺らは、疲労防止のつもりで疲労を増幅させる薬を飲んでたと……』
『大学の教科書には載ってなかったんだけどねぇ……』
『論文として公的に発表されて学会で認可されたのが実に20年前の事だから、この話』
『あぁ…それじゃ知らないわ。それで、対処法は?』
『ビタミンC入りの炭酸飲料……その辺の自販機にある奴で事足りるみたい』
『マジでか……ちょい買って来るわ』
繁の買ってきた炭酸飲料の効果は凄まじく、疲労感はすぐさま回復した。それこそ、吹き飛ぶという表現が適切なほどに。
―街中―
「効いたな、炭酸飲料」
「まさかあそこまでの即効性とは思わなかったよ」
「凄い。流石ビタミンC凄い」
「ていうか炭酸が地味に効いた。あとビタミンC以外に入ってた諸々の栄養素も。副作用を打ち消したのか、薬の効能自体が無かったことになったのか、どっちでもいいやってぐらいに」
「全くだな。さて、早速スタジオと情報の確保を――ぬぉ!?な、何事だ!?」
突然の地鳴りと逃げ惑う人々の悲鳴。その源に居たのは外皮が黄土色のワイバーンであった。
ワイバーン。分類学上二足飛行竜というカテゴリに属する大型の脊椎動物であり、前脚が現実世界に於ける翼竜類(プテラノドン等)や翼手目のように発達した大型爬虫類である。
全長はしめて6m。中型肉食恐竜ほどの大きさだが、それでも町中に出れば十分脅威と呼べる存在であろう。
「ワイバーン類……頭骨と鱗からしてシッキタシアス科、角から考えると性別は雌だな……」
「時期と動きを見ると、繁殖期なのにプロポーズしてくれる雄が居なくて気が立ってたみたいだね」
「いや何で冷静に解説してるの!?イトコ同士語らってる所悪いけど、流石に不老不死の私でもこれは逃げるよ!?」
「いやいや、そこは逃げるなよ。ワイバーンなんて元々寿命長い癖に繁殖頻度低くて個体数少ないのに増えすぎて困るってぐらいの戦闘能力がある動物だ。写真や文献での資料は腐るほど在るが、その反面映像資料は極端に少ない。飼育してる施設もカタル・ティゾルでも片手で数えられるぐらいしかない、そんな何か微妙な奴らなんだ。ヴァーミンの有資格者を代表して触れ合ったって罰は当たらんだろ」
「どういう理屈!?」
「私はヴァーミンの有資格者の身内兼相方を代表して触れ合うことにするよ」
「いやだからどういう理屈!?」
等というニコラの突っ込みも意に介さず、二人はワイバーンに向かっていく。
繁は正面からトリッキーな動きでワイバーンを挑発するように走り寄り、それに続く形で香織はその背中に飛び乗る。
かくして人々の逃げ惑う中、香織と繁のコンビによる奇策と魔術を駆使したワイバーン狩りが始まるかと思われた。
しかしその予想は、大きく外れることとなった。
荒ぶるワイバーンの足下から、突如緑色をした炎が上がったのである。
突如上がった炎の正体とは!?