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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第二百三十九話 衰退の飛姫種





香織が見出した飛姫種攻略の鍵とは……

―第二百三十七話より・娯楽室―


「ッく……やはり我々の力が比類無きものであるとはいえ、四体二は少々キツいですわ……」

「狼狽えるなコノイ、落ち着けッ。まだ音を上げるような時間じゃないだろ―っぐぉぁ!」

 娯楽室を舞台に繰り広げられる香織・璃桜・生一・聖の四名と飛姫種二名―尖耳種のクストーラ・コノイと兎系禽獣種のオムニ・アルラー―による戦いは"一方的状況の試合ワンサイドゲーム"と言うほどではないものの前者四名が優位に立った状況のまま進んでいた(尚、これは余談だがPS因子さえあれば如何なる種族・形態であっても飛姫種として扱われ、正式には『飛姫型X種』などといった具合に表記される。まぁ近頃はPSにそこまで需要があるわけでもないのでそんなに重要でもないが)。

「雷閃F9!!」

闘獣拳とうじゅうけん三ツ星型みつぼしのかた弾河豚タマフグッ!」

 生一が魔術により雷電から成る矢を放ち、それを追うようにして聖が(チィ)に性質の近いエネルギーで形作られた河豚のようなオーラ弾を放つ。飛び道具を主体とするコノイは距離を取りながらそれらを撃墜しようと銃を連射し、接近戦主体であるアルラーはそんな同僚を庇うように自身のPSに備わった小刀でそれらを掻き消した―――だがその瞬間、彼女の背中に棒状のものがゆっくり突き刺さるような感触が伝わった。

 振り向けば、蔓植物のような意匠が特徴的な深緑と黒の鎧(或いはパワードスーツ)を身に纏った女―もとい、清水香織の姿があった。その両手にはそれぞれ色と長さの異なる槍が握られ、それらの切っ先は確かにアルラーの背に触れていた。

「(……何?)」

 アルラーが心でそう思った刹那、璃桜の強烈な跳び回し蹴りが彼女の横腹に叩き込まれた。

 保身のために不自然な形で幼い身体を手に入れた黒兎は、自らの油断と傲りを悔いながら吹き飛ばされ、壁に激突した。


***


 ローザ・ランチャ。"列王の輪"が有する14形態の一つにして、鉄側の"ランチャ"である。

 園芸が趣味だという尖耳種の美青年グライト・ヴァンリーが担うこの形態の有する二つの機能は、製造者であるカドム・イムをして『地味だが確実で実用的な力』と言わしめた実用的なものである(というか、説明書の該当項目にデカデカとそう書かれてある)。

 対象の『流れを止める』深紅と『上限を下げる』黄金――対象物の内面に作用するこれらの効果は、ランチャの名が示す通りそれぞれ深紅と黄金の槍各一本が対象物に接触することで発動され、以後継続される。曖昧に表記されるこれらの力が及ぶ範囲は(列王の輪を持つ者が認識しうる内にこそ限られるが)実質無限大にもなりうるほどに広く、流れていれば何でも止まるし、何であれ上限があればそれを自由に下げることができる(無論、対象の規模に比例して消費も大きくなる)。

 例えば長い深紅の槍で河川を流れているビニール袋に触れれば水面で制止するし、河川の流れそのものをせき止めることもできる。黄金の短い槍で瓶に触れれば、単にサイズ縮めるだけでなく外見を維持したまま容積だけを少なくすることもできる。

 そこで香織はこの機能を活用し、事前調査などを通じて仕入れた飛姫種とPSに関する情報から割り出した弱点を突くことで戦況を優位に進められると考えたのである。


***


「アルラーさんッ!」

「……ッく……落ち着けコノイ、私は無事だ!」

 激しくめり込んだ壁の中から脱したアルラーは、ふと蹴りを食らった部位に手を当てる。

「(……ッ、肋骨を少しやられたか?ともあれ腹に装甲が無ければ間違いなく死んでいた……防御システム以外は無事なのが救いだが、エネルギーの容量が減らされている……)」

 状況を分析しつつ浮かび上がったアルラーは、複数の刃を展開しながらコノイの手前で身構える。

「粋がるなよ、下等生物がッ!」


 ローザ・ランチャの紅槍でPSの防御システムへのエネルギー供給という"流れ"を止め、金槍でエネルギー容量の"上限"を下げる作戦により、状況は香織の思惑通りに進んでいた。常に万全の状態で勝てる相手に圧勝してばかりだった二人の飛姫種は自分達の盾が失われたことによる不安と恐怖で次第に落ち着きを失っていき、やがては逃げ惑うような立ち回りで力任せの出鱈目な攻撃を放っていた。


「嫌ぁぁぁぁぁ!来るなっ、来るな来るな来るなぁぁっ!」


 初めて感じる"戦死の恐怖"に混乱したコノイは、正面にて魔術発動の構えを取る生一に向けて銃器での集中砲火を浴びせかける――が、彼女にとってそれが逆効果であることは言うまでもない。銃創の痛みは彼女を興奮させ、溢れ出る脳内麻薬が内なる魔力を更に増幅させる。

「さて……いい具合に漲って来ましたし、そろそろ締め括らせて頂きましょう」

 弾が尽きて尚発狂したように銃を振り回すコノイの方へ掌を翳した生一は、その手をゆっくり握り締める。

「……牙雷(ガライ)

 生一が静かに唱えるのと同時に、空中へコノイを取り囲むように雷電の球体が幾つも現れる。それらはやがて長さ1mほどの巨大な針が如し形状へと姿を変え、一斉にコノイをPSごと串刺しにした。その過程で針の一本がコノイの体内に宿るPS因子を破壊したのであろう、彼女の亡骸は瞬時に炭の塊となって砕け散っていった。


「こッ、コノイィィィィィ!貴様等ァ、よくもコノイをぉぉっ!」

「その様子からして相当仲が良かったみたいね」

「仲良し子良し程度で済むものかぁッ!奴と私は言わば運命共同体!それを殺され黙っていられようか!まして我らはPS以外に道のない生粋の飛姫種!ダリア様はそんな我らに救いの手を差し伸べて下さった、言わば救世主だ!だというのに貴様等は―――ぶごぁぇっ!?」

 喚き散らすアルラーの腹を殴りつけたのは、若干彼女よりも背の高い聖であった。小柄な体躯に似合わずパワフルな白兵戦で戦う格闘士グラップラーなだけあり、その拳はPSの装甲版をいとも容易く粉砕した。

「っぅ……が……な、なに……を……」

「……何が『PS以外に道のない生粋の飛姫種』だ、バカタレ。深く考えもせん内から己の生き様を大袈裟に断言する奴があるか。今日日小手先で六万だか十五万日だかまで伸びたヒトの生だ、何が起ころうと不思議ではなかろうが」

「……」

「まして貴様が何日を生きた?その見て呉れが偽りとしても、恐らく一万五千にも遠く及ぶまい。そんな小娘の分際で道がこれしかないだと?……大概にしろよクソガキがぁっ!」

 聖の猛烈な蹴りが、アルラーの腹に叩き込まれた。怒りと苛立ちの籠もった力強い蹴りは彼女の背骨をもへし折り、その華奢な身体を空中へと打ち上げる。

「哀れなクズめ、せめてもの慈悲だ。トドメぐらいは派手に刺してやる……」

 ぐっと手足に力を込めて屈み込んだ聖は、全身の力を込めた右腕を振り上げながら叫ぶ。

闘獣拳とうじゅうけん八ツ星型やつぼしのかたァッ!」

 垂直に突き上げられた右手の指は、鋭い五本の爪により毛皮や筋繊維を裂き、怪力により骨を砕き、両の肺を大幅に抉り心臓を掴んだ状態でアルラーの胴体を貫通する。

獣帝炎上掌(ジュウテイエンジョウショウ)ッ!」

 叫ぶと同時に聖が抉りだした心臓を握り潰すのと同時に耳身を劈く破裂音が響き渡り、アルラーの小さな身体が薄平たい細切れの肉片になって周囲に飛び散った――かと思えば、飛び散った肉片(あるいは骨片)は床面へ落下するより早く一斉に燃え上がり、一瞬でただの灰になってしまった。


「ざっとこんなものか……長引かせてすまなかったな。ああいう手合いを見ているとついイラついてしまうタチなもので」

「いやいや、凄いもん見せて貰ったよ。しかし(チィ)に闘獣拳か……良い具合に掘り出し物が見付かったわ」

「(清水殿が何やら変なことを企んでおられるようだが見て見ぬふりをしよう……)全くですよ風戸殿。あの雌兎への言葉も的を射たものでしたし、何よりあなたの動きは無駄がない」

「格好良かったですよ聖さん。闘獣拳が元々そうなのかもしれませんが、あなたの獣らしさがいい意味でふんだんに醸し出されていたと思います」


 かくして二人の飛姫種を倒した四人は、それぞれ別々のルートから娯楽室を後にした。

次回、飛姫種部隊幹部が続々登場予定!

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