第二百三十七話 五龍刃の振るわれる闘争
五龍刃の力とは?
―前回より・浴場―
ニコラと春樹が瓜生の『瞬きする間にも皆殺しにできる』という言葉を単なる虚仮威しとも言い切れないと覚るのは、幸運にも比較的早い段階での事となる。
その名の通り表面上五つあるとされる五龍刃に属する武器はいずれも単体で十二分に機能する強力な隠しギミック(厳密には固有効果と言った方が正しいと執筆中に気付いたので以下それで通す)を持つばかりでなく、純粋に刃物としての性能も高く全体的に扱いやすい性能を誇る。
その中でも百合系葉脈種・瓜生の振るう『黒羽槍ホーガン』に備わった固有効果は些か複雑ですぐさま成果を出せるようなものではないのだが、その分柔軟性があり瓜生の義妹である啼兎系禽獣種・玖珠の持つ『紅華剣イザヨイ』と大いにシナジーするものである。
「シャッ!」
より機動力と威力の増したニコラの(第百七十七話以来実に六十話ぶりの登場となる)蛾型弾幕が黄金色の群れを成して瓜生に襲い掛かる。無論現在のそれは敵の肉体を貫通し破壊する仕様であるため、貧相な体つきの瓜生では(当たり所にもよるが)場合によっては掠っただけでも大事に成りかねない(因みに"貧相"との表現はあくまで彼女らを貶める為に用いているのであり、貧乳・幼児体型を差別する気は毛頭ない事を表記しておく)。
しかし瓜生は、雹のように降り注ぐそれらの約半数を黒羽槍ホーガンの一振りで打ち消し、更にもう二振りで四半数ずつと、全弾を跡形もなく消し去ってしまった。同時に槍の殆どを埋め尽くす黒い羽毛のような紋様の一部が純白に変色しているのが解る。
「ふン、弾薬や火炎で私を殺せるなんて思わない事ね。私の持つ黒羽槍ホーガンはそういった類のものを存在ごと吸収して無力化してしまうの。見えるでしょう?この白くなった羽毛の紋様が。この羽根の一枚でも黒い内は―いいえ、例え全てが白くなろうとも、私がこの槍を一振りすれば例え大陸を滅ぼすほどの核弾頭でさえも無に帰すのよ。まぁ、全てが白くなった状態で更に吸収効果を使うと柄から先が立体映像に成り変わって槍として機能しなくなるのがネックだけれど……」
「お姉様の黒羽槍が槍として成り立たなくなる前に、私の紅華剣があなた達を細切れにすれば無問題!ですわっ!」
叫ぶのと同時に跳び上がった玖珠が紅華剣の刃先を床面に突き立てると、柄の部分に備わった薔薇の花弁が無数の細かな刃の弾幕となって一斉に射出される。それと同時に瓜生が黒羽槍を振るって自身と義妹とに迫り来る刃を槍で吸収し、春樹もニコラを盾にして無数の刃を防御する。
そんな四人を尻目にあらゆる角度へと飛んでいった花弁型の刃は、銃弾のような勢いで浴場内の外壁や小物などを無差別に破壊していく。この無差別極まりない刃の射出こそ、紅華剣の有する固有効果の一つである。火の気を発することなくライフル弾に匹敵する威力を発揮できる反面、その威力がほぼ全ての方向へ無差別に飛んでいくため他に味方がいる場合巻き添えにする危険性を常に孕んでおり扱いには注意が必要である。
「……っと、仲間を盾にしてやり過ごすとは……流石我が国を脅かす邪悪、仲間さえも道具に過ぎないという事なのね」
「なんて非道なのでしょう、虫唾が走りますわ」
あからさまな態度で蔑む二人に対し、春樹は表情一つ変えずに淡々と答える。
「勘違いしちゃならんのだ。うちはリーダーっていうか、司会が仲間意識について凄く五月蠅いから道具扱いなんてしたら即時物理的に首が飛ぶのだ」
「そう、その通りよ。さっき私がこの子の盾になったのは、あくまで同意の上での話。そうしないとこの状況を切り抜けられなかったからそうしたまでのこと」
傷だらけで床面に倒れ込んだままのニコラは、しかし全く危機感のない口調で語る。
「そう、それは大した仲間意識ね……だったら、そのまま友情ごっこでもしてながらさっさと死ぬといいわ――玖珠ッ!」
「はい、お姉様!」
瓜生の指示を受けた玖珠は、知覚に転がっていた鉢植えに紅華剣を突き刺す。鉢植えにされていた何らかの花と思しき植物が跡形も無く消滅し、紅の刃は怪しげなオーラを身に纏う。玖珠は剣を一振りしてそのオーラを光線に変えて春樹に浴びせかける。
「っ!?」
光線の直撃した春樹の全身から、何かが抜け落ちたような気がした。
「ふン!まんまと光線を浴びたようですわね!その光線を浴びたものはなんであろうとも無防備なまま動きが止まってしまうのですわよ!適当な植物を吸い取って養分にしなければならず時間制限までついていますけれど、その効果には何者も抗えませんわ!」
「先程の質量では長くてあと30秒が精々だろうけど、私にかかればこの距離でも30秒あれば充分なのよ!さぁお死になさい、小娘っ!」
そう言って黒羽槍の切っ先を春樹に向けた瓜生は柄の先端部を空いた掌で押すように突く。すると槍に刻まれた白い羽根の紋様が立体映像のように浮き上がり、ドリルのように渦を作って春樹目掛けて射出される。
「黒羽槍が単なる防御機能の備わっただけの槍だと思ったら大間違いよ!飛び道具吸収に応じて増える白羽の紋様は、こうして実体化させて飛ばすことだってできるのッ!」
このままならばすぐにでもあの生意気なチビは死ぬ。あの狐は瀕死なのだから後で始末すればいい。
「(勝利確定ッ!)」
「(第二百三十七話完、ですわッ!)」
二人は勝利を確信していた。だが、ここで事態は(あくまで二人にとって)予想外の展開を見せる。
「(―って、え?)」
「(な、何故……何故あの女がっ!?)」
驚愕する二人が目にしたもの。それは、無防備になった筈の春樹を守るように立ちふさがり、結果として渦巻く白羽紋様をもろに受け、身体の約三分の一が円形に抉られたような姿で尚達続けるニコラの姿であった。
更にこの時、観察眼に優れた瓜生は更に(あくまで二人にとって)衝撃的な事実を目の当たりにする。
「(しかもあの女、傷が再生してるっ!?)」
……ごく当たり前の光景だよね?