第二百三十六話 戦闘開始っ!
前回は本格的にすまんかった
―前回より・浴室―
「「……ッッ!」」
暫しの間呆気に取られていた二人であったが、すぐさま我に返りそれぞれの武器を構える。
「どこの誰かは知らないけれど、ともかくここに土足で立ち入った事を後悔させてあげるわ!」
「覚悟するですのッ、女学生忍者戦隊ゴニンジャイ!」
二人が構えた武器は、鴉のような意匠が特徴的な円錐形の槍と深紅を基調に据えた攻撃的なカラーリングをした蔓薔薇を思わせるエストックであった。
これら二振りの武器はどちらも五龍刃の一つとして設計された代物であり、名はそれぞれ『黒羽槍ホーガン』『紅華剣イザヨイ』という。
「フッ……突っ込んで貰えなかったのが極端に無念だけど、やるしかないようね!」
「まさにその通りなのだ!三人とも、ここは僕らに任せて先に行くのだ!」
瞬時に仮装衣装を取り払ったガマニンジャイとウサニンジャイ―もといニコラ・フォックスと芽浦春樹は、同じく一瞬にして仮装を解除したホウオウニンジャイ、タツニンジャイ、イカニンジャイ―もとい清水香織、デーツ・イスハクル、リューラ・フォスコドルの三名に意気揚々と告げる。
その言葉を受けた三名はそれぞれ別の方角へ進みながら、各自なりの簡単な仕草で『了解』の意志を伝え浴場を後にした。
「やっぱりツジラの仲間だったのね……」
「ある意味予想通り、ですわね。しかし何が来ようとも、瓜生お姉様の『ホーガン』と私の『イザヨイ』があればどうということはありませんわ。ねぇ、お姉様?」
「そうよ、玖珠。あなたと私は相性抜群、あの程度の相手なら瞬きする内にだって皆殺しに――ッッッ!」
瓜生の話を遮るように、小さな光弾が彼女の顔面目掛けて飛来する。しかし彼女はその動きを見切り、手元のホーガンで掻き消してしまった。
「お見事。そんな特別なものに選ばれるだけあって、見上げた反射神経なのだ。敵なのと、僕より小さいのが残念だけど」
「……どの意味かしら?」
「どの意味でもあるんじゃないの」
かくしてカドム武器を持つ者同士による二対二の戦闘が開始された。
―同時刻・廊下―
「相変わらずどこもかしこもこんなんなのねー」
二人の官邸特選隊メンバーをニコラと春樹に任せその場を離脱した香織は、見えざる柔らかい壁がそびえ立つように立ち込める濃厚な甘い匂いの中を進んでいた。少女向けに作られたこの辺りのスペースには洋菓子や果実、花などの芳香成分(を、真似て作られた合成香料)が空調設備を通じて垂れ流しにされているのである。
「苦しい訳じゃないけど、やっぱり不自然な臭いがこうも濃いってなると嫌になるわぁ。特に私なんて香水とか嫌いなクチだから余計に――「ぐぼぇぁっ!」――いッ!?」
突如、右隣の壁を突き破って飛び出してきた青と白から成る巨大な物体。香織は一瞬何か解らず後退ったが、すぐにそれが新入りの仲間である事に気付く。
「っク、ふ……何と言うことだ、全盛期ならば機銃弾の箱二ダースまでなら余裕で避けられたこの私があの程度の砲撃に怯むなど……翼がなかったのがせめてもの幸いか……」
「り、璃桜さん!?」
「ン、おぉ、これはこれは清水殿。一体どうなされたのです?」
「とりあえず戦線離脱してきたけど―ってか『どうした』って、それはこっちの台詞だわ。璃桜さんこそ一体何があったの?」
「何があったと言われましても、変に気分の高揚したらしいラーミャ殿が私の操縦を無視して強引な突入を敢行されまして、娯楽目的と思しき部屋に降り立ったのですが」
「うん、そこまではラーミャから確認取ってるからこっちで把握できてるよ。それから?」
「そこで唐突にお腹が空きまして、何か食べねばと思っていたところ美味しそうな食材や料理を見付けたので、どうせ滅ぼしてしまうのだから頂いておこうという結論に至りましてね。竜属種の内臓が頑丈なのは清水殿も知っての通りですから」
「生の野菜とか肉とか魚とかを頂いてたわけだ(でも何で娯楽目的の部屋に食べ物が……?)」
香織はその疑問を敢えて口に出さなかったが、その答えはすぐにでも解り始めることとなる。
「はい。その時ふと味や食感に違和感を感じたのですが、常温で放置されていれば何があってもおかしくはあるまいと割り切って食べ続けました。逼迫した状況だったので、そんな事などは些細な事だったのです」
元々大食らいの傾向が強かった璃桜だが、体内に流れる夜魔幻の血との同調に成功して以後その食欲は更に強まっていた。そのお陰もあってか出撃前に食事を用意した十日町邸の調理師達は軽く地獄を見たそうだが、それはまた別の話(グソクムシの揚げ物を作った調理師曰く『笑顔で元気に沢山食べてくれるのはとても嬉しいことだが、喜びの代価に右手と左脚と故郷で稼業を継いで大成している実弟の肉体でも奪われるのではないかと、有り得もしない不安に囚われてしまった』との事)。
「しかし問題は皿に盛りつけられた焼き飯を食べようとした時に起こりました」
「問題って……味と食感に違和感を感じる以上の?」
「はい、それはもう。アニメとまるで違うデザインの変形ロボット玩具程に問題でしたよ。何せ皿から離れないんですから」
「そのパターンよくあるからどれがどれだか――って、皿から離れない!?」
「はい。というか、箸や匙さえ通らないんです。それどころかどうにも皿と料理そのものの素材が共通なようで……」
「……璃桜さんさぁ、それってもしかしなくても……」
「はい、飯事用の食品サンプルでした。余りにも精密な作りで本物そっくりに臭い付けまでされていたので、同行していた生一殿や風戸殿に指摘を頂くまで気付けませんでしたが」
「いや、それは気付こうよ……で、それから何が?」
「それから適当に探索を続けていたのですが、そこで突然敵襲を受けましてね」
「まさか、官邸特選隊とかいう奴ら?」
「肩書きは知りませんが、何やらプラモデルのパーツを着て宙に浮いていました」
「宙に浮く……飛姫種かね。それで、そいつらからの砲撃で吹っ飛ばされて今に至ると」
「そういう事です。お二人はまだ中に居るでしょうから、早めに援護へ向かわねば……」
「よっしゃ、そういう事なら私も行くわ。丁度飛姫種と戦ってみたかったのよね」
次回、黒羽槍と紅華剣の隠しギミックとは!?