第二百三十二話 妄想皇帝スパルタ系
ガティスの狂気、その正体とは……
―前回より・地下空間―
「"とある計画"は、名を『飛姫種究極化計画』と言う……そう、この私:ガティス・アスタリクこそは、他に類を見ない上質なPS因子を持つ、言わば最強の飛姫種だったのだ!」
衝撃的な事実は、三人に演技でない素の絶句をもたらした。
「そもそもこの計画、名こそ『究極化』とは付けども実質的には『融合』と言えた。即ち、PSを飛姫種の肉体へと組み込み一体化させる事で、既存のPS及び飛姫種の持ちうるありとあらゆる弱点を克服せし、完全にして無欠、無比にして無双、極限にして究極の飛姫種を作り出そうという訳だ。とはいえ―これは流石に脳細胞が生物以下の貴様等如きでも分かり切ったことであろうが―PSは無機物であり、ヒトは有機物だ。故にそれらを根底から同調・一体化させるという事は並大抵の事ではない」
台詞が長いのでこの辺りへ地の文を書き入れておく。
「しかも現状のPSは実用性と需要の無さからろくに研究の進んでいない、時代遅れかつ謎だらけの代物、まして人体に組み込むなど以ての外。その現状を知っていた政府の愚物共は『被験者の生存率は極めて低い』という言葉に踊らされ、私という終身刑囚を物好きな研究者集団に引き渡した。実質的な死刑になると踏んだのだろう――だが、その思い込みは見事に外れた。狂気の人体実験を生き残りPSと融合した私は、この世界の如何なる生命体の上も行く至高の存在となったのだ!」
ガティスは自分の身体をこれ見よがしに見せつけながら言う。
「見よ、この完成された肉体を!一見只の板金鎧に見えようが、これら全ては私の肉体と一体化したPSに他ならない!エネルギー生成機関をも体内に取り込んだため、従来のPSの機能を実質ノーコストで扱えると言うわけだ―――が、まぁ詳しい説明は省く。それより何より貴様等に話しておくべきは、この神聖アスタリク帝国の起源だろうからなぁ。この極めて重要な話にあって貴様等愚物に居眠りなんぞされては皇帝の名が廃るというもの、ろくに掃除していない耳穴カっ穿ってよォく聞けィ!」
ガティスの話した内容にその当時の真実を織り交ぜて要約すると、次のようになる。
・手術を生き延びPS人間となったガティスはその力を危険視され、当時飛姫種の戦力を欲していた真宝に売り渡される。
・その力に目をつけたダリアは、幼女化や記憶操作などで自分好みにカスタマイズしたガティスを新しい手駒にしようとする。
・しかし人体実験の影響で余分に強化されたPSの防御システムはダリアの術をも寄せ付けなかった。
・その事から自分を無敵なのだと勘違いしたガティスはご自慢の精神論でダリア達の在り方を頭ごなしに否定し、あまつさえこの国は自分が支配し正しく導くべきだとのたまう始末。
・ともすればダリア側もガティスを生かしておく理由は無くなるわけだが、完全防御を誇るガティスの殺害は至難の業。殺せないこともないがいささか面倒であった。
・そこでダリアはガティスを拘束し、真宝の地下に作った廃棄物処理用の水路へ放逐する。
・放逐されたガティスは、劣悪極まりない環境に加え常軌を逸した生物の犇く生き地獄のような水路の中にあって持ち前の精神論とPS由来の尋常でない生命力及び身体能力によってしぶとく生き残った。
・そして水路生活の中で精神が研磨されたことにより彼女は自身の前世と使命、そして秘められた力の存在を悟った。
・彼女の前世は黎明期に於いて世界最強の武力を誇ったがために歴史の闇へ葬られたさる大帝国を統べる女帝であり、その生まれ変わりであるガティスには地上での王政復古に備え地下で強大な国家を作り上げるという使命があったのである。
・また女帝たる彼女は国の守護神にして力の源たる武神チャッキ・ニョッキーの加護により、死者を器物として転生させる力を持つ。特に己の弱さ故に死んでいった者の魂は、弱さという大罪を償うために進んで器物への転生による従事を名乗り出るという。
・その証拠に、嘗てガティス(なり)の(しかし色々と最悪な)教育によって死んでいった学生達の魂は器物への転生を希望してきたという。寛容な(性格とは程遠いが、自分ではそう思い込んでいる)ガティスはそれら全てを受け入れ、同時に学生達の罪を許し、その魂をあらゆる器物に転生させた。
・というのはガティス自身の妄想に過ぎず、実際には苛酷な環境で死をも許されない極限状態によって精神に異常を来たし、そんなあり得ない思い込みをするようになってしまっただけである(但し彼女にその自覚はなく、妄想を全て真実だと思い込んでしまっている)。
「故に私は孤高にして多くの魂を背負う大帝国の女帝というわけだ!」
「ほう、それはそれはなんとも」
「居眠りをする間もなき素晴らしいお話でしたわ」
「感動的ですぅ」
誇らしげに自分の妄想を語るガティスを、三人は上辺だけの態度で褒め称える。本心としては揃って心底バカにしていたが、それを口に出す事はなかった。セットした掌を反転するのはまだ早いというわけだろう。
「そうか。素晴らしいか、感動的か。当然とはいえそう言われるのはやはり気持ちが良いな。よし、決めたぞ」
ガティスはPSの機能で手元にスタンダードな長剣を作り出し、切っ先を三人に向け言う。
「貴様らを我が国の国民として迎え入れてやろう。なに、心配することはない。貴様ら根性無しの癖に中々上質な魂を持っているようだしな、きっといい器物に転生できようぞ」
何の事はない、単なる妄想でした~ッッッ!
次回、三人の本気が脅威の短期決戦を実現する!?