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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第二百三十一話 真宝地下皇帝ガティス・アスタリク





自称皇帝の過去とは……

―前回より・地下空間―


砂利(ジャリ)共が……我が帝国に何用だ?」


 三人に問いかける女の姿は、どうにも不可解なものであった。プレートアーマーのような灰色の外皮は如何にも無機質で機械人間のような存在を思わせたが、後頭部から棚引く長髪の質感は明らかに有機生命体のものであった。となると『鎧を着込んだヒト』とも判断できそうなものだが『言葉を発する度に亀の(クチバシ)を思わせる口元が動く』『呼吸に合わせて胸や腹の辺りが動く』『瞼までもが灰色の外皮から成る』などの機能は、恐らく如何なる工業技術を以てしても実現し得ない機能であろう。

 そんな"帝国の主"を自称する彼女の問いかけに答えたのはレノーギであった。

「何の用という訳でも無いのですが、つい先程道に迷ってしまいましてね。気付けば地下水路で先程の化け物に追い回された挙げ句、貴方様の帝国へ迷い込んでしまったので御座います」

 種族も知れない女へのレノーギの対応は、普段の彼からは考えられないほど丁寧なものであった。生来の癖により本能的に『この相手には下手に出ておいた方がいい』と判断した彼は、無意識の内に上辺だけの敬意で強者へ媚び(へつら)う新社会人のような態度を取っていたのである。

「あくまで偶然に……か」

 謎の女は瞼を閉じ、首を捻って思考を反芻するようなフリをしつつ、静かに口を開く。

「ひとまず名乗れ。貴様等は今、幸運にも大国を統べる皇帝の眼前に居る事を許されているのだ。目上の者に名を名乗るのは礼儀だろうが」

「これは失礼。私めはカル・ガロンと申します。そして此奴めらは同僚のオルニ・ディトリマとアルヴ・リョスィ」

「お初にお目にかかります」

「どうぞ宜しく」

 三人は謎の女を相手に偽名を名乗る事にした。特に明確な意味はない。レノーギが『何となく』そうすべきと考えた為である。

「何とも安っぽい名だな……まぁ、貴様らには似合いか。

我が名はガティス・アスタリク。この神聖アスタリク帝国を統べる皇帝である」「皇帝、ですか」

「そう、皇帝だ。とはいえ、(くらい)に就き国を成したのはつい最近だがな……」


 等と言うガティスの態度から『これから格好良く昔語りするから聞き手に回れ』という彼女の本心を察した三人はそれぞれ『と、言うと?』『どういう事です?』等という無難な言葉を返しておく。


「今思えばつまらない過去だが、我は嘗て教職者でな。名は忘れたがどこだかの高等学校で体育を教えていた。教育実習で苦汁を飲まされた経験から『教師は学生に軽視されたら終わり』という真理を見出した私は、兎も角厳格な教師で有ろうと努力を重ねた。粗相をやらかした生徒を罰し、不正に走った生徒に制裁を下し、無能な生徒には精神・肉体の両面でその事を自覚させ、逆らう者の人権を認めず家畜同然に扱うことで、生徒の人格矯正に尽力した。周囲は私を非道な暴力教師だと非難したが、そんな根性無し共の声など聞き入れるまでもない事は明かだ」


 自ら『つまらない過去』と言いながらも、ガティスの語り口はどこか楽しげでさえあった。


「真に優れた教育とは、体罰と制裁に始まり支配と隷属に終わる。許容や慈愛は生徒の精神を堕落させ根性を磨り減らし、結果として惰弱な社会不適合者にし、そこから負のループへと陥る……そのループを断ち切る手立ては徹底した淘汰の他にない。淘汰による破滅を恐れた生徒は修練に励み、やがては如何なる逆境をも打ち倒す無敵の社会人となる。途中不登校や自殺に走る生徒も現れはしたが、とんだ根性無しのクズ共だ。この程度でくたばるような命に価値などありはせん。自殺など淘汰されて然るべき能無しの逃げに過ぎん。鬱病などは以ての外、現実に耐えうる精神力や根性のない弱者共の弁明だ。そうまでして逃げたがるのなら、いっそ殺してやった方がそいつの為だ。そう思うだろう?」

「失礼ながら判断しかねますな。職業柄そこまで深く考える機会など無かったもので」

「ふン、保身のため主体性を捨てた臆病者めが。貴様のような輩のせいで国が弱るんだ……まぁいい、兎も角私は考えを曲げなかった。否、真理に従う正義故に曲げてはならなかったと言うべきか。だがそんな私の志とは裏腹に、生徒共は次々と私の元を逃げ出し、同僚や上司は私を糾弾し、家族にさえも見捨てられ……遂に私は『多くの生徒を自殺に追い込んだ暴力教師』の汚名を着せられ、裁判の末に有罪判決が下った。だが判決が不当なのは誰が見ても明らかだ。悪法と戦うため、私は控訴を試みた。だが、判決はまるで覆らなかった。それどころか裁判所の耄碌共めは―恐らく私の態度が気に食わかったのだろう――私を『更生・社会復帰の余地無き人格破綻者』と決めつけ、終身刑を言い渡したッ!」

 大声で言い放ったガディスは、呼吸を整え続けた。

「……だが、例え世の全てが私を見捨てようとも天だけは私を見捨てなかった。投獄中の健康診断で偶然判明した"事実"により、私は"とある計画"の被験者に選ばれたのだ……」

「……事実?」

「……とある計画?」

「それは一体……」


 雰囲気に合わせて如何にも『それは一体なんだろうか』という風な素振りを見せる三人に、ガディスは勿体ぶる間もなくストレートに言い放つ。


「"とある計画"は、名を『飛姫種究極化計画』と言う……そう、この私:ガティス・アスタリクこそは、他に類を見ない上質なPS因子を持つ、言わば最強と言うに相応しい飛姫種だったのだ!」

次回、ガティス・アスタリクの特徴的な姿の秘密が明らかに!

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