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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第二百三十話 三人が下水で鰻とランニング




ウナギめいた生物から逃れるべくレノーギが取った行動とは……?

―前回より―


「なっ、はっ、なんなんですかあれぇぇぇぇ!」

「知らないわよ!っていうかレノーギ、もっとスピード出ないの!?」

「足場悪ぃんだ無茶言うな!これが限界だ!つーか喋んな、舌噛むぞ!」


 追走劇は未だ続いていた。それぞれ体力がない、身体の構造上走るのが遅いという理由でシャラとデトラを抱えて走るレノーギは、足場が悪く複雑に入り組んだ水路の通路を全力疾走。追っ手のウナギめいた生物も負けじとそれを的確に追尾してくる。一度は迎撃も考えた三人だったが、そもそも三人は射撃武器や魔術にばかり特化した後衛人員であったため、攻撃に十分な距離を確保出来ないと判断。逃亡せざるを得ない状況にあった。


「しかし何なんだよありゃあ!目も鼻も耳も鱗もねぇ癖に口ばかり無駄にデカくなりやがって、マジで何モンだよ!?」

「この前テレビでやってた、ミミズみたいなイモリじゃないですかっ?ちょうどあんな感じでしたしっ」

「それはないでしょ、あれってアクサノみたいなところにしかいない奴だし」

 二人が話している『ミミズのようなイモリ』とは、有尾類(イモリ)無尾類(カエル)に次ぐ第三の両生類ことアシナシイモリである。無足目というグループに属するこの両生類はその名の通り脚というものを持たず、その同位体は細長い円筒状で多くの体節的な環状の皮膚の襞(環帯)を持つ。そのため全体的な姿は巨大なミミズにも例えられるのである(また、無足類を意味するGymnophionaという単語は『裸の蛇』を意味し、こちらもこの種の形態を的確に捉えた名称と言えよう)。

 目は肉に埋もれ、鼓膜も持たず、餌を探る際は口先に生えた小さな触手に依存しきった活動が基本となる。触手は体内に引っ込める事ができ、これを蛇がそうするようにヤコブソン器官へと引っ張り込んで周囲の臭いを察知するのである。また、見た目に反して生物学的な定義に基づく尾(肛門より後ろの部分)も短く、蛇やウナギなどと違って肛門は身体の末端部に位置している。多くの種は危険を察知するとヌタウナギよろしく身体から粘液を分泌して逃れようとするが、中には(他の両生類とは異なる謎の)毒素や噛み付き、水弾ブレスなどで外敵に立ち向かおうとする者もいるという。

 分布は地球とカタル・ティゾルのどちらでも熱帯域に限定され、それ以外の地域での分布は確認されていない。

「だから喋んなってんだろィ。舌ァ噛み切って死んでも責任取れねーぞッ―っどぅぇい!ンの野郎、スピード上げやがったな!?」

「ッッ!やばいわよレノーギ!幾らあんたでもあたし等担いでこの足場を逃げ切るなんて無理よ!」

「そうですよレノーギさん!かくなる上は例の大砲でジェット噴射をッ!あれなら振り切れる筈です!」

馬鹿野郎(バァロィ!ありゃ俺が敵の防御やら壁突破すんのに二分で考えたオリ技だ!お前らの体力で耐えられるスピードじゃねぇだろが!開始三秒で振り落とされてここらの化け物共に食われんのがオチだぞ!」

 シャラの言う『例の大砲』とは、レノーギがカドム・イムより間接的に譲り受け、嘗てブランク・ディメンションで戦った際も使用した無反動砲『カノン・ザ・ラティマー』をミラーで変化させた『共食いを制す双子鮫』の事である。名前の通り双頭の鮫を模したこの大砲は本来吸い込んだ燃料(有機物)の量に応じた火力を有する光線を撃つ武器なのだが、レノーギはこの強力な噴射力をジェット噴射のように利用し敵軍目掛けて突進するという技を編み出していた。

「けどこのまま逃げてたっていずれ追い付かれるでしょ!『確実に死ぬ』か『死ぬかもしれない』なら二番目を取るのが普通じゃないの!?」

「そりゃそうだがなぁ……ッ、下手すりゃ舌ァ噛み切るぐれぇじゃ済まねーぞ?」

「その程度、覚悟の内です!吸盤でも魔術でも使ってしっかりへばり付きますから!」

「……しゃあねぇか、よし。じゃあ良いんだな?目一杯飛ばすぜ……」

 レノーギは背負っていたカノン・ザ・ラティマーをミラーで共食いを制す双子鮫へと変化させ、その銃口を水路へ向け手前の黄色いレバーを引く。すると水中の様々な有機物―生ゴミから紙屑、生死問わず様々な水棲生物等―が大砲へと吸い込まれていく。大体の燃料を吸い上げた所でレノーギは銃口を背後に向け黄色いレバーに手をかける。


「しっかりへばり付いとけよッ!落ちても拾いに行けねーからな!」

「はイッ!」

「解ってるわよ!」


 レノーギが黄色いレバーを勢い良く引っ張ると、双子鮫の銃口から紫色をした光線が発射され、三人を乗せた小型ロケットのように勢い良く飛んでいく。一方のウナギめいた生物は、予期せぬ事態に最初こそ戸惑っていたもののすぐさま立て直し、尚も三人を追い続ける。


―程なくして―


「いッ、だぁ……」

「……曲がれないんなら、そうって最初に言いなさいよ……」

「シャラの障壁が仕事したんだからいいじゃねぇか……」


 共食いを制す双子鮫によるジェット噴射でどうにかウナギめいた生物から逃げ切った三人だったが『自由に方向転換ができない』という致命的な弱点を失念していたレノーギの不手際によりコンクリートの壁へ衝突。怪我こそシャラの障壁でどうにか免れたものの、地下に存在する広大な謎のスペースへ放り出されてしまった。


「まぁ、ああしてなきゃ私ら今頃あいつのお腹ン中だから文句は言わないけど」

「ですね。あんなのに食べられるなんて真っ平ごめんですよ」

「そりゃ誰だってそうだろうよ。だがま、もし食われた時にゃ俺が身体張って引きずり出さぁ。だから安心―――」

 しなァ レノーギが言い終える隙もなく、彼らの眼前からかのウナギめいた生物がぬっと姿を現した。どこの隙間から入り込んだのかは知れないが、薄暗く広大な謎の空間にそれらしいスペースは存在しないように思える。

「ちょっと、嘘でしょ……」

「そんな……」

「やっぱ戦うしかねぇってか……しゃあねぇ、行くぞお前ら」

 かくして渋々戦闘を決意したレノーギがカノン・ザ・ラティマーを構えようとした、次の瞬間。


 何処からか突如『ぬンッ!』という中性的な(そして若干女性寄りの)声が響き渡るのと同時に、左方から突如現れた"何者か"がウナギめいた生物の頭部を拳一発で叩き潰し、一瞬の内に絶命させてしまった。

「……溝魚(ドブウオ)如きが跳ねっ返りおってからに……どいつもこいつも根性無しの軟弱者ばかり……」

 ウナギめいた生物の死体を蹴飛ばした"何者か"―プレートアーマーのような灰色の外骨格と、高等部から棚引く黒のストレートロングヘアが特徴的な種族不明の女―はレノーギ達三人の方へ顔を向け、無表情のまま問いかける。


砂利(ジャリ)共が……我が帝国に何用だ?」

次回、ダリアさえも危険視した自称"皇帝"が登場?

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