第二十三話 Mr.クェインのお気に入り
物語は謎めいた薄暗い一室から始まる・・・
―前回と同時刻・ある一室―
薄暗いその部屋からは、実に悲痛で痛々しい喘ぎ声が響いていた。
喘ぎ声は若い――恐らく十代の――女のものであり、その声には恐怖と苦痛と不快感、そして快楽が混じり合っていた。
それと同じくして鳴り響くのは、生理的な嫌悪感や不快感を催すような、湿った音。
擬音語で表すなら、ぐちょ だとか ねちょ だとか ぬちゃ だとか。
そんな不愉快な音が激しくなる度、喘ぎ声の悲痛さは増していく。
そんな事が続いて、早十数分。
静かになった部屋の中で、男の声がした。
「やはり生娘の精気は良い……二十歳に見たぬ処女のそれは至高……。しかし――「しかしだからと言ってもだ、幼すぎても良くはない。十五に見たない稚児などは、味も悪いし見た目も悪い」
男の変態じみた独り言を遮るように補ったのは、これまた若い――しかし今度は20代程の――女の声。
「おや、誰かと思えば小樽さんではありませんか。一体どうしたのです?」
「お楽しみ中の所失礼致します、Mr.クェイン」
「いえいえ、構いませんよ。丁度今終わったところですから」
「有り難う御座います。では、ご報告致します。今後の戯事についてですが……状況が変わりました」
「状況が変わった……とは?よもや、以前のように現地の空気を感じながらの戯事が出来るようになった、という事ですか?」
「いえ、残念ながらそのようないい変化ではないのです」
「ふむ……そうでしたか。つまり『状況は悪化の一途を辿りつつある』と?」
「左様で御座います。単刀直入に申し上げます。祭品の供給源を、断たれました」
クェインが動揺する様は、暗闇の中でもハッキリと感じ取れた。
「何と……!よりによってもうそろそろ補充せねばならぬという時になってですか……」
「我々の動向を覚った職員共が、感染症の流行を理由に穢れ無き子らの登校を封じたようです。申し訳御座いません、Mr…これも全て私の力不足が招いた事に御座います……」
暗闇の中、小樽はクェインに頭を下げる。
「頭をお上げなさい小樽さん。貴方が謝る理由などどこにもありません」
「しかしこのままでは……」
「心配ご無用。また何か打開策を立てれば良いだけです。我等クブス一派の栄光は、まだ十分取り戻せます」
高らかに宣言するクェインに、小樽は再び申し訳なさそうに話を切り出す。
「それとMr……もう一つ申し上げねばならぬ事が御座います」
「何でしょう?」
「度々不吉な事柄で申し訳ないのですが、職員共が我々を始末しようと刺客を送り込んでくる事が判明したのです」
「刺客ですって?」
「はい。それも音声データによりますと、何でも刺客というのは……二週間前ノモシアで勃発したジュルノブル城襲撃事件の、その主犯であるツジラ・バグテイル一味であるとの事でして……」
「何と!あのツジラ一味が?確かにあのラジオ番組では身の回りに潜む謎や事件を募集していましたが……まさか我々がその手にかかろうとは……」
「まだ確定的ではありませんが、来るという覚悟だけはしておくべきかと」
「そうでしょうね……(しかし何と言うことだ……まさかツジラ一味とは……)」
クェインは頭を抱えた。
「(私はまだ良い……しかし、しかし問題は彼女――ラクラだ。……ラクラ・アスリン……彼女だけは絶対に守り抜かねば……)」
決意を固めるクェイン。そんな彼の決意も知らず、別の一室に備わったベッドで眠り続けるのは、旧式体操着に紺色のブルマーという出で立ちの兎系禽獣種の少女、ラクラ・アスリン。
肉付きが良く豊満な体つきをしながら、まるで幼子のように無邪気に眠る彼女の部屋の床には、先日東ゾイロス高校で見付かったような、全裸に剥かれカラカラに干涸らびた男の死体が転がっていた。
次回、ツジラジスタッフが遂にラビーレマへ!