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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第二百二十八話 カニニニ!!×4




もう蟹ですらないというね……

―解説―


 cryptobiosis(クリプトビオシス)。一部の水棲小動物が乾燥などの厳しい環境変化に耐えるために活動を停止する無代謝の休眠状態をいう。最も有名な例として緩歩動物門があり、多くの方が『不死性物クマムシ』の名を一度は耳にしたことがあるのではないかと思う(とはいえクマムシなら全てがこの能力を持つ訳ではないが)。ミジンコやホウネンエビ(オバケエビ)ブラインシュリンプ(アルテミア)(またの名をシーモンキー)、カブトエビ等の卵(耐久卵)もこれに該当する。


 ある種のクマムシは周囲の乾燥を察知すると体を縮め樽状になり(瞬間的になれるわけではない)、代謝をほぼ止め乾眠(かんみん)と呼ばれる状態に入る。そのプロセスは以下の通りだ。

 状態となったクマムシは体内のグルコースをトレハロースに作り変え極限状態に備える。水分がトレハロースに置き換わることで体液は『粘度は大きく、しかし流動性は失われない』状態となり、生物の体組織を構成する炭水化合物が構造を破壊されることも無く組織の縮退を行う。やがて細胞内の結合水だけを残して水和水や遊離水が全て取り除かれると酸素の代謝も止まり、完全な休眠状態になる。

 乾眠個体は乾燥の他、151度の高温からほぼ絶対零度の超低温、75000気圧の高圧から真空、57万レントゲンの放射能といったような過酷な条件に晒されて尚、水を与えれば再び動き回ることができる(因みに57万レントゲンという放射線量は平均的なホモ・サピエンスを1140回ほど殺せる計算になる)。


―前回より―


「―とまぁ、クマムシの不死性ってのは大体↑で書いたようなもんなわけだが」

「いかにも。しかし言った筈だ、クリプトビオシスを持つのはクマムシだけではないとな。一部甲殻類の卵がそうである他、輪形動物門というグループにも扱える種があると聞く。となれば、動物界きっての大所帯がその力を逃すと思うか?昆虫はあのサイズの動物が自然界でやれることを粗方やり尽くしている。となれば、クリプトビオシスを持つ昆虫くらい居ても何ら不思議で無かろう?」

「成る程な。んでそのクリプトクレイドゥスだかになれる昆虫ってのが、比較的蚊に近ぇと。そういう訳だな?」

「クリプトビオシスだ、童貞めが。それと訂正しろ、私の爆生はあくまで蚊でしかない。ネムリユスリカと言ってな、親虫は乾燥帯の沼地で植物の体液など啜っている軟派な羽虫だが、幼虫(ボウフラ)がクリプトビオシスになればクマムシに匹敵する耐久力を得られる。それを爆生により異能として適合させれば、灼熱や超低温など屁でもない」


 素子はユスリカ幼虫特有の赤い外骨格をゆっくりと波打たせる。因みにユスリカの産卵場所というものは多岐に渡り、河川や湖沼ばかりか用水路や海の潮間帯、水辺の朽木や土壌から陸上など種によって様々である(特に用水路に棲息するものは指標生物として水質調査で重宝される。その区分は四段階ある内の最下位にあたり、同じ区分にはアメリカザリガニやサカマキガイなどが軒を連ねる)。中には自身より大きな水生昆虫や貝類に寄生する変わり種などもいる模様。


「その上私は流星刀(フドウ)の持ち主だ。その防御力は……幾ら童貞とて、言わずとも解るな?」

「勿論」

「ならばこの場ですべきことも」

「心得てらァ」

 そう言ってデッドは両手のフォーゴとジェロを手放しながらゆっくりと(しかし大股で)素子への歩みを進めていく。

「(武器を捨て、投了の意思表示までしてきたか……まぁ、こんな鉄壁の布陣を前にしては無理もないか)」

 等と素子が思案している内に、デッドは彼女の寸前まで歩み寄り立ち止まり、ただ一言「いいよな?」とだけ素子に問い掛ける。

「何を言う、許しを請う必要などない。遠慮なんていらん、存分にやれ。それがお前の――ッが!?」


 刹那、フドウを握り締めていた素子の左腕が根本から引きちぎられた。


「な……あ……ォ゛ア゛!?」

「ありがとうよ。言われた通りやってやったぜ」

「な……き、さまッ……!は、なし――が……違う、ぞ!」

「あ?何の話が違ぇんだよ?遠慮はいらねーから存分にやれっつったのお前じゃねぇか」

「~~ッッ、っgェ、hあ……ぁあ……」

「幾ら強い武器があろうがよ、持ってる腕ごともげちまえば殆ど意味ねーよな?」

「な、き、さまぁっ!降伏するのではないのかぁっ!?」

「はぁ?何勘違いしてんだ?おめぇ馬ァ鹿じゃねぇの?髪型がカニなら頭ん中詰まってんのも蟹味噌か?丁度身体も赤ぇしよ、まぁハサミがねーしそんなヒョロいんじゃエビかもしれねぇが……そういやボウフラか」

 等と適当に言いながら、デッドは背後へ素子の左腕を投げ捨てると、竜属種特有の鋭い犬歯が生え揃った大口で素子の身体に噛み付いては食いちぎり、剛腕で掴みかかっては引き裂き、バラバラになったパーツを分厚い鱗に覆われた脚で踏み潰していく。

 シメに残った頭を無茶苦茶に咀嚼し露骨に不愉快がっているような声を出しながら大袈裟かつ派手に吐き散らしていく。当然素子は絶命し、持ち主を失った流星刀(フドウ)は素子の手元より消滅した。

「……店に戻ったか。次の持ち主を待つ為とはいえ、あの爺さんも妙なもんを作りやがる」

 フォーゴとジェロを拾い上げたデッドはそれらを再び赤鬼剣(アトラス)に戻し背負うと、次なる敵を求めて部屋を後にした。

次回、地下に落とされたレノーギ達が見たものとは!?

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