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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
225/450

第二百二十五話 カニニニ!!




待たせたな!

―前回より・首相官邸内―


「国の中枢とも言える建物に戦闘機で突っ込んでくるとは、常識のない奴だ。それに加えて魔術で脱出を封じ、確実に殺しに来るとは……相変わらず卑怯な真似を」

 首相官邸突撃の報せを聞いたダリアの第一声は、余りにも緊張感のないものであった。

「まぁいい。どうせ来た者を皆殺すだけだ……軍備こそ失った我々とて、天賦の才を持つ一騎当千の猛者の集まりだ。あの程度の虫螻共に負けるなど、元より有り得ん」

「仰有る通りですェ。我らには、先輩の手解きを受けて得た"幻妖"の力がありますェ。千年以上の歴史を誇る幻妖の力はまさに究極……幾らヴァーミンやカドム武器を使いこなすあれらと言えども、敵うはずなどありはしませぬェ」

「そしてそのヴァーミンやカドム武器さえも今や我々の手中に……ほんの一部ではありますが、我らが手にしたものは何れも文句なしの一級品」

「六神器に三王砲、更にはあの五龍刃ですものね……もはや無敵の布陣と言っても過言ではありませんわ」

「官邸特選隊にヴァーミンの保有者が現れたのも天命でしょうな。更に言えば飛姫種部隊も実力者揃いと来ている」

[いざとなれば私が奴らを地下に落としましょう。正直吐き気しか感じ得ませんが、アレもまた立派な戦力であります故]

「……ふぅん、準備は万端といった所か。恋双様は飛姫種部隊を率いて既に動かれているそうだ。我々も早急に戦闘体勢に入るとするか」


 そう言ってダリアが立ち上がったのと同時に、外部から彼の携帯電話へ連絡が入った。


「どうした?」

『だりあさま!いちだいじです!せんとうき3き、そうこうしゃ1だい、たこのばけもの1ぴきのこうげきによりしゅしょうかんていがはかいされました!』

「そんな分かり切ったことを今更携帯で報告してくる馬鹿が居るか」

『し、しかしだりあさま!たこのばけものはちじょうからほうもつこにはいりこんだんで―――「五智」

 ダリアは耳元で携帯電話を握り潰し、静かに五智へ指示を下した。字数にしてたった二字の一言だが、その実は『宝物庫に入り込んだ侵入者を地下に落とせ。絶対に生きてここから帰すな』と言っているに等しい。

 ダリアがそうまでして守りたい宝物庫には、彼と彼の後輩達が二つの世界で半生をかけて集めてきた秘蔵の財産(過激な性表現から発禁・絶版になった雑誌やソフトウェア、限定盤のフィギュア等)が大切に保管されているのである。


―同時刻・首相官邸内部―


「デケェな。こりゃ調理場か?」

「そうみたいね。作業中の調理師や給仕も無理矢理外部に引っ張り出した所為か所々火とかそのまんまだわ……収録場所で火事になって自滅とかなったらアレだし消しとかないと」


 アメイウスのワイバーン型戦闘機で突入した繁、香織、デーツ、デッド の四名(以下第一班)がたどり着いたのは、首相官邸に備わった広大な調理場であった。


「然し、真宝っていうから内装は大体幼女色なのかと思ったわけだけど、そうでもないのね」

「めんどかったんじゃないッスかね……っと、ロクなもんがねぇや。ここマジで調理場か?いや、食材系の倉は別にあるとか?にしても何かあれよってンだが……」

 デッドは調理場の冷蔵庫等を漁りながら退屈げにぼやく。

「お腹すいたんならここに盛り付け途中のケーキあるわよ。あとこっちには何かのゼリーとか凄く大きなプリンとか」

「あー、悪い。今甘いもん食う気分じゃねーんだわ。個人的にはパエリアとかラザニア、クリームコロッケ、ビーフシチュー辺りが食いてぇ」

「冷蔵庫ん中から引っ張り出すのが無理な代物ばっかじゃねぇか」

「作るんだよ、自分で」

「何でまたそんなややこしくて時間かかるものばっかり……」

「そうよデッド。どうせならピザとか春巻きとかロコモコになさい」

「あー、串カツとか酢豚とか餃子じゃ駄目ッスかね?」

「おい待てどれもこれも本格的に自作したら時間かかりまくる奴ばっかじゃねーか」

「いーじゃんよぅ、俺この収録終わったらマスターや皆でメシ屋開く予定なんだよ」

「ちょっ、あからさまにベタな死亡フラグ立てないでよ。縁起悪いって」

「嗚呼、素敵ねデッド。私達って私設兵団以外に仕事らしいものについてないからそれって凄くいい夢だと思うわ」

「おい教職、お前教職だろ。つーか他の連中も何か働かすなり学校行かすなりしろよオイ。んで小麦粉、小麦粉練るなおい―ってチネるな」

「まぁそう固いこと言うなって。ラジオなんだから料理講座のコーナーがあっても――っ!?」


 デッドが言い終えるのを遮るように、彼の耳元へ何かが飛来した。デッドは持ち前の鋭い五感でそれを察知し、素早く右手で握り潰す。


「(ん……手応えは確かにあった筈だが、ブツは見事に消え失せてやがる……となると答えは……)マスター、どうやら敵襲のようですぜ」

「えぇ、そのようね。しかも相手は私の同類……軽く見積もってもかなり厄介な手合いのようだわ」

「しかも何の冗談か、辻原と清水はこんなメモ書き一つ残してトンズラと来たもんだ」


 剣を構えたデッドの手には、いつの間にか学ランの襟に挟まっていた小さなメモ用紙二枚がつままれていた。メモにはそれぞれ『とりあえず解散しとけ 辻原』『とりま自由行動でおk 清水』とだけ書かれている。


「まぁ、バラバラになった方が効率は上がるんだし、別行動っていうのは悪くないと思うけど……」

「にしたってメモ二枚でドロンたぁ……はぁ、しゃあねぇや。マスター、ここは俺が残ります。先行ってて下さい」

「……大丈夫なの?」

「元より死にに行く予定なんざありませんよ。あの時貴女に言われた言葉、背くつもりなぞ毛頭ありません」

 その言葉を聞き入れたデーツは、無言のまま地に潜るように去って行った。

 そんな主を静かに見送ったデッドは、ある一方を鋭く見据えながら言い放つ。


「よう、何モンかは知らねーが、そこにいるのは解ってんだ。隠れんぼが趣味なら無理強いはしねーが、出てこねーようならアトラスこいつが一発やらかす事になるが――っまたか!」


 デッドは再び耳元に何かの気配を感じ取り、それを空いた左手で握り潰す。やはり手応えはあったが、それそのものはすぐに消えてしまった。


「……なぁ、本当に頼むぜ。こんな屋内でアトラスこいつに任せると大体ひでー事になるんだ、あんただって無事じゃあ――「その必要はない」―!?」


 冷ややかながら余裕に満ちたその声が発せられたのは、何とデッドのすぐ近くであった。

「(クソっ、そういや忘れてたぜ……そこに居やがったのか!)」


 デッドが見上げた先―それ則ち天井―にぶら下がっていたのは、ピンク色のライダースーツを着込んだ霊長種の幼女であった。赤に近いオレンジのショートヘアは幾つかに枝分かれしており、同じような色をした髪飾りの形も相俟って海棲の蟹を連想させる。

 幼女は逆さ吊りのまま身長に不釣り合いな白い長刀を振り上げ、そのままデッドに切り掛かる。予想外に素早いそれを、しかしデッドはその刃を難無く弾き返し、反動で相手を叩き飛ばす。

 約20mは吹き飛んだ相手の幼女は無駄のない動作で着地し、表情一つ変えぬまま刀を構え直す。

「……官邸特選隊攻撃隊長、下部素子シモベモトコ……私を呼ぶならそう呼べ……」

「(物静かな奴だな……アレで大丈夫なのか?……ま、いっか)

わざわざ名乗ってくれるたぁ、随分と礼儀正しい奴だな」

「……見くびるなよ。敵に名乗るは戦士の礼だ……」

「戦士の礼ねぇ。それにしちゃ、隠れながら何かを飛ばして来るわ、不意打ちかますわで全然正々堂々じゃねぇよな」

「……黙れ、賊めが……家主の了承もなく家に上がり込み、厨房で食糧を漁る不品行者に説教をされる覚えなどない……」

「ふン、そいつは結構。そこまでストレートに逆ギレされるなら、こっちも素直に……叩きッ、潰せらァ!」

 跳び上がったデッドはアトラスを力一杯振り上げたかと思うと、天井を掴み蹴る事で素子目掛けて突進を試みる。


 星マークは貯まっていないし溜める気もない。かと言って自分の殴打に等しい斬撃も避けられてしまうだろう。ともすれば、これしかない。


 身構える素子との距離が縮む中、デッドはアトラスを振り下ろす。


「甘い……」


 当然素子はその攻撃を見切り回避するが、これもまたデッドの計算通りであった。


「(よし、いける!)吹き飛べァ!」


 叫びと共にアトラスの刃が床を砕く。そして赤い剣の切っ先を起点に、素子は問答無用の強烈な爆発で吹き飛ばされ――


「――え?」

 ――なかった。デッドが隠し玉にと用意していた赤鬼剣アトラスの無差別爆発機能が作動したにも関わらず、爆発はおろか火の気の一つさえ上がらない。


「なん、で――だグぁッ!?」


 呆気にとられるデッドの腹を、異常に肥大化した素子の右腕が殴り付ける。そのエネルギーは凄まじく、身長2.1m・体重112kgというデッドの(竜属種の成人男性としては平均的な)巨体を軽々と吹き飛ばした。

 すかさずアトラスを床に突き立てたことで壁への激突は免れたが、それでもアトラスの攻撃が打ち消されたのは事実である。


「……何をしようとしたのかは知らんが、私の愛刀には無意味だ。これなるはかつて武器職人カドム・イムが作り上げたという『五龍刃』の一つ『流星刀フドウ』でな、あらゆる破壊を打ち消す力がある。その力を使えば刀は跡形もなく消散してしまう欠点はあるが、少しの時間で元に戻る為無いも同じ……」

「手の内明かしちまっていいのかよ(つーか五龍刃って……あれ、アトラスの親戚かよ……)」

「……構うものか。結果は覆らない。この私を前にして、貴様の勝利は有り得ない……」


 静かだが確かな自身に満ち溢れた口ぶりの素子は、流星刀フドウを逆手持ちで水平に構える。

 その額に浮かび上がったのは、華奢な羽虫のような紋章であった。


「(ありゃあ……ハエ……いや、蚊か?まぁどっちにしろ、面倒臭ぇ奴なのは変わりねぇか)」

次回、モスキートの秘めたる力が明らかに!?

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