第二百二十四話 限られた尺で作者は何体キャラを出せるか?
ようやくヴァクロっぽいサブタイになってきたぜ……
―前回より・第二スタジオ運転席―
「おっさんよう、こんな運転で大丈夫かい?」
《案ずるでないわ。この儂が座席を許したのだ、不満などありはせん》
リューラとそんなやり取りをしているのは、鉄側のガヴァリエーレことアレクスであった。
「しっかしスゲーな、あんなガチガチの装甲車がジェット噴射で空飛んでんだもんよ」
《フフン、驚いたか?少しばかり本気を出せば、儂の装甲車に道は要らぬのだ。まあそれまでの過程が妙に面倒なんだが、あの娘っ子はこの短期間で"貸与"にまで至った。この程度は朝飯前であろうよ》
アレクスの言う"貸与"とは、言葉通り『列王の輪』が有する力を持ち主以外の者に貸し与える技法の一つである。その総合的な威力は、理論上不可能である『異なる形態の複数同時展開』を可能とするだけあり計り知れないものである。
ただその分、扱いが面倒なのは言うまでもない。そもそも列王の輪という武器の全てを使いこなすには、異常者と見まごう程に個性的な十四の精霊と対話しそれらの全てと対等以上の関係を築かねばならない。ただ装備しただけでは単なる『魔術師に不足しがちな打点や防御力・機動力をほどよく補える腕輪』でしかない。それでも一応使えない事はないが、基本ギミックの性能は一律固定の為、戦闘慣れしてくるとやがて単なるアクセサリーにまで成り下がってしまう。そうならない為に持ち主は精霊達との連携を試みるわけだが、性格のまるで異なる十四人と親密な関係を築くには普通莫大な時間がかかるものである。ましてそんな浮世離れした精霊達が心を開き気を許す他人を選出せねばならない"貸与"ともなれば、それが至難の業であることは明白と言えよう。
香織自身は謙遜していたが、生一の『神話級』という評価もあながち間違いではないのである。
―第三スタジオコントロールルーム―
「御機嫌は如何ですか、Mrs.メーディエイ」
《快調ですわ。これも偏に五真様のお陰です》
有機的なフォルムをした蝶型の飛行メカのコントロールルームにて刻十と優雅に挨拶を交わすのは、真鍮側の『マジーア(正式名称:ヴィオラ・マジーア)』という形態を担当する精霊・メーディエイ。コーカソイド的な霊長種である彼女は優れた魔術師であり、手芸に秀でた職人でもある。列王十四精霊の中でも温厚かつ良識的で寛容な部類に入る彼女は、他の精霊のみ成らず『列王の輪』の(片手で数えるほどしか居ない)歴代所有者達からも親しみやすいと評判であった。
また、年齢不相応に若干の少女趣味を持っている彼女は同じ真鍮側の精霊であるアルトゥーロを愛玩動物のような感覚で気に入っており、しばしば自作の衣装を着させては写真撮影に興じていたりする(よってアルトゥーロ絡みとなるとヒトが変わる。特にアメイウスやクラダイウスとは犬猿の仲であり、酷いときには出会い頭に乱闘へ発展することもあるという)。
一方のアルトゥーロ自身はメーディエイによって彼女専用の等身大着せ替え人形同然に扱われることは不本意極まりない事なので、その点ではかなり疎ましく思っているらしい。
―同時刻・第四スタジオコックピット―
「天馬の暖かな背に揺られて~♪」
《歌まで口ずさむとは、初挑戦にしてはお上手じゃありませんか》
「いえいえ、これもラーミャ殿のお力添えあってこそですよ」
両の主翼に翼の生えた蛇が描かれた黒光りするジェット戦闘機のコックピットにて璃桜と語らうのは、アレクスと対を成す真鍮側の『ガヴァリエーレ(正式名称:セルペンテ・ガヴァリエーレ)』を担当する精霊・ラーミャである。
全長4mにも及ぶ桃色の大蛇という恐ろしげな姿の割にメーディエイと並んで良心的なことで評判の彼女の性格は、まさに非の打ち所のない理想的な部下(或いは臣下)と言うに相応しいものである。その勤勉さは製造者であるカドム・イムさえも認めており、取扱説明書にさえ『入門者向け精霊』として真っ先に取り上げられる程である。
とはいえそんな彼女も万能というわけには行かず、時たま抜けた一面を見せることもあるという(カドム曰く『それもまた愛嬌の内』)。また彼女は同性愛者だが、それが異端視されやすい事を充分理解している彼女は、それらしい言動を慎むよう普段から心がけていた(但し、ある程度親密な間柄になれば正直にその旨を告げるようにはしているらしい)。
―同時刻・第五スタジオ中枢部―
「しっかし何なんだよこりゃあ。糸コンニャクみてえなのの中に手ェ突っ込んで適当にワシャワシャやるだけでどんどん進んでいきやがる」
《驚かれましたかなぁ!?我がファミリーの仔らは遠隔操作で猟犬のように扱うのが基本なのですがね、中にはその巨体故に中へ入り込んで操縦することのできる子もいるのですよっ!》
"萌え"一色に彩られた建造物を薙ぎ倒し真宝の街道を進んでいくのは、サイケデリックな色調をした巨大な頭足類の化け物であった。
そしてその化け物の中枢部にてレノーギを相手に誇らしげに我が子自慢をしているのは、メーディエイと対を成す鉄側の『マジーア(正式名称:ネーロ・マジーア)』を担当する精霊・ディゴーンである。
痩せこけたような不気味なホウライエソ(簡単に言えば細長い深海魚)の姿をした彼は、常に海水で満たされた球形(及びその付属物である様々な機械類)に収まっており、内部に備わったコンピュータでそれらを操作することで日常生活を送っている(一応空気中でも呼吸・発声は可能だが、姿勢維持だけは水中でないとまともに出来ない)。そんな彼だが性格自体は容姿の割に(浮き沈みは激しいが一応)明るく、ある程度妥協出来るなら付き合うのにも支障はない――彼の趣味を理解出来るのならば、だが(これについては後程詳しく語ろうかと思う)。
次回、首相官邸に突入!