第二百二十三話 生ラジオ日和
収録開始!
―前回より―
『せェーのッ、ツジラジっ!』
ヤムタは真宝の上空に、何時も通りの声が響き渡った。
「はい、例の如くやって参りましたツジラジ第五回!司会のツジラ・バグテイルです!」
「広報担当の青色薬剤師です。今回からフィルター機能が実装されました」
「『聞く気がしない』『五月蠅い』『ラジオとか言ってるけど結局騒音じゃん』『そもそも私アンチだし』『つーかツジラがウザくね?』などの理由で聞きたくない方は目を閉じて"シャット・シャ・ダ~ン"と唱えましょう」
『言葉の話せないお子様には親御さんが手を耳に当てて唱えるといいかと思います。「まぁ個々でシャットアウトする方法くらい幾らでもあるが、そろそろ公式でもこういった方面を配慮しませんとアレかと思う」とはツジラの言葉です』
「そんじゃ、今回もまた二人の新人DJが加わったんで自己紹介と行こうか」
「初めまして。未亡人17歳です、なのだ。下手するとツジラよりウザい語尾だけど気にしないで欲しいです、なのだ」
「リスナーの皆様、お初にお目に掛かります。とは言っても音声だけで顔は見えていませんが……血染メイ・ドレイクと申します。別にメイドルックではないです」
「おっし、そんなら次はゲストをご紹介っ。今回は相手が相手なんで大勢のゲストを呼んでおるのだぜよ」
「都合上スタジオにお越し頂いているのは二人だけなんですが……どうぞ!」
「答えを探し求め迷いながらも前に進んだ15年間、無駄にはしないッ!……はい、リスナーの皆様初めまして。今回限りでこの番組に参加させて頂くことになりました、求道者気取りです」
「極端なやり方で答えなんて見えるわけねぇだろ?そのくらい解れよな……へい、リスナーの皆様お初んなります。求道者気取りの助手って体裁でゲストやります。辺獄上がりです」
「はい、有り難ーう。さて、今回のスタジオは前回と同じく地上にはありません。外に出て天空を見上げれば位置によりけりですが見えることでしょう。今回も我々は空の上に居ます」
「更に前回のように一つのスタジオへ固まっているのではなく、実は五機のマシンにそれぞれ機械置いて何とかやりとりしてたり。それでは早速お便り紹介行ってみましょう」
―同時刻・官邸内―
「遂に始まったか、ツジラジ……」
「早速少女達を避難させ、戦闘配置につくェ!五智!」
上地の命令を受けた五智は、官邸内に仕掛けられたシステムを作動し少女達を避難させようとした。
[任せろ。今少女達を安全な所へ……何!?]
「どうした五智?何があった!?」
[少女達が……少女達が……]
「少女達がどうしたの?」
[少女達が……邸内から消え失せているっ!?]
殆どが機械化された五智の身体には、温度計から機関砲まで様々な機械類が搭載されている。その中には少女のみに反応し、その位地から細かな個人情報までありとあらゆる情報を入手できる高性能レーダーも搭載されている。
「な、消え失せただと!?」
[幸いなことに全員ではないようだが……何故か狙い澄ましたように、侍従などの戦闘能力を持たない少女ばかりが攫われている……一体何のために……]
「辻原の事だ、十中八九人質か見せしめだろうな」
「闇市で売り飛ばすのかもしれないわ。それにダリア様と恋双様も――「私と恋双様がどうした?」――ダ、ダリア様!今までどちらに?」
若干取り乱す今野に投げ飛ばしてしまった事を詫びながら、ダリアは静かに口を開く。
「すまんな、計画の最終チェックついでに官邸特選隊へ出動要請のメールを送っていたんだが、思いの外時間がかかった」
「か、官邸特選隊にっ!?あぁ、何てこと……それならば私に言ってくだされば……ダリア様のような高貴なお方があれらを相手取るだなんて、あってはならぬことですわっ!」
「それは大袈裟だろう、今野。彼女らは確かに少し我が儘で小悪魔系なところはあるが、心から私達に協力してくれる大切な盟友だ。それに実力とて飛姫種部隊より格段に上なんだ。ここで頼らない手はあるまい」
[しかし、また何か洒落にならない報酬を要求されたのでしょう?]
「大丈夫だ。そんなに大したものじゃない。それより鎌鼬――じゃあない―お前達も早く準備に移れ。相手はあの辻原だ、カタル・ティゾルで何らかの力をつけた以上、何をしてくるか解ったものじゃない」
ダリアの指示を聞き入れた五人は、何時も通りの彼に戻ったと安堵しながらその場を後にした。
―同時刻・真宝上空―
「それではお便り紹介も程々に早速敵地へ突入してみましょう。お暇な方は是非ご覧あれ」
「我々は腐ってもエンターティナー、こういう時なら決してチャチな仕事は致しません!」
その言葉を最後に各スタジオの操縦者はスピーカーの電源を一度オフにし、"ある者達"との対話を試みる。
―第一スタジオ操縦席―
「ハロー、アメイウス。調子はどう?」
《絶好調に決まって居ろう。至極当然の事を問うでない》
香織の軽い挨拶に尊大かつ古風な口調で返すのは、操縦席の中央に埋まった白金色の球体―もとい、鉄側の『ティラトーレ(正式名称:アッヴェント・ティラトーレ)』を担当する精霊・アメイウス。自ら『真龍帝』の異名を名乗る彼の姿は、異名通りの大柄な四足竜である(但しその全身は白い長毛に覆われている。所謂ファドラという奴である)。
列王十四精霊の中でも第二位の巨体を誇る彼だが、態度や自信の大きさならば問答無用でトップクラスと言えるだろう。傲岸不遜・唯我独尊・傍若無人の三拍子が見事に揃った彼を御すには『列王の輪』の製造者または所有者としての権限を利用するしかない(それでも完全に対等の関係を築けるかどうかは権限を有する者の努力次第という有様)。一応根は頭脳明晰で義理堅く情に厚い好漢なのだが、如何せん先に述べた無駄に高い慢心の所為で大抵の者は彼の本質に気付かないまま関係ばかりが悪化していく。
そんな性分なものだから精霊達の間でも散々な評判であり、特にアルトゥーロはしつこく言い寄ってくるこのファードラゴンを蛇蝎のように忌み嫌っていた。また、アルトゥーロと同じくスパーダを担当するクラダイウスには一方的に煽って喧嘩を売っては自身の能力で半殺しの憂き目に遭わせるのが日課になっている。他の精霊からも快く思われていないか、もしくは殆ど意識されていない。
唯一の例外はアレクスで、彼とアメイウスは仲の良い友人にして良きライバルといった関係である。カドムや香織についても対等の存在と認めており、尊大な態度は変わらないが指示などには快く従ってくれる(という事にしておいてください)。
現在香織が"第一スタジオ"として利用・操縦しているのは、極めて難解な特殊ギミックにより変形した『アッヴェント・ティラトーレ』の亜種形態である(というかぶっちゃけ『コンクイスタ・ガヴァリエーレ』の装甲車と同じものだと思えばよい。基本的な原理は同じだし)。
白金色の甲冑か外骨格を思わせる外観のワイバーンを模した航空機のようなものであるこれはあらゆる意味で物理法則を無視した動作が可能という設定もあるが、詳しい説明は尺の都合で省く。
次回、列王十四精霊の面々が続々登場!