第二十二話 日常?
暗躍する何かに苦戦を強いられる東ゾイロス高等学校職員陣。一方その頃『ツジラジ』のスタッフ三人は……
―前回より更に数日後・エクスーシア国境付近に佇む薬屋―
三人の男女が、テーブルを囲んでいた。
一人は長身痩躯に眼鏡の男。
一人は深紅の長髪を棚引かせた女。
一人は狐の耳と尾を持つ、白衣を着た女。
「さて、今回のツジラジだが……実は適当にかけておいた募集の方へ贈ってくる奴がかなり居てな」
男女の内の一人、長身痩躯に眼鏡の男が話を切り出した。彼の名は辻原繁。元居た世界へ戻る為、カタル・ティゾルの破壊神を目指すべくDJツジラ・バグテイルとして神出鬼没系謎解きラジオ『ツジラジ』を主催する異世界人である。
「お、私がやったあの適当な宛先に送ろうっていう奇特な人がよく居たもんだね」
それに返すのは、この家を仕切る深紅の長髪を棚引かせた女・清水香織。繁同様異世界人である彼女は彼の従姉妹兼補佐役でもあり、ツジラジの放送に置いてはDJ青色薬剤師を名乗り諸々の連絡等を行う。
「そんなに適当には聞こえなかったけど……っていうか、前回ゲストだった私の扱いは?」
自らの行く末を案じている(?)らしき白衣の女の名は、ニコラ・フォックス。嘗てルタマルスで開業医として活動していた医学博士であり、若干19歳にして呪術により不老不死の身となってしまったという壮絶な過去を持つ。王家に対する批判から政府に追われているところを繁に誘われ、ツジラジの初回でゲストとして出演していた。
「手紙もメールもかなりの数でよ。合計で二十万件くれぇ来てんだわ、コレが」
「に、二十万件っ!?」
「一体何処からそんな数値が出るの!?」
「正直バカみてぇな数値だが、その九割が電子メールでよ。郵便の方は多分検閲か何かに引っかかって処分されたんだろうな。まぁ六大陸の主要な国家全体に向けて放送してたんだ。そんだけ来たって何ら変じゃねぇさ。流石に全部採用する訳にも行かねぇんで、ノモシア舞台にしたのを省いて三割減らし、更にそっからあんま金が入りそうに無い奴を省いたら更に五割減った」
「それでもまだ四万件残ってんじゃん……」
「そりゃな。んでまぁ、そんなんじゃ話進まねぇって事で、収入が不確定な奴を省いた。宝探しとかその辺だな」
「幾ら減ったの?」
「大体八分くれぇにはなったんじゃねぇか。それでもまだ一万件以上あるけどな。更に追加で内容重複と面白く無さそうな奴を適当に省いて五分の一まで減らした」
「一気に減ったねぇ」
「半ば適当に省いたからな。大丈夫だ。省いた分は後々の放送にも転用する。んで、更にこれを厳正かつ適当に審査した結果」
「どっちよ……」
「どうにか一つに絞り込めた。現場は学術大陸ラビーレマの中枢部の『列甲大学』――「れ、列甲!?」――の、関連校として名高い『東ゾイロス高等学校』だ」
「あ、そっちか……良かった」
香織は一瞬ぎょっとした。『ツジラジ』が列甲大学などに挑むなど、考えただけで身の毛も弥立つような話だからだ。
というのもこの『列甲大学」は、科学の力を用いた技術『学術』を主導とする大陸ラビーレマに於ける教育・研究機関の最大手であり、学術者の聖地とも呼ばれる巨大機関なのである。
その名前は創立者である天才羽毛種・列甲に由来し、面積は一つの大都市に匹敵。通称として『大学園都市』とも呼称される。
一部では学術のみならず魔術の研究にも着手しており、その影響から大陸外にも数多くの関連校を持つ。その為他の大陸・文化圏からの入学者も多く、ラビーレマ民の種族が不揃いである原因の一つともされている。
その関連校たる『東ゾイロス高等学校』はその名の通り大学園都市付近に存在する都市ゾイロスの東部に存在する高等学校であり、大学園都市には遠く及ばないものの凄まじい規模を誇る教育機関であった。
「そういえば知り合いが東ゾイロス出身だったっけ。でもあそこ、そんなに問題らしい問題なんてあったっけ?ノモシア、ヤムタ辺りはまだ王政が続いてるし、イスキュロンは退役軍人の横暴が酷いとか、アクサノは海神教過激派の猛攻が酷いって聞くけどさ、それに引き替えラビーレマって治安も経済状況もさして問題ないよね?一時期権威主義が横行したこともあったけど、それも今ではあってないようなもんだし」
「どうでも良い事だけどニコラさんって大陸情勢に詳しいよね」
「伊達に70年生きてないからね。それで、案件は?」
「理事長をやってる『生まれたての73歳児』さんからのお便りでな、近頃校内に妙なのが沸いて出るとかでよ。幸い校外には出ねぇそうだから生徒を自宅待機させ、職員が交代で見張ってるらしい。だがまぁ、公的機関にバラすと情報が漏洩して寧ろ厄介になりやがるから、ジュルノブルの宮廷警備部隊を皆殺しにした俺らの力を借りてえんだと」
「ハンネのセンスもさることながら、とんでも無いこと頼んでくる理事長だね……っていうか、ツジラジって結局大陸全体にオンエアされるから厄介事になるのは変わりないんじゃ…」
「だからジュルノブル戦よろしく生放送でケリ付けてくれって言って来やがったよ。成功時の報酬は前回回収した分の1.5倍、失敗したら保険で2.2倍出すとよ」
「なにそのヌルゲー」
「八百長かませって言ってるようなもんじゃん」
「そんな事言ってやるなよ。幾ら俺でも保険の話は後々断ったさ」
「あ、断ったんだ。珍しいね。何やるにしても大体何時も逃げ道確保する癖に」
「世の中には確保して良い逃げ道と確保しちゃならん逃げ道があるんだよ。んで敵の特徴についてだが、今回も人間サイズを相手に戦う事になるんじゃねぇかと踏んでいる。但しそうだとしても、やり口を見る限り霊長種じゃない可能性も高え」
「屋内戦となると私のマルファスが本領発揮だね」
「タセックモスも狭い室内でなら軌道読まれにくい分活躍の幅広がるし」
「良し。んじゃ早速台本を練るか」
こうして始まった作戦会議の末、ニコラはゲストからのレギュラー昇格として二回目以降も出演する事になった。
次回、殺人事件の犯人グループが遂に登場!