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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
216/450

第二百十六話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:終局編-後編




等の押したスイッチの効果とは……

―前回より―


「只今戻りました」

「あぁ清水さん、お帰りなさい。大丈夫ですか?」

「私は何ともありません。安心して下さい」

「良かった……一応確認しましたが、他の皆さんも特に負傷や異常は無いそうです」

「そうですか。それは何より」

「これで後は俺が押したスイッチが上手く機能すれば万々歳ですが……大丈夫なんでしょうか?」

「そこは信じるしかないでしょう。何せあのスイッチ、基本的に魔力が自動的にその場を丸く納めるという謎仕様なもので」

 何故そんなわけのわからないものを使うのか小一時間問い詰めたい等だったが、直後天井辺りに何やら禍々しい渦が発生した辺りでそんな事はどうでもよくなった。

「(何だあの渦は―――ん?)」


 その時、古いカセットレコーダーが発しそうなジリジリという音を立てていた渦の中央から何かが落ちてきた。

 大まかに分けて白黒黄色の三色からなるそれらはまるで示し合わせていたかのように二人の眼前へと落下した。


「これは……」

「……縫いぐるみ?」


 そう、二人の眼前へ落ちてきたのは、身長約20cmで三頭身の小さな二つの縫いぐるみだったのである。全体的には荒削りながらもデフォルメされて可愛らしく出来ており、総合的に見れば見ればクレーンゲームで景品として扱われていても問題ない出来である――が、問題なのはそのデザインであった。


「しかし、このデザイン……」

「どう見てもあの二人ですよね……」


 等の言う"あの二人"とは、つまるところウルスラ・アラストルとリコリコ・ラードーンの事に他ならない。調べてみると、二人はどうやら魔術的な要因によって能動的に(かつ、為す術もなく)縫いぐるみへと姿を変えられてしまったらしい。このようにある物体を別の物体に変化させる"変化・変質系"の魔術は一応、カタル・ティゾルにも存在する(発動に手間が掛かりすぎる上にコストも洒落にならないため使う者など皆無に等しいが)。古式特級魔術の中にもそういった魔術は存在し、香織も一応習得はしている。前もって術を組んでおけば、二人を縫いぐるみに変えてしまうぐらい赤子の手を捻るようなものである。しかし今回、香織はそれらの術を組んだ覚えはない。かといって他にこの手の魔術を扱う者などそう居るはずも無い。


 とすると、互いの支配権を巡りお互い大人しく(?)競い合っていたはずの二人が、何故このような姿になっているのであろうか?


 原因を調査しようかと考えた二人だったが、捜し求めていた"答え"はそうするまでもなくすぐさま明らかになった。


『変な渦が二人を飲み込んでしまった』


 通信機の向こうからそう証言したのは、ウルスラとリコリコの勝負に手を貸していた使徒精霊・ロロニアであった。

 彼女の証言を要約すると、以下のようになる。

・事の起こりはつい暫く前、真宝軍の戦力が全体的に衰退し始めた頃のこと。

・二人の勝負は兵士の現象も相俟って佳境に入りつつあった。

・そのまま勝負が決けば良かったが、そこで二人は何故かいきなり殴り合いを開始。

・止めに入ろうと思ったが、二人を中心にした半径十数mの気温が急激に上昇。中央に近い場所にある兵士の死体などは干涸らびて発火する始末であった。

・近寄ろうにも近寄れなかったので断念し適当にやり過ごすことに。

・そろそろ上に連絡すべきかと考えていた頃、取っ組み合う二人の頭上に真っ黒な渦が発生。

・渦は徐々に大きくなっていき、最終的にテーブル程の大きさになったかと思うと、二人を包み込むように飲み込んでしまった。


「それで、渦の中で縫いぐるみにされたと?」

「そう考えるのが一番楽でしょうね」

「いや、楽かどうかの問題じゃないでしょ……」

『でも二人が無事で安心だよー。でもどうしてあの時二人の周りだけ凄い熱くなってたんだろう……』

「多分二人のルール違反で魔術具のシステムが試合を取り止めにしたんでしょ。多分そのまま放置してたら辺り一面火の海か水爆レベルの爆発で吹き飛んでたかもしれませんし、等さんの判断はやはり正しかったんですよ」

「試合中止で爆発って……」

『もう世界滅んじゃうよね、それ……』

「まぁ、無茶な不正改造が施された裏ものだし。どんな事があっても買った以上文句言う方が悪いって理屈なんでしょう。もう二度と買わないけど」

「アースネオンじゃ考えられない話ですね……」

『っていうか、どうやって元に戻すの?』

「え?あぁ、大丈夫大丈夫。このくらいならほっといても大体2日くらいで元に戻るから」

「『……」』

 アバウト過ぎて突っ込む気すら失せる発言に、ホストと使徒精霊は最早呆れるほかなかった。


―同時刻・外部―


 真宝軍が『切り札』のような位置付けで作動したものとは『途轍もなく巨大な動くヒト型物体』という極めて安易な発想の元に成り立つ存在に過ぎなかった。三つあるそれらの高さは約25mもあるが、しかしその途轍もない大きさの割に構造そのものが極めて単純である事は誰が見ても明白―そんなデザインをしていた。

 ゴチャゴチャしたフリルのドレスを着込んだ身体には目立った起伏が見られず、手足も短ければ頭身も低い。頭髪は凡そヒトに再現できそうには思えないほどシュールな色と形で整えられている。その手に持った奇妙な杖のような物体は、いずれも武器として用いるには余りにも華奢なように見えた。


 そんな巨大ヒト型物体の正体とは―上記の外観に関する描写を読んだ方ならば恐らく解ることと思うが―真宝三大都市と呼ばれる都市国家の中枢に君臨する巨大な魔法少女型モニュメントであったりする(要は闘技場爆破の際にデッドとレノーギが座っていたアレだと思えばいい)。

 それぞれ違う名前と設定が付与されたこれら三つのモニュメントは何れも現真宝に於いて国宝(最重要文化財)として扱われている大変貴重な代物であるにもかかわらず、祭事等で動かす為内部に単純な魔術的ギミックが仕込まれている。とはいえそれを起動できるのは真宝でもダリアと彼の許可を得た者のみであり、そうそう簡単に動かすべきものでは断じてない。

 その事は彼自身が最もよく理解している筈なのだが―――どういうわけか別人のように思考力や判断力の下がっている今のダリアは、たった三十余人の逆賊相手に最重要文化財を仕向けるという行為を、微塵も躊躇わずに実行したのである。最早狂気の沙汰ですらない。

 しかしそんな『動くだけの国宝』も、巨大というだけで十分脅威と言える。そこで等が押したスイッチ型魔術具が下した決断は、対抗しうる逸材のコピーを作り出し巨大国宝と戦わせるというものであった。

次回、ゲスト召喚編年内完結なるか?

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