第二百十四話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:飛姫種編-結/下
変身した面々による無双回!(またの名を装備の説明回とも言う)
―前回より―
等の転移によって戦場へ放たれた七名は、早速真宝軍との戦いを開始した。
「せいッ!てぁッ!はッ!」
「ぐべっ!な、なんだこい――げべぇっ!」
先陣を切って敵陣へと向かったアルティノの戦闘は、華奢で女性的な彼の容姿や性格に反して極めて荒々しく攻撃的なものであった。そもそもその変身形態や使用武器のデザインからして普段の彼からは想像も付かないほどに攻撃的であり、その戦いぶりはどちらかと言うと彼の契約対象である使徒精霊・ダカートを思わせる。
彼の変身形態を詩的に言い表すならば『火葬されて尚暴れ回る巨竜』とでも言うべきか。人体のラインに沿って並ぶ肉食恐竜の骨と燃え盛る火炎が如し意匠のあるフルプレートアーマーは少々小柄で重厚感に欠けたが、それでも底知れぬ威圧感を醸し出している事に変わりはない。
専用の武器は二振りの長剣であり、一方は引き延ばされた肉食恐竜の頭蓋骨上顎部分といった普遍的なデザインであったが、もう一方は赤々と熱せられた鉄の角材そのものであった(最早剣でさえないとか言ってはいけない。まぁ斬れないけど)。
―別位置―
「うあごぇぁっ!」
「な、なん――ぶぼごばっ!?」
「ぎゃばらべっ!」
相も変わらず読み辛い断末魔を伴い、兵士達が只の肉塊へと姿を変えていく。
河川どころか水溜まりの一つさえないような乾燥した平原であるにもかかわらず溺死していく彼らを背後から追い回すのは、ミズダコのウォータムの変じたワンドによって変身した水の唱道者・ラピカ。
変身ツールからそのまま武器として使用可能なワンドは異空間に存在する二つのプラントと繋がっており、ほぼ無尽蔵の水素と酸素及びその化合物である水を自由自在に生産・供給することができる。更にこの水には水素原子よりも小さな魔力の粒子が炭酸水の二酸化炭素よろしく混ざっており、動きや温度を意のままに操ることができる。つまるところ、"乾いた陸地で溺死する兵士"のトリックもまたこの機能なのである。
彼女の変身形態は、鎧というよりドレスに近い。メタリックな青を中心に所々へ淡いピンクが配されたそれは優雅かつ高貴な雰囲気を醸し出しており、スカート部分には蛸の触手を思わせる意匠が見受けられる。
「~♪」
変身の副作用でそれなりに戦場へ適応したラピカは、ゆっくりと歩きながら目につく兵士達を次々溺死させていく。
そんな彼女を背後から狙撃しようとする兵士達や、流水攻撃だけでは対処しきれない機動兵器の類を始末するのは、潤奈・亜衣莉・セライアの三人である。
穏やかで何事にも同じない芯の強さからサムの相方として選ばれた潤奈の変身形態は、メタリックなオレンジとライムグリーンのカラーリングが輝くプレートアーマーである。
額から角の生えたイグアノドンの意匠が特徴的なそれはある意味アルティノの変身形態と同じようなものであったが、それらの全体的な設計は大きく異なる。
ゴルドの変じた鎧が恐竜の骨をモチーフにした重厚で攻撃的なもデザインであるのに対し、サムの変じた此方は生きた恐竜のパーツを取り入れた薄手かつ防御的なものとなっている。年齢不相応な潤奈のボディラインへ寸分の狂いもなくフィットするように設計されたその鎧は、敵からの攻撃を次々と受け流していく。専用の武器は鎖によって連結された円錐形の夫婦槍で、これは発見当初角と誤解された事で有名なイグアノドンの持つ唯一絶対の固有武器たる両手のスパイクに相当するものである。
好戦的な性格から相性が良いとの考えでルークと組まされる事になった亜衣莉は、細身故に身軽な身体を最大限に生かす為、極端に露出度の高い黄金色のビキニアーマーを装着している(故に、今回のツール装着者では唯一変身前に一度全裸に為らざるを得ず、変身を解除すれば十割全裸という致命的な欠点がある)。変身ツールであった籠手は二つに割れて両肩に移動し、背から生えたコウモリが如し翼で空を飛ぶ様はまさしくドラゴンと呼ぶに相応しいであろう。
武器は両膝と両肘から先を覆う爬虫類的な刺々しい鎧であり、臑と二の腕には鋭い鉤爪型の刃物が三本ずつ格納されている。この爪は発熱・急熱・帯電・振動等様々な機能を備えており、これらは潤奈と亜衣莉のコンビネーションをより凶悪なものへと仕上げていた。
白に関連づけてグリッドの変じたツールを持たされたセライアの変身形態はまさしく『武装天使』の四字に尽きる。背に生えた巨大な純白の翼は時に彼女の華奢な身体を守り、純白に白金の装飾がされた甲冑は魔術や砲弾をも退ける力を秘めている。
そんな彼女の用いる武器は、鳥の風切り羽根が如し矢を連射する小ぶりなクロスボウである。小ぶりと言ってもその性能は確かなもので、矢とは思えない起動で何処までも対象物を追尾し、着弾と共に巻き起こる爆発は航空機の装甲にも風穴を開けてしまう。
そしてセライアの主たる影の魔人ラ・エスペーロは、地上にて(あくまで彼の基準に於いては)この世で最も美しい色を全身に纏う臣下の姿を見ては奮い立ち、一騎当千の強さで真宝軍を圧倒していったという。
―上空―
「クッ、どういうことだ!何故武器が出ん!?」
「ひぃっ!た、助けてッ!誰かぁぁぁ!」
「何でよぉ!?さっき見たときは満タンだったのにぃ!」
情けない泣き言を言いながら次々とやられていくのは、絶大な火力と完全な防御能力によって戦場の頂点へ君臨していた筈の飛姫種達であった。
今や彼女らの力は勢い良く衰退へと向かっており、虚空から出るはずの武器はその取り出し口自体が開かず、長剣の斬撃をも弾き返していた不可視の盾は今や自分を踏み付けようとしげくる足も防げていない。飛姫種としての力を失った彼女らは最強の精鋭部隊から一変、この場の何者よりも戦場の似合わない脆弱な稚児へと成り下がっていた。
「凄いわね……あんだけ強かった奴らが一瞬で……どうなってんのかしら」
【さてネ……解っていることと言えば、僕らはとんでもないヤツと組んじゃったみたいって事くらいかナー】
スカイブルーの甲冑とエメラルドグリーンのドレスを組み合わせたような変身形態のシャアリンは、背から生えた三対の翼―れっきとした始祖鳥のもの―で空に浮かび、専用武器である弓(鳥の尾羽を根元で連結したような優雅なデザインのもの)で、地上へ叩き落とされた飛姫種達を狙撃しながら、しかしどこか呆れ気味にぽつりと言った。相方に選ばれたミチルの反応にも、本来彼のアイデンティティであるはずの陽気や覇気といったものがまるで感じられず、どこか不自然ですらある。
普段は(ベクトルやタイミングこそ違うものの)クールであり情熱的な二人がここまでになっている原因は、つまるところこの怪現象の主犯―もとい、クロゴキブリのドーンとタッグを組んだクルトアイズに他ならない。ゴキブリを模した紫と灰色のパワードスーツという、どこか彼らしいSFめいた姿へと変身したクルトアイズは、クロゴキブリの高い機動力と『第三の異能』を以て飛姫種達を圧倒していた。
ワイヤーの生成、ゲートによる空間転移に次いで彼が持つ第三の異能―それは『女性の無能力化』という、どこかセクハラめいたものである。
総合的に見てもかなりややこしい代物であるこの異能は、行使者であるクルトアイズ自身が女性(雌)と認識できる存在にしか効果がない。更にその効果も完全な無力化と言うよりは『弱体化』に近い側面がある。確かに『異能』の類は打ち消されるが、身体能力は『外見相応まで下がる』だけである。それ故異能に頼らない筋骨隆々な女流格闘士などにはまるで太刀打ち出来ず、一方的にやられてしまうだけだという。
しかし今回この戦いでは幸いなことに、それらのデメリットは殆ど意味を成さなくなっている。というのも、元より幼女崇拝の現真宝に於ける『優れた戦士』とは、脆弱で矮小そうな外見で異能や現実離れした怪力を振るう少女を指す為である。
かくして猛者達をあれほど苦戦させた飛姫種の群れは、ただ一人の異能者による思わぬ巻き返しを喰らい実質的に壊滅。一部の幸運な隊長・幹部格こそ本部へ還送されたものの、その殆どは国に見捨てられ、助けられもせず、哀れに(そして無様に)野垂れ死んでいくのである。
次回、追い詰められた真宝軍が切り札を発動!
負けじと自ら戦場に赴く香織!そして等に手渡されたスイッチは、遂に光るのか?