第二百十一話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:飛姫種編-転
よ、よし……これでひとまず最初の召喚シーンで入ってきたゲストは全部出せた……
―前回より・真宝軍司令部―
「状況はどうだ?どうなっている?」
「はっ、ようやくこうてんのきざしがみえてっまいりました。やはりひきしゅぶたいはべっかく、ということなのでしょうね」
どこか挙動不審なダリアの問いかけに、ライオンの着ぐるみを着た司令官は淡々と答えた。
「そうだろうな。そうだろうよ。そうだろうとも。彼女らの忠義と実力は我が軍でもトップクラス、飛姫種としての力イスキュロンの脳筋共とて一溜まりもあるまい。そうだ……勝つのは我々……この樋野ダリアだ……」
今野を投げ飛ばして以後取り憑かれたように映美平原襲撃へ拘る今の彼には普段の落ち着きや気品というものがまるで見られず、同じくノリノリである恋双を除く多くの首脳陣は、そんな彼の動向をどこか疑わしく思っていた。
しかし長い付き合いで彼の恐ろしさを熟知している彼らはそれを指摘することもできず、ただただ影から見守ることしか出来ずに居た。
「ダリア様……一体何があったのだェ?」
「取り憑かれたように軍へ攻撃命令を……」
「正気の沙汰ではないな……あれでは兵力を浪費するだけだぞ」
[普段のダリア様ならば有り得ぬ事だが……]
「映像には細工の一つもないのよねぇ……」
暴走する自分達のリーダーをただただ物陰から見守るばかりの五人であった。
―同時刻・映美平原―
「消し飛びなさいっ!」
「丁重に断らせて頂こうッ!」
青い流線型のPSによって虚空から放たれた無数の誘導弾は透き通った針のような物体に刺し貫かれ爆発四散。直後、何処からともなく発生した大量の水蒸気が分厚い壁を形成する。どうやら針のような物体を構成していたのは水か何かのようだった。
「君のような……実に華憐かつとても貞淑で、更に言えばこの上なく高貴な―有り体に言えば至宝に等しい美少女の申し出なのだから、本来ならば涙ながらの歓喜と共に受け入れるのが筋というものなのだろう」
芝居がかった口調で語りかけながら分厚い水蒸気の壁をすり抜けて現れたのは、青い長髪や淡い紫色の皮膚、条鰭類の胸鰭が如し形状の耳が特徴的な麗人―基、水の使途精霊・セレイヌであった。
「だがしかし、この戦いでそれなりの戦果を残せばもっとイイモノが手に入るのでね。悪いが君、ここで死んでは――
くれないだろうか? セレイヌがそう言うより先にPSの装着者である尖耳種の放った光弾が彼女の顔面を掠め、左耳の先端が円形に抉られる。しかしセレイヌは表情一つ変えもせず、嘲り嘗め回すような視線を維持し続ける。
「お黙りなさいよ、巨乳の分際で生意気な」
「巨乳の分際、か……それは差別かね?頂けんなぁ。体型で同性を測るとは、女の風上にも置けない雌ぶt――「口を慎め、阿婆擦れがァッ!」
怒り狂った尖耳種はセレイヌを口汚く罵り、虚空より取り出した砲塔と機関銃による集中砲火で眼前の異形を仕留めにかかる。しかし当然、使途精霊に選ばれる程の実力者たるセレイヌがその程度の攻撃に屈する筈もない。
誘導弾は水の針によって打ち消され、無数の弾丸に至っては水の分厚い障壁に触れるだけで砕け散ってしまった。これは別にセレイヌが何らかの術を使ったとかそういう事ではなく、ライフルや機関銃に用いられる弾丸が水面に触れると当然のように起こる現象だったりする(この辺について詳しく書くと話が長くなるので知りたければ各自で調べろ。OK?)
「……ヒトは感情的になればなるほど真実を指摘されることを嫌うとはよく聞くが、まさかここまでとは予想外だったな。華憐・貞淑・高貴な至宝はあくまで上辺、その実は貧相・粗雑・野蛮なゴミに過ぎなかったわけか」
「■■■■■■■■■■■■■■■!」
度重なる嘲りに怒り狂った尖耳種は、喉を破壊する勢いで狂ったように叫び狂い、弾切れを起こした機関銃を鈍器のように振り上げセレイヌに殴りかかろうとした――が、そこでふと正気に戻った彼女はあることに気付く。
「(腕が、動かないっ!?)」
一体何事かと思い腕に目をやった尖耳種は、一瞬目を疑った。
それもその筈、彼女の腕は透明なゴム系ボンドが如し物体で固定されていたのである。
尖耳種は何とかしてこれを振り払わんと躍起になるが、透明な物体の粘性は凄まじく、指一本触れる事さえ叶わない。
「(まずいことになりましたわ……早く抜け出さないと……)」
尖耳種は焦っていた。ここで立ち往生していては何れPSのエネルギーが切れてしまうだろう。そうなれば武装はおろか防御や飛行さえも封殺されたに等しくなり、比類無き力とは名ばかりの脆弱っぷりを戦場で晒す事になる(飛姫種という存在そのものが衰退傾向にある主な理由が大体コレだったりする)。
要するにPS無き飛姫種は単なる非力なヒトに過ぎないのである。その事を半ば自覚しながらも飛姫種の絶対性を盲信したい彼女は何とかして謎の物体から抜け出そうと躍起になるが、樹脂同然の強度を得たそれは貧相な身体を固定したままびくともしない。
と、その時である。
「おーおー、何かすげー藻掻いてんなぁ。チビの癖によくやるぜ」
突如、尖耳種の身体を固定する謎の物体から比較的ボーイッシュな身なりをした女が這い出してきた。女は慌てうろたえる尖耳種の上に座り込み、小動物でも愛でるかのように華奢で無防備な顔面をいじくり回す。
「っく、ちょ、なにを、や、やめ、おやめなさいっ!」
「やめろと言われてやめる馬鹿はいねぇよ。おめーだって曲がりなりにも兵隊だろ、戦の基本ぐれーわかっとけ」
「そんなもの、あなたごとき逆賊に説かれるまでもありませんわっ!」
等と言いながら尖耳種の頬を引っぱたいたり抓って引っ張ったりという行為を繰り返すこの女は、名を虎牙大河という。
聖香や天空と同じくアジアの伝承に伝わる存在を起源とする妖怪変化の類いだという彼女の属する種は水虎だという。しかしその『水を司る虎』という形質は地球上の伝承(記録によれば『鱗に覆われた小動物或いは河童の亜種』だとか)とはまるで異なるものであり、幼くして歴史学に傾倒していた清水香織の驚きはかなりのものであった。ただ、形質はどうあれ実力だけは確かなようで、今現在尖耳種を拘束している透明の物体も、彼女が水蒸気から造り上げた『粘り気の強い水』であったりする。
「それに、この私を兵士なんかと一緒にしないで下さいませんこと!?」
「はぁ?」
「私は戦士―それも、選りすぐられた精鋭の中の精鋭ですのよ!?確固たる己の意志と矜持のもと、真宝という国家へ忠誠を誓っているのですわ!」
「ふぅん、で?」
「~ッッッ!―つまり、何も考えずただ目先の欲を満たすためだけに国家へ寄生し、税を食い潰してばかりでまともな働きもできないような兵士達とは別格の存在であると―――「うぉぉぉぉぉぉぉ!大河ぁぁぁぁぁ!そこどけぇぇぇぇ!」―――へ?」
尖耳種が何やら長ったらしい(そして冷静に考えるまでもなく確実にブーメランとなるであろう)兵士批判を始めようかという時、それを遮るように何処からか叫び声が木霊した。声からして少女であろうか、ともあれその声に聞き覚えのある大河は素早く飛姫種の上から飛び退く。
「(……何!?一体何が起こるんで―――って、え?)」
状況を把握出来ない尖耳種の目に飛び込んできたのは、彼女自身と同じか少し大きいくらいの小柄な人影であった。
赤いツインテールに布地の少ない小豆色の戦闘服という攻撃的な身なりが特徴的なその少女は、右手に蟹の鉗脚(カンキャク:即ち俗に言うハサミ)を模した鋭い篭手を振り上げ尖耳種に飛び掛かる。
「おっ死ねぇぇぇぇぇい!」
「ひぇああぁああっ!?」
少女の鬼気迫る表情と無駄にリアルな篭手に恐れをなした尖耳種は悲鳴を上げた末に気絶。しかしそれに気付かない少女は憎き敵兵の顔面へ篭手の一撃を叩き込まんとする――が、その攻撃はPSの防御機能によって弾き返されてしまった。
「んな――くそっ!」 大きく吹き飛んだ少女は、尚も諦めずに殴り掛かっては弾き返されるという不毛なループに陥ってしまった。
一方そんな少女―もとい、蟹座の精霊アクベス・ノヴァーク―と知り合いの関係にある大河は、酷く間抜けな彼女の様子を遠目から眺めつつ、雑兵など締め上げながら呆れ返っていた。
「(効かねーって気付けよ……)」
―同時刻・別位置―
大勢が集まって思うまま何かに興じるのなら―例えそこが戦場であろうとも―特定の流れに縛られることのない例外はほぼ必ず存在すると言ってよい。
「ぐぉぇああぁっ!」
「ぎゃああぁぁああっ!」
「あべばぁぁぁっ!」
飛姫種による攻撃の及んでいないエリアに、平仮名ばかりで構成された兵士達の悲鳴や断末魔が次々と響き渡る。彼等は皆奇妙な風によって隣り合う二カ所に集められ、互いを滅ぼさんと対立する邪悪のどちらかによって、この上なく惨たらしい方法で懇切丁寧に殺されていくのである。
そして上記の『対立する邪悪』というのが一体何者であるかはもう言うまでもあるまい。
「せァらァ、死ねェ!」
「神に背くもの、呪われよッ!」
お互いの支配権をかけて殺戮の限りを尽くす悪魔と神霊の暴虐は、より効率化されたシステムの導入により更なる発展を遂げていた。
そのシステムとは……
「おいチビ!大至急五人ぐれぇ飛ばせ!」
「妖精さん、追加で三人ほど飛ばして下さいなッ」
「任せて~♪」
二人の呼びかけへ気楽に応じるのは、空中に浮遊したまま二人の側へ背を向け楽しげに踊る、妖精を思わせる小柄な少女であった。
暖かな春風を思わせるウェーブがかった薄いエメラルドグリーンのロングヘアと尖耳種のような細長い耳が特徴的な彼女の名はロロニア。シャアリンと契約している大気精であり、幼く華奢な外見に反してダカートやセレイヌ共々使徒精霊に選ばれるほどの実力者である。
元々は戦力として召喚された彼女であるが、現在は『勝負をより効率的かつ平等に進めたい』というウルスラとリコリコからの要望で二人のサポートに回っていた。
傍目から見ればヘッドフォンで音楽を聴きながら空中で踊って兵士達を誘引しているようにしか見えない彼女であるが、しかしその周囲には香織の手解きを受けたロロニアによって構築された回避不能な魔術の罠が張り巡らされている。
ここで真宝軍の関係者が彼女に近付こうとすれば忽ち猛烈な上昇気流によって吹き飛ばされ、ロロニアの意のままにウルスラもしくはリコリコの待ち構えるそれぞれの陣地(地面に描かれた赤と黒の円陣)へと吹き飛ばされてしまうのである(更にこの罠、車両の類が掛かると中の兵士だけがすっぽ抜けて飛ばされてしまうというから驚きである)。
かくして戦いが壮絶さを増す中、異空間にて進められていた『唱道者出陣作戦(仮称)』の準備はほぼ完了と言える段階に到達。唱道者達及び潤奈、亜衣莉、クルトアイズ、セライアの七名は香織の指示を待つばかりとなった。
次回、香織の発案した『唱道者(及びその他諸々)出陣作戦(仮称その2)』の全貌とは!?