第二百十話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:飛姫種編-承
飛姫種というと思い浮かぶのはセシル・アイトラス。
しかし真宝軍によって集められた精鋭部隊の実力、当然あんなもんではない!
―前回より―
謎めいた『空を飛ぶ集団』との戦いは熾烈を極めていた。
「焼却処分だ、クズがァァァァァ!」
雄叫びと共に背の翼で空へ舞い上がり眼前の敵を焼き払わんと極大の火炎放射を放つのは、上半身裸にマフラーという野性的な出で立ちの青年・ダカート。アルティノと契約した使徒精霊であり、炎を司る傲慢で若干稚拙なサラマンダーである。
「馬鹿め、そんな隙だらけの攻撃が当たると思うかァッ!」
ダカートの火炎放射を余裕綽々といった様子で回避するのは、所々に赤いラインの入ったパワードスーツらしきものを身に纏い宙に浮かぶ軍服姿の小柄な兎系禽獣種であった。その体毛は宵闇のように黒く、左目を塞ぐ白銀の眼帯は、小さく貧相な身体でせめて相手を威圧してやろうという無駄な抵抗が見て取れる(気がしてならない)。
更に言えば、あくまで翼と熱を利用したホバリングで浮遊するダカートと違い、小柄な黒兎はまるで重力を無視したかのような動作で自由自在に動き回る。
「ちェい、くそッ!このチビがッ!一々無駄にウゼェ動きしやがって、このッ!」
元より頭を使うことに慣れていないダカートは、イエバエを思わせる黒兎の機敏な動作に翻弄されながらも、何とか眼前の敵を捕らえようと手を伸ばす。幾ら空を飛べると要っても相手はあの体格、掴んでしまえばパワーは此方が勝ることだろう。
「(たとい腕っ節で負けようが、俺の炎で焼き殺してやらァッ!)」
ダカートは熱を纏わせた両腕で黒兎につかみ掛かるが、黒兎は当然であるかのようにそれを避け、鋭利な装甲板で覆われた右手でダカートの腹を貫きにかかる。
「てェァッ!」
しかしダカートはそれを左足で蹴り上げるようにして弾き、立て続けに火炎を纏わせた踵落としを黒兎の鼻先へ叩き込もうとしたが、左脚が下がるより前に黒兎は彼の眼前から姿を消した――否、瞬時に背後へ回り込んだのである。
「なッ――っぐぇあばぁっ!」
気配を察知したダカートはすかさず回避に転じようとするが、時既に遅し。
「その鬱陶しい腹筋、この私が貫いてやろう!」
黒兎の手甲から生えた刃によって翼の付け根を斬り付けられたダカートはなす術もなく飛行能力を失い撃墜されてしまう。黒兎は虚空から慎重の二倍はあろうかという巨大なライフルを繰り出し、もがきながら落ちていくダカート目掛けて放つべくこれまた虚空から取り出した弾丸を装填。照準を定め引き金を引こうとする。
「落ちろ、蚊トン……ぼ?」
が、その攻撃はすんでのところで不発に終わった。落下していたダカートの巨体が、突如何所からか伸びてきた紐らしきものによって照準の外へ持ち去られてしまったのである。
「ええい、面倒な!一体どこへ消えた!?」
苛立った様子の黒兎は対戦車ライフルを投げ捨て(手を離れた直後に消滅)部下と思しき女性兵士数人(皆、同じようなパワードスーツで貧相な身体を武装し空中に浮遊)を呼び集めダカートを探すよう命じると、自身も何処かへ飛び去っていった。
謎の空飛ぶ集団―もとい、真宝軍飛姫種精鋭部隊の力は、嘗て繁によってあっさり殺されたセシル・アイトラスを遙かに上回る凄まじいものであった。
―同時刻・地上―
「危ないところでしたねぇ、大丈夫ですか?」
「あぁ、御陰様でな……ところでお前らは……」
「僕の事はどうぞ、秋ちゃんと呼んで下さい。そして兄の季周と、妹の雪」
「季周だ」
「よろしくー」
ダカートを助けたのは、アジア大陸圏風の身なりをした秋赤、季周、雪の三名であった。早い段階で身を隠していた彼らは今、傷付いたダカートの身体を治癒魔術で癒しつつ周囲の様子を伺っていた。
その純然たる戦闘センス(というか、秋赤の用いる『自由自在魔法』なるもの)に目を付けた香織によって戦力として召喚されたこの三人兄妹は元々『世界管理核』なる仰々しい名前の割にさして恐ろしいわけでもない異世界にて『世界の管理』という義務を請けながら生き続けているのだという。
またその体格は存在する次元・世界によって一定範囲で変化するらしく、現在でこそ1.7m程度とそこそこ平均値である季周と秋赤の身長など、ホームグラウンドである『世界管理核』に於いては何と2mを超えるのだというから驚きである。
―同時刻・別位置にて―
幾ら飛姫種の力が圧倒的だからといって、何も香織側の全員が季周達のように戦略的撤退という選択肢を選んだわけではない。
「―――ふッッ!」
「くッ!」
「ッせァ――!」
「ひっ!」
聖香。肩までの紅髪と金色の瞳が特徴的なこの少年もまた(理由が『放置しておいても面倒だから』というものではあるが)、相方・天空共々積極的に飛姫種へと戦いを挑んでいた。
得物としてどちらも剣を用いる彼等の戦術は『飛び掛かって斬り付ける』という至極単純なものである。ヒトの姿を得た猫科動物の変化である彼等の脚力は凄まじく、こと跳躍に関しては今回召喚されたメンバーの中でも五本の指に入ると言っても過言ではないだろう。 また飛行手段を持たない二人にとっては幸運なことに、彼を襲っている飛姫種の部隊は全員が狙撃銃や機関銃の専門家であり、その照準は僅かな気流の変化にも大きく影響されてしまう。そのため『照準がぶれず、かつ相手からの攻撃を受けにくい絶妙な距離』をキープする必要性があった――のだが、その高さも聖香や天空の跳躍力の前ではまるで意味を成していなかった。
だが、問題はあった。
「(……やっぱり駄目だなぁ)」
「(どういうわけか全部弾かれる……)」
振るう長剣の刃が弾かれる―というより、相手の肉体に到達する事なく押し返されてしまうのである。 これはプリンキピサ・サブマ(以下PS)に備わった防御機能によるものであった。かつて繁によって突破された筈のそれはセシル・アイトラスの死亡を機に度重なる改良がなされており、最早この世にあるいかなる攻撃をも通さない、まさに鉄壁と呼ぶに相応しいものとなっていた。
これを打破しようと思うなら、飛姫種を餓死または戦意喪失させるか、或いはこの世の法則を逸した現象によって根源から破滅させるぐらいしか方法はない(一応これ以外にも選択肢は存在するのだが、それを現在飛姫種と交戦中の面々が行うのは不可能に等しい)。
「(かくなる上は天空にあれを使わせようか……)」
聖香の言う『あれ』とは、天空の用いる妖術のことである。
その効果は『辺り一面に地獄を再現する』という極めてアバウトかつ恐ろしいものであり、上手く行けば確かに飛姫種の根絶も十分可能ではあるだろう。
「(でもこれは最後の手段だし、本当に後が無くなるまで温存した方が無難だよねぇ……)」
堅実な策を選んだ聖香は、守り重視の姿勢で状況をやり過ごす事にした。
次回、飛姫種達に立ち向かうため、あの男が立ち上がる!?