第二十一話 生徒が次々と怪死していく理由を説明出来ない
あの悲惨なテロ事件から一週間後、事件はラビーレマで起こった。
―ジュルノブル城襲撃から一週間後・東ゾイロス高等学校―
学術大陸ラビーレマの大国に存る名門私立高等学校・東ゾイロス高等学校の夕暮れ時。
多くの生徒達が自宅や寮へ戻り、一部は部活動の練習などで校内へ残っている時間。
広い体育館の片隅で練習に励むのは、実力者揃いの東ゾイロス高校バスケットボール部の面々。
練習風景の見回りをしていた亀系有鱗種(禽獣種・羽毛種の爬虫類版)の顧問が、ふとある事に気付く。
「(諏訪が居ない…?)」
部員が一人、足りないのである。
その部員・諏訪というのは大変に真面目な尖耳系霊長種の男子寮生であり、無断で欠席・早退するなど有り得ない程の人格者であった。
華憐で手足が細く、虚弱で儚げな美男子ながらに、持ち前の機敏さを生かして毎度試合ではチームの勝利に貢献する優秀な部員である諏訪を顧問は気に入っていた。
そもそも気に入りであろうがなかろうが、自らが顧問を務める部活の部員が失踪したとなれば心配するのが教員というもの。
顧問は早速部員達への聞き込みを始め、ある部員から『休憩時間中トイレに行ったのを見たがそれ以降見ていない』という証言を得るに至る。
余計心配になった顧問は、早速部員達が利用する男子トイレへと向かった。
しかしトイレに諏訪の姿はなく、顧問は結果的として他に諏訪が行きそうな場所を一時間以上かけて探し回ったが、結局諏訪は見当たらなかった。
念のためにと諏訪が寝泊まりする寮にも連絡を入れたが収穫は皆無であり、ふと時計を見れば練習が終わる時刻が近かったため、戻って部員達を帰らせようと、顧問は体育館へ戻ることにした。
と、その道中。
「っぎゃああああああああっ!」
「ひぃぃいいいいいいいい!?」
「な、なんだああああああ!?」
部員達の悲鳴が響いた。
丁度、練習中隊長を崩した部員達を休ませる為に使っている休息所の方角からだった。
「(一体何事だ!?)」
まさか校内に不審者でも現れたんじゃないだろうな?
顧問は思った。
つい先週ノモシアの方で城が襲撃され、宮廷警備隊や軍人、王族など述べ100人以上が殺害されたテロ事件のように、良からぬ事を企む輩が入り込んだのかもしれない。
そう思っただけで、顧問が抱えていた不安が急激に肥大化していく。
「(だとすれば…最悪俺が身を挺してでも奴らを守るだけだ!)」
そう決意した顧問は、亀ながらにかなりの早さで休息所へ駆けていく。
―そして、休息所―
「お前達!無事かっ!?」
「先生っ!」
休息所に入るとすぐさま部員達が駆け寄ってきた。
「良かった……全員無事らしいな。
それより、一体何があった?」
「それなんですが、その……」
誰もが酷く怯えているのか、部員達は中々言葉を切り出せない。
顧問は一度部員達を外で待たせた上で、休息所の中に入っていく。
暫く進んでいると、休息所の奥にあるベッド二つの間から、茶色い枯れ木のような物体がその先端部を除かせていた。
そして顧問は、ベッドの間に打ち捨てられていたその物体の全貌を目の当たりにして、思わず言葉を失った。
「(これは……どういう事だ…?
だがこれで、あいつ等が悲鳴を上げたのも納得が行く……)」
顧問が目にしたその物体―てっきり枯れ木か何かだろうと高を括っていたそれ―は、極限まで水分を失い干涸らびて絶命したヒトの死体であった。
体格から推測するに年齢は15~17歳、種族は霊長種と言ったところだろうか。
体組織は殆ど骨と皮だけとなり、何故か頭髪の色素も限界まで抜け落ち、更に両目の水分が完全に失われた結果、まるでえぐり取られたように眼窩の大穴が存在していた。
「(一体何がどうなっているんだ……?)」
等と考え込む顧問の頭にふと最悪の事態が過ぎるも、しかしやはり教員と言うだけあり冷静を保つ顧問はこの事を学校に報告し、部員達を即時帰らせた。
発見された死体はすぐさま教員達の手で解剖にかけられ(ラビーレマでは情報漏洩や無駄な混乱を防ぐため余程の大事件でもないかぎり、事の解決に公的機関を頼らない流れが一般的である)身元調査が行われた。
結果として襲われたのは、バスケットボール部一年の諏訪という生徒であると判明。
即ち、顧問の予測した不吉な予感が的中したと言うことになる。
翌日以降学校側は事を荒立てない為、死体の第一発見者であるバスケットボール部員を公欠扱いとして欠席にする等して情報漏洩を防ぐと共に、有効な打開策を練り始めた。
そうして三度目の職員会議序盤、羽毛種の数学教員がこんな事を言い出した。
『そういえば先週ノモシアの城を襲撃したラジオ番組の三人組は、自分達に解決して欲しい謎や事件のネタを募集しているのではなかったか』
更に数学教師は続ける。
『彼らの番組の題材として、この事件を解決させるというのはどうだろうか?
彼らはコンセプトにより収録した情報を編集すると言っていたし、仮に生中継だったとしても校名を出さないようにして貰えば良い』
数学教師の提案に、職員達は真っ二つに割れて対立した。
一方はその考えを支持する賛成派で、繁達の高い実力を評価しての事だった。
もう一方は反対派であり、此方は繁達がテロリストであるから迂闊に信頼してはならないという考えを持っていた。
ちなみに根っからの王政嫌いだった顧問は賛成派であり、この事は賛成派にとって強みとなっていた。
二時間にも及ぶ議論の末賛成派の意見が通る事となり、代表として理事長が繁達へ宛てた依頼状を出す事となった(この事は理事長たっての希望によるものである)。
教員達が安堵したのも束の間、校内に潜む謎の存在は次々と生徒達をその手にかけていき、次々とミイラ化させて殺害していく。
事態を重く見た理事長は事情を生徒や生徒の保護者にも報告し、徹底した情報規制を敷くよう要請。
更に表向きには感染症流行の為と題して長期間の学校閉鎖を遂行(事実この時、ラビーレマでは運良く季節性の感染症が出回っており、欠席者もかなりの数が居た)する事で、これ以上の犠牲者を増やさないようにした。
次回、遂に繁達が動き出す!