第二百八話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:追走編
予定よりグダグダになっちまった……
―同時刻―
クルトアイズ達が異空間を進む一方、潤奈と合流したファビリア達はこれまでにないほどの危機的状況に見舞われていた。
「何でこうなんねやぁぁぁぁぁぁ!」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!」
「喋る暇あったら走りなさい!」
「でないと死ぬわよ……ッッ」
「何だか良く判らないけど賑やかですー」
「お前は状況把握せぇや!元凶やろがー!」
潤奈と合流し彼女を無事に回収した四人(ファビリア、亜衣莉、チェリス、キメラ)であったが、そんな彼女らは今、数多の兵士や機動兵器に追い回されていた。彼らは召還時の不具合によって亜衣莉以上に幼女化した潤奈に引き寄せられて集まってきたのであり、その興奮度は同じく幼女めいた体格の亜衣莉が視界に入ったことで急上昇。歯止めの利かなくなった兵士達は最早言葉さえ発していない。
「っていうかファビリア!あんた何でヒト足にならないのよ!?あの清水って女にヒト足でも走れるようにして貰ったんでしょ!?」
「そーやそーや!お前この状況下で下半身ヘビとか状況なめとるやろ!はよヒトの足にならんかい!」
「うっせー!さっき兵士ぶっ殺す時脱がずに変身解除しちまったからズボンが原型留めてねーんだよ!」
「何やってんのかしらねぇこの馬鹿は……いや、でもちょっと待って?つまり今のあんたってサラシ取れば全裸よね?じゃあそれでも―――「いいわけあるかァ!」―ぶべっ!」
「みんながんばれなのですー」
こんな具合で兵士と機動兵器の群れから逃げ続けている五人であったが、ここでふとチェリスがあるものを発見する。それはこの状況を脱する事に直結するものであり、狩猟生活仕込みの高い視力を持つ彼女だからこそ発見できたと言えた。
「みんな、跳ぶわよ!」
「はぁ!?お前、何言ってんだ!?」
「とうとうお前までおかしくなったんかい!?」
「違うわよ失礼ね!上手く行けば助かるかもしれないのよ!」
「助かる可能性……まさか……」
「クルトアイズよ!あいつの空間亀裂が見えたの!距離にして大体500mくらい先かしら、兎に角猛ダッシュで飛び込めばどうにか助かるわ!キメラっ!」
「……把握ッッ」
その一言と同時にキメラは背から生えた触手のような赤黒い物体でファビリア達を抱き抱え、続いて両足を兎か猫のように変化させ大きく跳躍。十分な高さに到達した辺りで両腕を滑空用の翼に変化させ、平原のど真ん中に浮かぶ青黒い炎のようなもの―もとい、クルトアイズが創り出した異空間への門―へと飛び込んでいく。
しかしどういう事なのか、"門"をくぐって異空間へ逃げられたのはキメラ・潤奈・亜衣莉の三人だけであり、ファビリアとチェリスはすり抜けるようにして地面に落とされてしまった。
当然ながら二人は激怒しつつ"門"に向かっていったがすんでの所で"門"は跡形もなく消失、その場には一枚の紙切れだけが残されていた。
幾分か冷静さを取り戻した二人が手に取ったその"メモ書き"には、こう書いてあった。
『一度清水ん所へこいつらを送ってくるからお前らもうちょい頑張っとけ。敵が狙ってんのは潤奈、亜衣莉、セライアぐれーだし、エスペロとキメラもすぐそっちに向かわすからまぁ大丈夫だろ』
「……あンの馬鹿ァァァァ!」
「この人でなしがぁ!俺らだけでどうにかしろってか!」
「今度会ったら只じゃおかないんだからったく……くのっ、くっ、かっ!」
メモ書きを無茶苦茶に破り捨てたチェリスと再び激怒したファビリア、ふとある事を思い出し―――言葉を失った。
そういえば自分達は今、妙に本気を出した軍隊から追われているのではなかったか。それも、どういう原理でか着ぐるみが変形した妙に武装の豊富な鎧を着た兵士と、その何倍もあるような装脚機動兵器に、全力で。
「「――……――……」」
二人は余りにも絶望的な状況から硬直。歯止めの利かなくなった真宝軍は、瞬く間に彼女らの手前10mにまで迫っていた。
すんでの所で正気に戻った二人は何とかその場から逃げ出そうとするが、当然間に合う筈もない。両腕にチェーンソーやプラズマの刃を展開した兵士が一斉に二人へ斬り掛かろうとした――その時。
極太の光が兵士達を一瞬で消し去り、凄まじいまでの質量が装脚機動兵器の群れを一気に叩き潰した。
「大丈夫?怪我とかない?」
状況を理解出来ないまま立ち尽くす二人の眼前に現れた少年―もとい、異能者・陸方蓮―の問いかけは、戦場に不釣り合いなほど暢気なものであった。
「あ……うん、大丈夫だけど……君が助けてくれたの?」
「いや、あいつらを直接やったのは剛磨と巴姉ちゃんだよ」
「……そうかよ、まぁお前みたいな小僧がこんなん出来たらホラーだよなぁ。つーかお前、誰?」
「あぁ俺?俺は陸方蓮。アンタ達と同じように、清水さんに呼ばれてここに来たんだ」
「ここに来たって……君みたいな小さい子が?」
「うん。何か『あなたの力を見せて欲しい』とかってさー、面白そうだし剛磨も居れば大丈夫かなって」
「暢気だなお前……」
「本当にね……」
ファビリアとチェリスは思った。清水香織という女はどこまで節操がないのかと。
無論、彼女の男性経験について言っているのではない。人員チョイスの話である。
自分達や浪華、ウルスラ等のように確固たる戦闘能力と命を賭ける覚悟を持った"戦士"を呼ぶのならまだ解る。
潤奈を呼んでしまったのも予期せぬ不具合によるものだったというから、それはまだいい。
だがしかしあの女は、心得があるとはいえ民間人レベルの能力しか持ち合わせていない亜衣莉や、或いは年端もいかないハーマや蓮をただ『それに値する能力がある』『興味深い』という理由でこんな場所に呼び出し戦わせている。
本人達と合意の上かつ負傷・死亡を極力防ぐよう装備を充実させているとはいえ、子供を戦場に呼び出し殺人の片棒を担がせるという行為を、平然とゲーム感覚で行える精神構造――
あの清水香織という女は、見た目に反してかなりの異常者なのではないか?
そう疑問に思った辺りで、二人は深く考えるのを止めた。
あの女の交渉に応じ、こうして戦場で戦っている時点で、自分達もあれと同じ穴の狢だと蔑まれても文句は言えまい。
ならば深くは考えず、今は精々あの女の為に戦ってやろう。元々戦うのは好きだ、今更何を躊躇うことがあるのか。
「(そうだぜ……俺だって戦争屋みてぇなもんだ)」
「(そうよ……私はカネさえ貰えればいいの……)」
「「((だから……躊躇う事なんて無 ぇのさ)いのよ)」」
どこかへ走り去っていく蓮を見送った二人は、クルトアイズによって送り込まれたエスぺーロやキメラと合流。戻ったらクルトアイズをどうしてやろうかと四人で語らいながら、次なる闘争を探しに走り出す。
一方その頃、兵士のグレードアップや機動兵器の投入にも限界を感じ始めていた真宝軍は、更なる新戦力の投入を検討し始めた。
次回、陸方蓮の持つ衝撃的な『異能』とは!?