第二百六話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:決意編
そりゃびっくりするよね……
―前回より―
「ちょ!?ま!?何ッ!?」
「え?あ?ぇえ?何ンなの!?」
いきなりの急展開に酷く狼狽した様子で取り乱すアルティノとラピカだったが、そんな二人を余所に香織は潤奈へ護符型の魔術具『救済への回帰或いは二代目の戦略的撤退』と黄緑色の錠剤を手渡した。
「とりあえず転移魔術で外に出すから、そこいらで誰かと合流して」
「わかったのです」
「一応亜衣莉ちゃん、ファビちゃん、チェリス、セラちゃん、エスペロさんに連絡入れて転移先まで向かって貰ってるけど、万が一多少は自分の足で頑張って貰うことになるかもしれないからそのつもりで」
「クルトアイズとキメラはどうしたのです?」
「何か連絡取れないの。コジロー君は多分次元の裂け目に隠れて糸撃ってるから電波が通じないんだと思う。キメラは……まぁ大丈夫でしょ。こっちの準備が整い次第連絡するから、そしたらこの薬飲んで。ラムネのお菓子みたいに噛んで飲めば大丈夫よ」
「はいなのです」
「それじゃ、頑張って」
「お姉さんも頑張って下さいなのです」
かくして転移魔術で潤奈を外部へ送り出した香織は、続いて唱道者三名と潤奈達に戦闘能力を付与する為の準備へ取りかかった。
―解説―
潤奈。この身元はおろか姓さえ不詳という謎めいたモンゴロイドの少女は、今回の計画に於いて召喚された異次元民としては極めて異例の部類に入る。 というのは元々、さして特筆すべき能力の備わっていない彼女の召喚は予定されていなかったのである。
その原因はシステムに生じた些細な不具合と推測され、その余波なのか、本来ならば10代中盤である彼女の肉体は大幅に若返ってしまっていた。
普通そんな事になってしまえば文句の一つも言うのが筋だろう。しかしそれでも何ら動じず、寧ろ楽しんでしまう程にポジティブなのが潤奈という少女であった(状況を理解できていないだけかもしれないが)。
「あのまま送り出して大丈夫だったの?あの子は私達以上に何の変哲もない人間なんでしょ?」
「大丈夫よ、問題ないわ。彼らなら上手くやってくれる」「……まぁ、あんたがそう言うなら信じるわ。
ほら!二人ともしっかりなさいよ、どうせシミズの用意してくれた回帰なんとかってののおかげで死にゃしないんだから」
「いや、そういう問題じゃないから!」
「そうだよ!大体唱道者って後衛どころか戦闘要員ですらないじゃん!」
「だからこそシミズの力を借りるんでしょうが!こういう時こそ唱道者の人格が問われるのよ!?」
かくして始まった二対一の言い争いはその後5分にも及び、シャアリンの辛勝に終わった(勝ったというより、説得して仲間に引き入れようとした所で香織が三柱の精霊へ勝手に連絡を入れて話をつけ、戦わざるを得ない状況にしたという方が正しいのだが)。
―同時刻・外部―
外部では尚も壮絶な戦いが続いていた。レダズ・ヒューマノイドの活躍で車両部隊が壊滅したにも関わらず尚も諦めない真宝軍は只の歩兵に限界を感じたのか、新たなる戦力の投入を決定。
生き残った兵士達の着ぐるみが機械的な鉄色の鎧に変形し、複数の脚で高速移動する機動兵器が次々と繰り出され、更にはそれまで裏方だった魔術部隊もエンジン付きのハンググライダーを展開して空からの襲撃を試みる。
「クソッ、てぇあ!ウゼェんだよ、このっ!」
喧嘩スタイルで歩兵達を打ちのめすのは、ホットパンツにサラシという軽装と荒々しいスカイブルーのロングヘア、そして赤いツリ目が印象的な細身の女・ファビリア。10代後半から20代程度と思しきその身体から放たれる一撃は外見に反して強烈で、迫り来る兵士達を軽々吹き飛ばしていく。
「このくそあまっ、きょにゅうのくせになまいきだぁ!」
「ふくろだたきにしてくれるわぁっ!」
自棄を起こした兵士達は右腕から小型のチェーンソーを振り上げファビリアに向かっていく。
対するファビリアは立ち止まって微動だにせず、胸に掛かった朱色で縦に長い四面体型のペンダントを掴んで力強く引きちぎった。
「なんだあれは?まじゅつのばいたいか?」
「きにするな!どんなにつよいまじゅつであっても、はつどうさせなければいいだけのことっ!」
「そうとも!れべるをあげ、ぶつりでなぐる!それだけの―
―「喋ってる暇ァねぇぞ、クソボケがぁっ!」
ことだろう そう言い切るより前に、ファビリアの手元へ現れた片刃の槍が兵士達を一斉に薙ぎ払った。
「ぐべらばぁっ!?」
「なばげべっ!」
峰打ちでこそあったものの、周囲を取り囲んでいた兵士四人の内三名はその怪力によって鎧ごと肋骨を砕かれ内臓を損傷。唯一無事だった兵士は鎧に詰まった機械類の殆どを壊されながらも何とか体勢を立て直さんとして起き上がるが、そこへファビリアが追い打ちをかけんと駆け寄ってくる。
「えぇい、くそっ!」
兵士は辛うじて無事だった拳銃でどうにか抵抗を試みたが、全て槍に弾かれてしまう。そして何故か地面に槍を突き立てたファビリアは、それへポールダンスの容量で絡みつく。遠心力に身を任せた蹴りを予想し脚を切り裂いてやろうとを起動せんとした兵士だったが、そんな彼の視界にふと丸太のような新緑の塊が写り込む。
「なに、へ――びぎひっ!?」
新緑の鱗に覆われた大蛇の尾―もとい、ファビリアの下半身―が兵士の頭を横合いから殴打。ちぎれ飛ぼうかという勢いで頚椎をへし折られた兵士は、一瞬の内に絶命した。
この回で登場したキャラクターの詳細は本日更新の活動報告で解説予定!