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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
205/450

第二百五話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:茶会編-2





茶会の果てに待つ予想外の展開!

―解説―


 唱道者(メンター)【Mentor】 優れた指導者、助言者、恩師、顧問、信頼のおける相談相手の意。

 一般的にはメンタリングという方法で指導者の助言によって自発的・自律的な発達を促していく教育者を指す言葉だが、ある次元では一定の資質を持った異能者の意味でも使われる。

 その役割は異界より来訪せし『精霊』なる知的生命体と契約を結び、それらを補佐することにある。

 一口に補佐と言ってもその仕事は単なる事務作業の類に留まらない。契約対象である精霊にとって唱道者(メンター)は人間世界での案内人(ガイド)であると同時に、自身の体内を巡る神秘のエネルギー『魔力』を制御・供給する存在でもあるのだ。

 更にその立場上、精霊の活動を妨害せんとして暗躍する異形の神罰代行者『(ヘビ)』の駆逐も唱道者に科せられた役割の一つである。


―前回より―


 アルティノ、ラピカ、シャアリンの三人は、何れも精霊と契約を結んだ『唱道者メンター』である。契約対象である精霊達の力に目を付けた香織によって召喚された彼らはしかし、元々只の人間であるため明確な戦闘能力を持たない。

 そこで『下手に前線へ出ると危ない』との判断を下した香織によって異空間での接待を受けていたのだが、シャアリンという少女にとっては怠けているようにしか見えない現状が不服なようだった。


 そもそも裕福な家庭に育った彼女はそれ故に傲慢で身勝手な性格であったが、それは不理解な両親への反発心に由来するものである。唯一の理解者は唱道者(メンター)として選ばれた姉のみであり、彼女にとっては姉が何より掛け替えのない存在であった。

 しかしある時、彼女の姉は未だ未熟な妹を残しこの世を去ってしまう。一人悲しみに暮れる中、彼女は姉と契約していた精霊・大気精(シルフ)の少女ロロニアと変則的な契約を結ぶ。性格が災いしてか彼女にきつく当たりながらも、実質的な姉の形見であり、心から自分を愛し信じてくれているロロニアを、彼女は愛玩動物(ペット)か妹のように大切に思っているのである。

「まぁ、あんた達はいいんでしょうよ。体力あるし、打たれ強いし、何よりあの着ぐるみ達から変な目で見られたりはしないんだもの。

でもあの子は、ロロニアは違う。身体は小さいし、気は弱いし、外見もあの変な着ぐるみから狙われやすいし、そもそもこんな場所に出ていいような子じゃないのよ。それなのに――」


 シャアリンは香織の方へ向き直り、ポーカーフェイスの彼女をより鋭く睨み言う。


「――あんたはあの子をここに呼んだ。この世の誰より戦争に関わるべきじゃないあの子を、自分の都合で勝手に!」

「シャリアン、それはあんまりだよ」

「そうだよ、なんでそんな事――

――「あんた達は黙ってて!」


 ラピカとアルティノは声を荒げるシャアリンをどうにか宥めようとするが、気の強い彼女の勢いはそうそう止まるものでもない。


「……どうせあの子の意見も聞かず勝手に無理矢理呼び寄せたんでしょ?」

「……」

「黙ってるって事は……そうなのね?」

「……」

 香織はシャアリンの言葉にまるで反応を示さない。

 それどころか、怒鳴る彼女を尻目に膝上で寝てしまった潤奈を優しく撫で続けてさえいる。

「ちょっとあんた、何とか言いなさいよ!ほら早く―

――――「それは、違うかなぁ」―――は?」


 香織は怒鳴るシャアリンの言葉を上手く遮り反論する。


「誤解して貰っちゃ困るから言っとくけど、仮に『私の勝手』ではあってもね、それが『意見を聞かずに無理矢理』っていうのに直結する訳じゃないわ。シャアリン、確かにあなたの言うことは正論よ。ロロニアは、明らかに戦場向きの人員じゃないわ」

「……それが解ってるなら何で―――「でもね」


 膝上の潤奈をそっと隣の椅子へ移した香織は素早く立ち上がってシャアリンに向き直ると、諭すような態度で語り出した。


「召喚の交渉でその事を彼女に話したら、反論されちゃってねぇ」

「反論……?」

「そ。何でも『普段から迷惑かけてばかりだから、使徒精霊らしく戦ってる格好良い姿を見せてあげたい。戦いはフォークロアの完成にも近付けるし悪いことはないはずだ』ってね」

「……」


 香織の言葉に、シャアリンは思わず黙り込んだ。

 そもそもヒトの世界で唱道者と契約できる精霊は、火水風地という各属性の中から選ばれた『使徒精霊』なる四柱の精鋭達に限られる。世界に繁栄をもたらす『神子』としての覚醒を目指す彼らは、その為に唱道者(メンター)と契約を結び、英知や悟性といったものを修道する不可視の器『フォークロア』を完成させなければならない。

 その為には様々な知識を蓄え経験を積む必要があった。三柱の使徒精霊達が香織へ協力しようと考えたのも、それらがフォークロアの完成に繋がる活動であると判断した為である。


「本当に危ないし怖いよって何度も忠告したんだけど、『それでも行く。足手まといになるようなら送り返して構わない』って言ってきてね。それで承諾したって訳」

「……なら、何で私にその事を伝えなかったの?突然あの子から『お出かけしよう』なんて言われて、わけもわからないままこんな場所に連れてこられたんだけど?」

「あー、それは正直悪かったと思ってる……けど、仕方なかったんだわ」

「何が仕方なかったのよ?」

「だってさ、交渉の時にロロニアが『シャアリンには自分から話すから内緒にしてて欲しい。もし私より前に伝えたらこの話は無かったことにする』なんて言い出したから仕方なく……」

「じゃあそこで断れば良かったじゃない」

「そうしたら他の二人も断るって言い出したんだってばー。使徒精霊の力がどんなものか知りたかった私にとってここで召喚の話が無かったことになるのは精神的にかなり辛かったんで承諾せざるを得ず……一応戦線に出てる皆には危なくなったら自動的にこっちへ転送される魔術具持たせてるから多分大丈夫だけど、いやこれは本当に。他次元(よそさま)の至宝を傷物にしたら大事だから。あとこの戦い終わったらちゃんと召喚される直前に戻すから。アフターケアには最新の注意払うからっ!」

 必死の形相かつ早口で一方的に喋り倒す香織の気迫には、流石のシャアリンも気圧されざるを得なくなってしまう。

「わかっ、わかったから!近い、顔が近いってあんたっ!」

「こっちの事情、解ってくれた?」

「解った、解ったわよ。……それにしても、そっか……あの子ったらそんな事を……ごめんなさいね、シミズ。身勝手だなんて言って」

「いいっていいって。罵声とか非難には慣れてるから」


 シャアリンが微かに優しげな笑みを浮かべたのを見て、アルティノとラピカは安堵する――が、この後事態は思わぬ展開を見せる。


「それで、何か要望ある?」

「僕は今のままでいいよ」

「私もシャアリンに任せる」

「あら、そう?二人とも有り難う。そうか……要望ねぇ。

じゃあ、私達を前線で戦えるように魔術でどうにかするなんてのはどう?出来そう?」

 シャアリンの言い出した恐ろしい提案に、二人は思わず絶句した。そしてやっぱり『現実とはサディスト』であった。というのも、

「あぁ、いいわねぇそれ。丁度そんな技を開発中だったの」

 清水香織という魔術師は、時としてそんな要望をもあっさりと受けてしてしまうような女だったのである。


「それはグッドアイディアなのですー。私も何かお手伝いするのですー」


 序でに言えば、いつの間にか起きて話を聞いていたらしい潤奈もノリノリであった。

次回、謎の少女・潤奈が大活躍?

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