第二百四話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:茶会編-1
明らかになる『ゲーム』のルール。その時香織は……異空間に!?
―解説―
魔術師・清水香織が悪魔ウルスラ・アラストル並びに聖女リコリコ・ラードーンへ持ちかけた『ゲーム』の詳細なルールを箇条書きにすると、大体以下のようになる。
・このゲームは、指定された敵を制限時間内に駆逐していき、その人数と殺害方法の残虐性を競うものである。
・制限時間はどちらかの勢力が壊滅するまで。但しこれは絶対的なものではなく、審判の意志による中断もあり得る。
・ターゲットは主にレダズ・ヒューマノイドの車両部隊襲撃から生存した人員だが、極論としては映美平原の真宝軍関係者ならば誰でもよい。
・一度の殺害人数に制限はない。但し、なるべく苦しめた上で死体を残すようにすることが推奨されるため、爆破等広範囲に及ぶものや相手の肉体・存在を丸ごと抹消するようなタイプの攻撃は控えた方が無難。
・対戦相手を傷付けてはならない。仮に何れかのプレイヤーAが持つ攻撃意志によって対戦相手であるプレイヤーBが負傷した場合、Aは失格となる。失格者は脱落扱いとする。
・また、上記のケースで攻撃されたBがAへ攻撃したり、或いはBがAを他のプレイヤー(Cと仮定)に攻撃させた場合、ABC揃って失格となる(但し今回はプレイヤーが二人なのでこの方式は成り立たない)。
・この他、ターゲットでない者を攻撃したプレイヤーも失格となる。
・制限時間内にプレイヤーが何らかの形で全員脱落した場合、その時点でゲームは終了となる。
・脱落は主に五種類。ルール違反及び審判の判断による失格の他、ゲーム中の死亡は勿論戦闘中に重傷を負うなどしてゲームの続行が不可能となった場合や、能動的に辞退を宣言した場合も脱落扱いとなる。
・殺害人数とその残虐性はプレイヤーの右腕に装着された腕輪型の魔術具『インスタント・スコアボード』によって測定・数値化され、それらの積が最終的な得点となる。当然ながら最高得点を叩き出したプレイヤーが勝者となる。
・賞品の設定は自由だが、法的な規約があり違反した場合は厳罰(後述するような『プレイヤーの人権を無視したような賞品の設定』は本来違法とされ設定出来ないようになっているが、今回使われているのは裏で出回っている非合法な代物のためどんな賞品でも設定が可能)。
・今回の賞品は『敗者を永久的に支配する権利』であり、勝者は死亡ぬかプログラムを入力した者または専門の技師により賞品の所有権を強制剥奪されるまで永久的に相手を支配できる。
・これら三種類の数値はそれぞれ三つの液晶に表示され、殺害人数・殺害方法の残虐性・得点の順に赤青白の文字で表示される。・殺害方法の残虐性は12段階あり、段階を表す数字がそのまま得点として扱われる。
・判定はある一定の区切り毎に平均3~6回程行われ、ターゲットごとにそれぞれ個別で残虐性が判定され得点が入る。よって一度に複数人を殺害した方が高得点を得やすいが、その分低い判定も出やすくなる。
尚、残虐性の判定基準等等その他諸々については長くなるので割愛させて頂く。
また、そもそもインスタント・スコアボードという魔術具はプログラム次第で如何なる内容・形式の試合をも可能とするものである。扱うには専門的な知識が必須とは言えその確実性は確かであり、音楽や絵画のコンテストでも広く用いられている。
―前回より―
一方その頃、後衛から全体の指揮やサポートを行っていた香織はというと。
「お待たせ~ちょっと手間取りはしたけど無事にピザ焼けたわよー」
異空間に魔術で作り出した洋室にて、四人の客相手に自作の巨大ピザを振る舞っていた。
「わぁ、美味しそう」
「香織さん凄いのです~」
「何でもそつなくこなしちゃうなんて、それこそ魔術みたいですよ」
「……」
「熱いから慌てずゆっくり食べなよ。チーズ冷めるの遅くしてあるから」
客として呼ばれた少年少女達は、香織が切り分けるのと同時にピザへ手を伸ばす―若干一名の例外を除いて、だが。
特大ピザを目の前に仏頂面のまま微動だにせず座り込んでいるのは、長い赤毛を棚引かせたサイドテールの少女・シャアリン。ヨーロッパの私立学園『アガルタ』高等部に通う良家育ちの女学生である。
特筆すべき戦闘能力を持たないにもかかわらず『ある理由』によって香織に召喚された彼女は、異空間に作られた洋室に通されるや否や挨拶も無しに椅子へ座ると、そのまま仏頂面で黙り込んでしまっていた。
同じような事情で召喚された先輩格の少年・アルティノはそんな彼女の様子がどうにも心配でならなかったが、友人の少女・ラピカ(彼女も召喚理由は二人と同じ)から耳打ちで『下手に手を出さない方がいい』等と忠告されたため、あくまで平静を装いながらピザを突いていた。
一方で四人目の客である異様に小柄な―というか、肉体が不自然に幼い―若草色の髪をした少女・潤奈は、そんな三人の胸中など知らずにひたすらピザを貪っていた。実を言うと彼女はこの四人どころか今回香織に召喚された人物の中でも極めて異例の存在なのだが、その話はひとまず先送りとさせて頂く。
そして、切り分けられたピザの面積が半分を切った頃。
「……暢気ね、あんた達」
それまで眉一つ動かさなかったシャアリンが、ぽつりとそう言った。
アルティノとラピカの表情が曇り、香織は無表情のまま制止。事情を全く知らない潤奈はただ一人、実習で出遅れて(或いは授業を欠席して)置き去りを喰らった学生のような表情で首を傾げるばかりだった。
「外がどんな状況か知ってる癖に……外であの子がどんなに苦労してるかも知らないで、こんな所で暢気にピザ食べてるなんて……ね」
シャアリンの物言いと視線に怯えた潤奈は、手に持っていたピザを皿へ戻そうとした。しかし―
「いいわよ、あんたは関係ないんだから。精々そのまま食べてなさいな」
シャリアンの睨みに怯えた潤奈は思わずピザを取り落とし、慌てて皿へ戻すと小刻みに震えながら俯いた。見かねた香織がおいでと手招きし、小柄な彼女を膝に乗せて優しく抱き抱えてやる。
そんな二人の様子を一瞥した後、シャアリンは二人の友人―アルティノとラピカに向き直り、冷酷に言い放つ。
「どうかしてんじゃないの、あんた等。意識の欠片もないじゃない」
シャアリンの辛辣な言葉に、学年上は先輩である二人は言い返せずに俯き、面倒事を嫌う香織は無表情のままうずくまる潤奈の背中を撫で続けた。
「それでよく唱道者名乗れるわね。自覚あんの?」
次回、茶会に参加したゲスト達に何かが起こる!?
(因みに前回ウルスラとリコリコに捕まった兵士達はそれぞれ尾で締め上げられたり出来たての茹で卵を殻ごと数個口の中へ押し込まれた挙げ句熱湯を流し込まれたりと散々な死を遂げていた)