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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
203/450

第二百三話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:暴虐編-2





史上最強の悪魔と極悪聖職者が動き出す……

―前回より―


 嘗て兵士であった筈のそれらが単なる布きれの混じった肉塊へと成り果てたのは、それから丁度4分後の事であった。


 ある報酬に釣られて香織に協力し、彼女の命令でレダズ・ヒューマノイドによる車両潰しの仕上げを間接的に任されたウルスラ・アラストルとリコリコ・ラードーン。戦場へ放たれた彼女らの動きは、その可憐な外見とは対照的に極めておぞましいものであり、言い表すならば『暴力』の一言に尽きた。

 両者の衣装は既に乾燥しきった返り血で染まっており、特に全体が白いリコリコの衣装などは赤黒いシミが裾全体に及び、上質な革製ブーツの爪先には何と兵士の歯か骨と思しき白い破片が引っかかっている。当の彼女自身は爽やかな表情で歩みを進めているが、その足跡は不自然なまでに赤かった。

 一方のウルスラは黄金色をした掌サイズのフックを短めのチェーンで連結したような武器を片手に、背に備わったコウモリか何かのような紫色の翼を揺らしながら暢気に歩いている。正中線を境に白黒へ区切られた道化師のような衣装の汚れ具合はリコリコよりましでこそあったものの、それは単純に布地や白い部分の少なさによるところが大きくもあった。


「ヒヒヒ、ヒヒヒヒッ……いいねぇ、こいつはいい……久し振りに面白くなりそうだ……感謝するよ、赤毛の魔法使いさん」

「ひっ、ああぁああっ……なんだっ、っがぁ!」


「脆弱、醜悪、下劣、下等……如何に美辞麗句で飾り立てようと、所詮相手は人間っ。この私の敵ではありませんねぇ、やはり」

「ひぃ、たす、たすけて……あぐ、がぇっ!」


 二人は近くに迷い出てきた兵士を捕まえて締め上げながら、手元に巻き付けられたブレスレットのようなものに目をやった。樹脂製と思われるそれの表面には細長く黒い液晶が三つ備わっており、液晶ごとにそれぞれ赤・青・白という三色の数字が映し出されている。


「んー、こんなんじゃまだ足りないよなぁ。『やる奴は五桁だって余裕』って清水香織(あいつ)も言ってたし、あの神気取り万年喪女シメようと思ったらそれくらいは当然っしょ」


「本気で勝ちに行くつもりなら、せめて七桁は欲しいところですねぇ。あの腐れ悪魔を私のものにする(・・・・・・・)のなら、そのくらいの実力がなければ成り立たないでしょうしねぇ……」


 等と言った具合に物騒な胸中を吐露しつつ、二人はそれぞれ仕上げに取りかかる。

 ウルスラは腰か尻の辺りから延びた細長い尾を伸ばして兵士の全身至る所へ―手足ばかりか指の一本一本まで、それこそ黒いミイラ人間のような外見となるように巻き付けていく。

 一方のリコリコは身体に巻き付けていた長い鎖で兵士を縛ると、何処からか大振りなカセットコンロを取り出し、あろうことかボトルの水を注いで湯を沸かし始めた。


―とりあえず解説をどうぞ―


 ウルスラ・アラストルは、背中の翼や黒いバンド状で先端が矢印状になった独特な尾などから解るとおり、俗に言う"悪魔"なる種の一個体である。但しその血筋は後天的なものであり、彼女は少々特殊な経歴を経て"ヒトを超えた存在"となったのだという。

 中世ヨーロッパのある村に生まれた彼女は元々聖職者であったようで、村立の教会に従事する信徒としてそれなりの地位にあったものと思われる(あくまで作者の推測であり公式の見解ではない)。

 しかしそんな彼女の住んでいた村はある時天災に見舞われる。万策尽きた瀕死の聖職者は、救済を求めひたすら神に祈り続けた。しかしそんな彼女の前に現れたのは、事も有ろうに神とは真逆の存在―即ち、悪魔であった。

 その時彼女と悪魔の間になにが起こったのかは流石に推測のしようがないが、極限状態に陥ったウルスラは何らかの手段で眼前の悪魔を殺害しその力を強奪し悪魔になったのだとされる。性格も豹変したようで、元々は温厚で勤勉な人格者であったらしい(現在は狡猾で掴み所のない残忍な気分屋とでも言うべきか)。その後彼女は郷を去り、各地で悪魔や魔人等と言った強大な生命体を喰らい続けてはその力を吸収。手当たり次第の暴食を繰り返した結果、最早如何なる武力をも寄せ付けない『地上最強の生物』へと成り果てたのだという。また、彼女は異能により山をも担げる程の巨体(身長50m、体重2千t)となる事もできるなど、あらゆる意味で規格外の存在と言えよう(但し今回は召喚者である香織によって能力に制限がかかっており、巨大化はできない)。


 そしてそんなウルスラの天敵として名高きリコリコ・ラードーンもまた、強大な力を秘めた化け物という点では彼女の同類と言えるかもしれない。

 白い衣に美しいブロンドを棚引かせた青い瞳の白人少女(コーカソイド・ガール)という外見だけを見れば、誰しもリコリコは単なる人間(ホモ・サピエンス)なのだと思うだろう。

 しかしその正体は妖怪変化や悪魔などより遙かに高次元の存在―端的に言えば、神性の眷属らしきものである。厳密には『神霊分離体』と呼ばれる高次存在であり、かの世界を制する地母神の心より生まれ出でた大いなる御遣いの片割れであるという。

 地母神の持つ善の側面―生命を愛し、ヒトを救い導く性質―を持って産まれた彼女は、生まれたての時期こそヒトを救い導くべきと考え各地で慈善活動に従事していたらしい(当時は現在のような邪悪さ・嗜虐性などカケラも無かったと考えるのが妥当か)。

 そんな彼女が今のように邪悪な存在となった原因は、たった一発の銃弾であるという。

 ふとした油断から戦地で射殺された彼女は直後に地母神の神通力で蘇生されるも、戦地に居合わせた人間を無差別に殺し尽くし逃亡。致命傷によって文字通りの"傷物"となってしまったリコリコは、以後暴力による他者の支配を好む卑劣な外道へと成り下がったのである。

 因みにどういう訳か茹卵が大好物であり、先程用意していたコンロや鍋も鶏卵を茹でる為に出したものである。


 方や兵士に尾を巻き付け、方や鶏卵を茹でる。

 行動こそまるで異なる両者であったが、その目的は共通のものであった。


 二人の目的―それは、二人を戦場へ召喚した張本人・清水香織より言い渡された『ゲーム』への勝利のみ。


 ルールの基本は至極簡単。定められた敵を殺すだけ。

 但し多ければいいわけではなく、その方法は限り無く残酷であることが望まれる。


 勝てば相手を永久的に支配できる。そんな恐るべき賞品に釣られた二人のゲームは、ターゲットである真宝軍の兵士達を巻き込み壮絶に進んでいく。


 このゲーム、どちらが勝っても真宝軍に未来はない。

次回、彼らの召喚者・清水香織が取っていた行動とは?

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