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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
200/450

第二百話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:激突編-1





記念すべき二百話目!

―前回より―


 白昼の映美(インメイ)平原で勃発した真宝軍と(軍側によって勝手に決めつけられた)逆賊一派との戦いは、まさに壮絶を極めていた。

 その戦いは香織サイドのワンサイドゲームに見えてその実、真宝軍もそれなりの方法で抵抗しており、数量の差もあって戦況は五分五分といった具合であった。


「ふぅん、この調子で行けば特別苦戦を強いられたりはしないかもね。よしよし」


 一方の香織はというと、やるべきことも粗方やり尽くしたため召喚した味方のサポートに回っていた。ここで『粗方やり尽くした』と言い切れる理由は、彼女の持つ武器『列王の輪』の性質にあったりする。


 そもそも『列王の輪』という武器はカドム・イムが手掛けた武器の中でもかなり特殊な部類に入り、その単純な形状の割に常軌を逸したレベルのポテンシャルを秘めている。

 その基本的な機能は『専用エネルギーの蓄積と変形』であり、装着者が何らかの魔術を発動する度に溜まっていくこのエネルギーを消費することで、多種多様な形態に変形し様々な隠しギミックを使用できる。百二十一話のネフル戦で用いた砲撃の他、障壁展開・治癒回復・解毒殺菌等と言った汎用魔術的機能は勿論のこと、百八十一話での『永久機関にも成りうる』との言葉通り、そのエネルギーを魔力に変換することさえ出来てしまう(しかもこの容量がかなり多い。また、持ち主の熟練度に応じてその蓄積量と燃費は飛躍的に向上していく)。

 そしてそんな変形機能の最たるモノこそ『列王十四精霊』の力を借りての大規模な変形であり、これらは何れも多大な消費(とはいえ、今の香織にとっては殆ど運用次第で充分カバー可能なレベルのもの)を伴う分、各種形態に於ける機能はいずれも個性豊かで凄まじいモノがある。

 更に言えば今回発動したコンクイスタ・ガヴァリエーレの召喚機能はその性質上エネルギーの消費形式が『量を問わず残量全て消費』といった具合にかなり特殊であるため、必然的に『列王の輪』はガス欠に陥っていた(魔術でのサポートに回るのはエネルギーの回復も兼ねているのである)。


―そんな訳でゲスト達の華々しい活躍を見てみよう―


「うわああぁぁぁぁぁ!なんなんだ、なんなんだよあいつはぁっ!」

「しるかーっ!よけいなこといってないで、いいからにげろっ!にげなきゃしぬぞ!」

「ま、まってくれぇ!たのむ、おれをおいてかないでっぐぶぁあばべばあああっ!?」

 その場から逃げようとする兵士の胴体を、幅広の刃が貫通する。肋骨数本と主要な臓器を破壊された兵士は吐血と共に絶叫。賺さず刃が振り上げられ、着ぐるみごと上半身を二分された兵士は当然絶命した。


「……仮装しただけの人間だったか。妙な背格好故、(アヤカシ)の類かと思ったのだが」


 モンゴロイドらしき顔立ちをした軽装の女は、自ら手に掛けた兵士の死体をまじまじと見つめな淡々と言う。背には先程兵士を斬り殺した片刃の大剣を担ぎ、青い袴と豊かな黒髪、そして陰陽太極図の描かれた武骨な胸当てという侍めいた身なりが特徴的な彼女は、名を橘浪華(タチバナロウゲ)という。

 元居た次元では西暦1700年代冬に極東で生まれたらしい彼女は元々神職者であったそうだが、職場の神社が妖怪に襲撃されたこと(及び、彼女の同業者がヒトを裏切り妖怪側に寝返ったこと)を理由に戦士(厳密に言えば侍)へ転身したのだという。

 そんなわけで彼女はヒトの身ながらに妖怪変化と対等に渡り合うだけの戦闘能力を持ち合わせている。しかしそれでいて彼女の剣術は天性のセンスによる我流であるらしく、これが今回召喚される上での決め手となった。

 また、彼女の愛用する大剣『奇刀・妖祓(アヤカシバライ)』はかなり名のある宝剣であり、魔人なる強大な存在をヒトが討ち取れる唯一の希望であるとか、焼け落ちた神社から無傷の状態で見付かったとか色々な逸話がある模様。


「まぁよい、折角呼び出された戦場いくさばだ。食前の準備運動も兼ねて、少しばかり派手に行くとするか……」


 逃げ惑う兵士達を見据えた浪華は、そのままゆっくりと歩みを進めていく。一歩進むごとに髪留めの両端へぶら下がった金属板が揺れて音が鳴る。普段は耳障りなだけだが、今回ばかりは兵士達の恐怖を助長させるという役割を十二分に果たしていた。


―同時刻・別位置―


「あぁあああ~、へあぁああああ~、やだ、ぃやだぁぁぁぁぁ~!」


 橘浪華が兵士達を斬り殺して回っているルートの延長線上では、何とか逃げ切ろうとした不運な甲虫系の外殻種が悲惨な目に遭っていた。

 武器を奪われた挙げ句着ぐるみさえも引き剥がされた彼は現在、大樹の根が如し濃緑色の鱗に覆われた物体―もとい、巨大なニシキヘビの尾を含む胴体によって拘束され、その強烈な筋力で全身を締め上げられていた。天然の鎧とも呼ばれるほどの外骨格は力無く砕かれ、体内でも既に数多の内骨格が悉く潰されている。その苦痛はまさに地獄と形容するに相応しいことは想像に難くない。


「……往生際の悪いヤツじゃのぅ、只の羽虫が何故そこまで気張る?」


 妖艶な声で問いかけるのは、植物を思わせるエメラルドグリーンの肌に肥沃な泥が如し土色の豊かな長髪を持つ巨乳で三白眼の大女。その下半身は濃緑に黒の斑点という如何にも熱帯めいた色合いの大蛇であり、つまるところ外殻種の兵士を締め上げているのも彼女であった。


 レティキラ・コンストル。広大な森林地帯の大半を支配する性質から『森の賢者』とも呼ばれる彼女は、美しくもおぞましい半蛇亜人ラミアの魔術師である。

 外見は約20代後半と若々しく美しいが、その実年齢は凡そ数百から数千年にも及ぶものと考えて間違いはないだろう。蛇にしては強い縄張り意識を持ち(一般的に蛇という動物はある一定の範囲を巡回こそするものの鮎ほど縄張りに五月蠅いわけではない)、圏内へ入り込んできた不届き者には容赦なく制裁を下すという。

 また恐ろしいことにこの(オンナ)、最大の好物はヒト(ホモ・サピエンス)である(その上男性を好む)らしく、しばしば能動的に襲っては喰い殺すのだそう。山中に拠点を持っているとの情報もあるが、詳しい事は明らかになっていない。


 悲鳴を上げながら何とか抗う外殻種の息の根を完全に止めたレティキラは、ゆっくりと静かに音もなく、味わうように頭から飲み込んでいく。

 青年の身体が完全に胃へ入った辺りで、レティキラは胴体を器用に動かしゆっくりと沈むような動作で―例えるならば、それこそスナクサリヘビが砂地へ潜るようにして地中へ潜っていく。

 得物を丸飲みにするというスタイルの関係上、蛇の胃の内容物は消化に時間が掛かる(故に蛇は一度の食事で長期間生き長らえることができる)。それは半蛇亜人(ラミア)としてヒト寄りの身体になったレティキラにも(多少早くはなったが)変わらず受け継がれている性質である。

 故に彼女は、食後の睡眠も兼ねて地中へ潜る。次なる哀れな得物が来たときには、恐らくまた丸飲みにされるか、或いは何らかの魔術によって、どのみち悲惨な末路を辿ることになるであろう。

次回、激突編-2へ続く!

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