第二十話 旅に出よう、ここではない何処か―謎と神秘の漂うあの大地まで
ドライシスの発言にオップス大佐は……
―前回より―
「失礼ながらお伺いします……正気ですか?上級大将」
オップス大佐の問に、ドライシスは答える。
「正気か狂気か、それを完全に保証出来る者はこの世に居ないが……僕は本気だよ、オップス君」
「しかし、宜しいのですか?」
「何がだい?」
「着任中の身でありながら生きたまま軍を去ったとなれば、只では済みませんぞ?我等は国家反逆罪に問われ、それこそ投獄や極刑は目に見えております……」
「何だ、そんな事かい?心配は要らないさ。手は打ってある」
「と、仰有いますと?」
ドライシスはオップス大佐の問に、淡々と答える。
「この礼拝堂をね、爆破してやるのさ」
「ば、爆破……ですか?」
「そうさ。放送を聞く限り、ツジラは奇抜な作戦が得意な男だ。違うかい?」
「いえ、奴は奇策に秀でた男で御座いますが…」
「それなら都合が良い。奇策を特技とする男が、罠の一つや二つ仕掛けないなんて逆に可笑しいだろう?見たところかなりのエンターティナーだったようだから、派手な事をしたがるとも考えられる。そこで僕達は、そこを逆手に取る」
「……成る程。つまりこの礼拝堂を爆破し、ツジラの罠により我々が死亡したと見せかけるのですな?」
「その通りさ、オップス君。幸いなことに僕は炎の魔術が得意でね。爆薬に見せかけてこの教会一つ吹き飛ばすくらい訳はない。そもそも彼らの仲間には、古式特級魔術の使い手が居ただろう?その片鱗と思わせれば、例え魔術であると判明しても誤魔化しが効く。残留魔力分析から個人を特定される恐れもあるにはあるが、竜属種にその方法は通用しない。あとは……そうだ。念のためにより死を信じやすくさせる為の偽装工作をしておこうか」
「偽装工作?」
「そう、偽装工作だ。というのは要するに、君の軍服だとか、僕の指の骨なんかをこの場に捨てておくのさ。そうすれば偽装された死はより真実味のあるものに成り果て、走査線をかく乱することが出来るようになる。心配することはない。竜属種は元よりしぶといんだ。指や腕の一本や二本、二日もすればまた生えてくる。どうだい?これでもまだ、潔く死ぬ事に拘るかい?」
ドライシスの問に、オップス大佐は笑みを浮かべて冗談交じりに答える。
「仕方ないですね。ドライシスさんがそんなに私と一緒に居たいというのなら、生き残ってみましょうか」
「フフ…その意気だよオップス君」
「但し、私はかなり重いですよ?ドライシスさんの体格で、大丈夫ですか?」
「おやおや、竜属種もかなり軽く見られたものだね。大丈夫さ、竜属種は力自慢だし、何より今回は転移の術を使って、一気にエレモスまで飛んでやろうと思っていたからね」
「エレモスですか……謎めいた第六の大陸、良いですねぇ。私達二人のセカンドライフを送るにはもってこいの場所だ」
「そうだろう?では、軍服を脱いでくれ。転移終了と共に術が発動して、礼拝堂が吹き飛ぶようにしてあるからね」
「判りました」
「そうだ、いっそ僕の軍服も脱いでしまおうか。心機一転の意味合いも込めて、エレモスではもっと女らしい服を着てみたい」
「良いじゃありませんか、きっと似合いますよ」
こうしてオップスとドライシスは自らの上着を脱ぎ捨て、転移の術を用いてノモシアから遠く離れた神秘の大陸・エレモスへと向かった。
そしてそれと時を同じくして、ジュルノブル城最上階の一角に立てられた豪奢な礼拝堂が、凄まじい爆発音を伴って盛大に吹き飛んだ。
―翌日以降―
卑劣かつ背徳的な虐殺行為であったにもかかわらず、『ツジラジ』は多くの民衆の支持を獲得していた。
というのも、事実ルタマルスを初めとするノモシア王政国家の政治体制は議会政治を取り入れている国家のそれより異常な点が多く、ごく一撮み程度の政治家や貴族、懐古思想の強い高齢者等を除き王政を支持する者は微塵も居ないというのが現状であった。
この事から、王家を一方的に批判・侵略する繁達の行動は、ある意味で王家への不安を抱えていた民衆達の怒りを代弁するようであり、それが高い支持率に繋がったのである。こうした現状と、本件での実質的な王家壊滅及び国王エスティ・アイトラスの醜悪な本性露呈を皮切りに、ルタマルス政府は王政を廃止。以降は政府主導での議会政治を取り入れるようになった。
更にその動きを察知したノモシアの各王制国家も、王族や貴族をあくまで国家の象徴として置くことで政治への直接干渉を禁止し、王族・貴族の権威を殺ぐ動きを見せ始めている。ただ問題は、影で実質的な独裁国家と呼ばれているエクスーシアがこの流れに乗っていないという事であるが、大陸同盟はこの件の解決策も随時考案中とのことである。
ランゴ・ドライシスとエリヤ・オップス。
死を装ってまで軍を抜け出した二人の旅は、まだ始まったばかり。
でもシーズン2以降の主役は、やっぱり繁達。