第百九十九話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:出撃編
ついにゲスト登場!
―前回より―
香織が繁の手を通じてカドムより授かった『列王の輪』の有する形態が一つ『コンクイスタ・ガヴァリエーレ』の持つ機能は、白昼の平原へ異なる次元・世界線に存在する多種多様な住民達を呼び寄せた。
総勢30名という大人数で一斉に現れた彼らの基礎は我々と同じような"ヒト"であったが、その多くは武装していたり、皮膚の色がヒトを逸していたり、耳や尾などといった動物的形質を持っていたりと、その外見的特徴は多種多様の一言に尽きた。
「な、なんなんだあれはぁっ!?」
「しるかっ!おれにしつもんするなぁ!」
「う、うるせーぞてめーら!あんなもんごときでう、うろたえんじゃねー!」
「そうだそうだ!あんなもんどうせまじゅつかなにかでつくりだしたまぼろし、じったいのないげんえいだろっ!」
「ああ、まったくもってそのとおりよぉ!だからこわがることなんざ――」
ありゃしない などと言おうとした歩兵の胴体が、突如足下へ現れたギャグマンガめいたデザインの大型手投げ爆弾によって吹き飛ばされた。当然予想だにしない突然の出来事に、兵士達は混乱し取り乱す。
「ええい、しずまれ!しずまらんかぁっ!なくこもだまるてんかのぜんばおぐんであるきさまらだろうに、このていどのことでとりみだすやつがあるかぁっ!」
尚も騒がしく混乱する兵士達を何とか落ち着かせようと、司令官は着ぐるみに内蔵された小型マイクの音量を最大まで引き上げ怒鳴り付ける。
しかし、そんな司令官を嘲笑うように飛んできた四発の弾丸が、立て続けに兵士達を仕留めていく。
「なっ、なんだ!?なんだというのだこれはいったいっ!だれだ、どこのだれが――『私ですけどー』――っっっぁ!!」
司令官の言葉を遮るように、彼の耳へセットされた通信機のイヤホンから穏やかな女の声が大音量で流れ込んだ。
鼓膜をやられた司令官は思わず両手で耳を塞いで仰け反った(イヤホンは耳に深々と差し込まれているためあまり意味はないのだが)。
「な、なんだきさまぁっ!このかいせんをもちいてのつうしんはわがぐんのへりやしゃりょうと、ほんぶのかんせいとうにそなわったとくていのつうしんきからしかできないはずっ!それをさもへいぜんとやってのけるとは―『あぁ、これですか?』――っっっっっっっ、き、きさま……おんりょうを、つうしんきのおんりょうをさげんかっ!」
『――……――っと、失礼。これでいいですか?』
「よ……よし、だいじょうぶだ。もんだいないっ……ん、そ、それで、だ」
『はい』
「とおう。きさま、なぜわたしとつうしんできる?」
『何故と言われましても、上空に浮いている貴軍のヘリコプターへ潜入させて頂いたからですが』
「せ、せんにゅうだとっ!?」
『えぇ。細かい説明はどうせ理解出来ないでしょうから省きますが―』
「いやはぶくな!というかおまえいまわたしをばかと―」
『兎も角今現在、貴軍のヘリコプターは全て掌握させて頂きましたのでー』
「は!?おい、なんだと!?ちょっとまて、そんなばかげたことがあるか!
しゃくのつごうとはいえ―――」
超展開・ご都合主義にも程があるぞ
司令官がそう言うより早く、上空にホバリングしていた五機の小型ヘリコプターが炎と共に吹き飛んだ。
「……なん……だと……?」
眼前で巻き起こった信じがたい光景に軍人達は唖然とし、思わず言葉を失った。
直後、絶句の余り声も出ない司令官の眼前へ一人の黒い人影が現れる。
それは豊かな黒髪を棚引かせ、黒いレディーススーツに身を包んだ、モンゴロイド的な顔立ちとパーマネントブルーの瞳が印象的な霊長種の女であった。
1.7mという長身と、それに見合った抜群の(しかし、幼女至上主義である真宝では下手をすれば刑事罰対象となりかねないような)スタイルから推定して、少なくとも成人済みである事は確かだろう。
赤いフレームの逆ナイロール(上側にフレームがないタイプ)の眼鏡は彼女の人工的なまでに青い瞳を際立たせており、その表情は温厚に見える一方で残忍にして狡猾、手段を選ばない非道さを秘めているかのようでもある。
「申し遅れました。私、瀬尾木美樹と申します。以後お見知りおきを」
微動だにしない司令官に軽く名乗った後、女・瀬尾木美樹は虚空に姿を消した。
戦力増強の為に香織が呼び寄せた30名が一人・瀬尾木美樹は、テロ組織『ヴェノモウス13』に所属する幹部であり、本名をミリッタ・カイラという。モンゴロイド的な顔立ちに反してイギリスであるらしい彼女は、その見て呉れ通りコンピュータウィルス・ソフトウェア(通称『瀬尾木ウィルス』)を自作する優れた諜報員である一方、組織内でも一二を争う武闘派としても名高い人物でもある。 特にこと銃器・爆発物の扱いにかけてはトップクラスの実力を誇り、残忍にして狡猾な外道という性根も含め、敵に回しても見方に回しても厄介な部類に入ると言ってよいだろう。
先程のヘリ潜入及び爆破は香織の力を借りてのものであったが、それを踏まえた上でも彼女特有の動きであると言えよう。
―300メートル先―
「只今戻りました」
「御苦労さん」
香織より一時的に借り受けた空間系魔術を用い真宝軍相手に軽い"挨拶"を済ませた美樹は、軽く会釈してその場から去っていった。
ふと見渡せば、真宝軍は混乱から立ち直り突撃の準備を始めているらしい。となればこちらも、そろそろ出撃せねばなるまい。
「(話の尺とかもそろそろいい頃だしね……)」
などと思った香織は、召喚した一同に出撃の指示を出す。
「はい、それでは皆さんお待たせしました。各自出撃思うまま、お願いします!」
次回、ゲスト達による戦いは尚も続く。