第百九十八話 ゼイアーザフロムアナザーワールド:召喚編
もうちょっと待って……多分次回で……
―前回より―
「やったぞおおおおおおおおおおおおおおお!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「かったああああああああああああああああ!」
砲弾や攻撃魔術によって逆賊(と、不確かながら決めつけた者)が荒野諸共盛大に吹き飛ぶ様を見た兵士達は勝利を確信し、興奮のあまり喜び叫ぶ。中には隣近所の同僚と抱き合ったり、踊り出す者まで居る始末であった。
しかし現実とはやはりサディスティックなものであり、幸福感で浮かれていられる時間ほど長続きしないものである。
そんな事実を実証するかのように、司令官の通信機にヘリコプターからの連絡が入る。
『こちら1ごうへり!しれいかん、おうとうねがいます!』
「ん、どうした?なにかあったのか?」
『は、はい!ごほうこくいたします!たったいまかくにんしたのですが、わがぐんのしゅうちゅうほうかは、どうやらだんやくのむだづかいにおわってしまったようです!』
それはつまり、逆賊(で、あると勝手に断定した女)への集中砲火が失敗した事を表していた。
「なにぃ?ねぼけたことをいうでないわ!ひとのからだであれほどのこうげきをなまみでくらっていきているはずがなかろう!ぎゃくぞくのおんなはしんだのだ!われわれのしょうりはかくていしたのではないか!」
『いいえ、しれいかん!おことばですが、それはさっかくにございます!しつれいながら、ねぼけていらっしゃるのはきかんのほうかとっ!』
「なにぃ!?きさま、じょうかんにむかってそのくちのききかたはなんだ!ぐんぽうかいぎにかけてやろうか!?」
『お、おちついてくださいしれいかん!ほんとうなのです!あのぎゃくぞくのおんなはわれわれのこうげきをなんなくかいくぐり、むきずのままいきのびています!』
「ふん!またでたらめをいいおってからに!そんなばかげたこと、あるはずなかろう!」
双眼鏡を片手に砲撃を放った方へ向き直った司令官は(やはりというかなんというか、当然のことだが)絶句した。
集中砲火で跡形もなく吹き飛ばした逆賊(なのだと勝手に思い込んでいた人物)が生きていたからである。
「そんなばかなっ!なぜだ!なぜわれらのこうげきがつうようせぬっ!?よもや、あれはげんえいなのかっ?」
『いえ、すきゃんのけっかじったいはたしかにありますので、きょうりょくなしょうへきまじゅつのたぐいとおもわれます!』
「しょうへきだとっ!?あのぎゃくぞくめっ、こそくなまねをっ!」
―同時刻―
「……なぁに、あいつら。何か勝手に騒いでるみたいだけど」
白い荒野に広げたピクニックシートの上に寝そべり、勝手に逆賊と決めつけられた赤毛の女―もとい魔術師・清水香織はバタークッキーなど囓りつつぼやく。
その服装は例の如く何時も通りの私服(ただし気温が高いため若干薄着)であったが、その背には渋い色合いながら妙に高級感のある重厚なマントを羽織っていた(姿勢からか、今現在の扱いは半ば毛布のようであったが)。
《……そこで儂に振られても困るわけだが、その……何だ。あれほど国の様子が変わったのだ、兵士達もそれに順応したのではないか?》
マントの留め具に備わった虎目石のような色合いの宝玉を媒体に語りかけるのは、列王十四精霊の一柱にして赤みがかった体毛を持つ巨大な熊か虎のような風体の巨獣・アレクス。
アルトゥーロの属する『真鍮の勇気』と対を成す『鋼鉄の叡智』に宿る彼は、七種ある内のガヴァリエーレ―正式名称を『コンクイスタ・ガヴァリエーレ』という形態を担当する。
有り体に言えば今現在香織が羽織っている厚手のマントこそ『コンクイスタ・ガヴァリエーレ』の基本形態であり、その機能は一見地味な外見に反してかなり強力なものであったりする。
その機能が何であるかは、少なくともこの後数話以内に解説出来れば、と思っている。
「それ、要するに劣化よね?」
《そうとも言うだろうな》
「そうとしか言わないんじゃなーいのっ……と」
素早く起き上がった香織は、地面に広げたクッキーの箱やピクニックシートを片付けると、両手を掲げ詠唱を開始する。
「ヒトなるものよ、あなたがたは何故群れ馴れ合うことを拒むのですか。
確かに、友無き孤高の者を哀れと蔑むは愚かしい沙汰でしょう。
未熟故に仲間意識を盲信し、哲学も持たずそれを押し付けるは生温い真似でしょう。
恋愛を至上とし、性にしか価値を見出だせず童貞処女を敗者と見下す小僧小娘こそは、まさに厚顔無恥を体言する愚物と言わざるを得ません。
斯様なる者共は、取るに足らずまた吹けば飛ぶ、塵にも劣る愚者でしょう。
しかしこの私が思うに、ヒトの真髄とはやはり群れを成すこと、馴れ合うことなのです。
鍛錬し、武装し、異能を身に付けようとも、ヒトは所詮ヒトであり、その本質とは矮小にして脆弱。
ヒトがヒトのままに強く在るには、やはり群れるしかないのです。
ですからヒトよ、ヒトなるものよ。
どうか私に、群れることをお許し下さい。
――……群れ成し馴れ合う者の絆、あらゆる隔たりを越え、我が眼前に至高の猛者を呼び起こさん……――」
何とも無駄に長ったらしいばかりか『本当にそれは呪文なのか』と疑いたくなるような内容の詠唱に伴い、香織の背後に広がる風景が直結10m程の渦数個を形成するように歪み始める。それは最早風景というより、空間そのものが歪曲しているかのよう―というか、まさにその通りであった。
「いざ参られよ、別次元に潜みし選り選りの猛者達……」
ママが素なのかルビが素なのかはっきりしろと言いたくなるようなフレーズと共に、渦状の歪みは癒合し、やがてモザイク処理をかけられたような風景と化してゆく。
異様な光景を目にした真宝軍の兵士達は皆一様に立ち止まりそれを注視。直後、驚愕のあまり絶叫する。
「な、なんだあれはぁっ!?」
「どういうことだ!?」
「うわああああああ!」
「ひ、ひとが!ひとが、もざいくのなかからぁっ!」
しかし、驚き叫んだのも無理はない。
何せ遮蔽物らしきものなど何もない白昼の平原に、突如見たこともない身なりのヒトや異形が大勢姿を現したのだから。
次回、数多のゲストキャラクターが大暴れ!