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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
196/450

第百九十六話 ネタニコリ・パニック!~語るレッド・バグ・マスク~





防護服の男の正体とは(棒)

―前回より―


《さァさ盛り上がって参りました~ッッ!次の曲行ってみよーッ!》


 あの後、防護服を着込んだ男は磔にした尖耳種の少女へ数多の虫(スズメバチ、ハエ、アリ、甲虫から果てはナメクジ等)をけしかけつつ、自分はその周りでラジカセ片手に好き勝手騒いでいる。どうやら朝までその場に留まるようだ。

 本来動きづらく蒸し暑い対蜂用防護服を着ている筈なのに、男は軽い身のこなしで踊ったり跳ねたりしながら(少なくともダリア達にとっては)不可解な歌を歌い続ける。


《蠢くモノ 大体敵さ♪

信じて助け合えば 怖くはないから♪

道すがら会う ケダモノ 切り伏せて♪

謎 暴き 答えを見つけ出せ♪

恐るべき庭園を知恵と策謀で切り抜けて

それぞれのアイデンティティ研ぎ澄まし進め

答えは一つじゃなくても"存在しない"なんてことはない

ダイス、ペン、そして仲間信じて

そんなとこで立ち止まらないで

答えは逃げも隠れもするけど

存在しないなんてことは ないから♪》


 エフェクトがかった声での歌が響き渡る中、踊る男の背後では少女がけしかけられた虫の群れに蹂躙されていた。映像はその後夜が明けるまで『虫に蹂躙される少女とその前で歌って踊る防護服の男』のまま延々と続き、木漏れ日の中絶命した少女を梱包する辺りで映像は終了することとなる。


 全体の三分の一を杉田当たりでダレ始めた真宝政府首脳陣だったが、コマ送りを駆使し何とか映像を見終えることに成功する。


「よ、漸く終わったェ……」

「長かったな……本当に、長かった……」

「しかしあいつもあいつだぞ……よくもまあ、あそこまで長々と踊っていられるものだ……」

「あの白いヤツ着てるんなら余計暑いでしょうに……どんな身体してんのかしら……」

[疑問は残ったが、結局めぼしい情報は出なかったな。徒労という事か……さて、ではそろそろ―

―「待て五智、まだ切るな」

 映像の再生を終了しようとする五智を、ダリアが制止する。

[しかしダリア様、この通り幾ら早送りしても真っ暗のままでは――んぉっ!?]

 ありませんか

 リモコンの早送りボタンを押しながらそう続けようとした五智の視界に、突如映像らしきものが飛び込んできた。

 五智は慌てて映像を巻き戻し、程良いところで再生ボタンを押した。


 長い暗転の末に映し出された映像には簡素な空き部屋が写っており、カメラはテーブルの上に設置されていた。少しばかり待っていると、件の映像を撮影したのと同一人物と思しき男が現れた。

 ラフななりをした男の顔面は赤い虫のようなフェイスマスクで覆われており、その顔は窺い知れない。


《よくぞここまで見る気になったな。途中でダレて止めるなりモニター叩き割るなりしてるかと思ったんだが……まさかあの長時間を抜いて凌いだってわけじゃねぇよな?》


 男の口ぶりは森の中とはうって変わって冷静であったが、ダリア達を心底馬鹿にしたような態度であるのに変わりはない。


《そいつぁ正直あってほしくねーぞ。まぁ世の中にゃ四つ腕の猿や角の生えた猪に掘られたり、不細工な巨人に種付け喰らう女見て抜くヤツもいるしなぁ。異種姦ってヤツ?俺ァそういうの否定しねーし場合によっちゃ寧ろ好みだし仮にそこで異種姦とかねーわとか言ったら種族差別でしょっぴかれるが、マジモンの獣姦はどうもなー。エロってよりホラーだろー。

しかも場合によっちゃ――》


 以下、男が映像中で挙げた『異種姦』相手の凡例。

・オオトカゲ(曰く『普通に動物園に居て良いだろこれ』)

・蜘蛛(曰く『もうセックス関係ない』)

・蜂(曰く『カラーリングが明らかにスズメバチなのに寄生蜂とも言えない無駄に回りくどい繁殖形態ってどうよ』)

・蝿(曰く『マゴットセラピーの考案者に謝れ』)

・古代蟻(曰く『別に古代ってつけなくてもいいだろ』)

・有尾類(曰く『これホライモリ?刺身にしたら美味そう』)

・カモノハシ(曰く『間抜け面な上に色が哺乳類じゃない』)

・鳥(曰く『始祖鳥じゃねーのこれ』)

・ウナギ(曰く『何でヤツメウナギの口から何かモザイクかかった物体が飛び出してんだよ』)

・ミミズ(曰く『だからこの口の開き方は何なんだよ』)

・ヤモリ(曰く『水族館に欲しい。つーかフィギュアとか縫いぐるみが欲しい』)

・エビ(曰く『何かかっこいいのに尻尾の先端がアレな所為で台無し』)

・頭足類(曰く『何かクラーケン(カタル・ティゾルでのチョッカクガイに相当)みてぇ』)

・二足歩行するネズミ、カエル、エリマキトカゲや半魚人(曰く『下手すりゃ種族侮辱罪で訴えられるぜこれ』)

・刺々しい肉食恐竜(曰く『無駄にカッコイイんだが』)

・虎(曰く『正直蛇足じゃね?』)

・植物(曰く『改めて世界の生態系を心配したくなった』)

・キノコ(曰く『明らかにアウトなデザイン』)

・寄生虫(曰く『確実に訴えられるデザイン』)

・青く光る樹(曰く『そう言ってる癖にどう見ても刺胞動物』)

・小鬼(曰く『とか言ってる癖に頭が犬なのはどういうことだよ』)

・その他、よくわけのわからない化け物多数(曰く『分類がはっきりしないけど何か白くて角張ったヤツはデザインが好き』)

・天使(曰く『解説文が手抜き』)

・ドラゴン(曰く『だから種族侮辱罪で訴えられるってコレ』)


《――とにかく俺は、お前らがこの映像でただ純粋に腹を立ててコマ送りかまして、そうやって俺の出ているこの映像を見ていると思いたいわけだ。そうだろ?そうだよな?そうなんだろ?そうだと言ってくれよ?そうだって事にすんぞ?

よし、そうだって事にしよう。さて、おまけ映像の筈がもうかれこれウン十分も語りに語っちまったから、そろそろ本題に移ろうと思う》


「さっきからウダウダ語ってたのは全部前置きだったのか……」

「何かむかつくェ……」

「まぁでも……これが本題ってのはもっと嫌じゃない?」


《まず俺の居場所だが、とりあえず三日後に北の映美(インメイ)平原に居ねぇって事だきゃ確かだな。

そこにゃテメェ等の支配下にある真宝軍の兵士全員が束になっても崩せねぇ天然要塞があるが……そんな所に居るぐれぇなら自首するわな》


 男が語る『本題』とは、わざわざ場所や日時を細かに指定してまで、その場に居ないことを明言するものだった。


「だったら早く自首しろ、犯罪者が」

「アンタね、ヤツの言葉を真に受けちゃダメよ」

[そうだ。あの男はああして的確な嘘を吹き込むつもりで、我々を誘い出すつもりでいるのだ]

「回りくどい真似を……」

「引っかかっちゃ駄目だェ。何事も慎重に行かないとだェ」

「……」


 そして粗方(ダリア達が考える限りは)好き勝手嘯いた男は、おもむろに顔を覆う虫型のフェイスマスクへ手を伸ばした。


《それじゃ最後に、お前らへ俺から最高のプレゼントだ》


 そう言って男は、赤い虫のような形のマスクを素早く脱ぎ捨てた。


「おぉ、遂にヤツの素顔が――何ィ!?」

「な、ま、まさかっ!なんで!?なんでなのっ!?」

「おいおいおいおい……どういうことだよ……」

[あの男、何故我々の存在を……情報漏洩云々以前に、何故次元をも超えた……?]

「そんな馬鹿な!こんな馬鹿なこと、起こり得る筈がないェ!」


 男の素顔を見た上地達は同様の余り取り乱したが、それもその筈であろう。

 モニターに映っていた男とは―最早読者諸君にとっては態々言及するまでもないであろうが―ダリア達を悉く苦しめ破滅させた張本人にして我らが主人公、ツジラ・バグテイルこと辻原繁その人だったからに他ならない。

 完璧な隠蔽工作をも見破り、蜂の羽音や謎の異臭等を用い自分達を苦しめた忌まわしき男の顔である。忘れようにも忘れられる筈がなかった。

 その上徹底した魔術的なセキュリティシステムで国土を真宝首脳陣は、運が良いのか悪いのかこれまでのツジラジを悉く聞き逃しており、何かの機会にその話を聞いても軽く聞き流していたためそもそも繁がカタル・ティゾルに来ていたこと自体知らなかったのである。


「大変ですわ、ダリア様っ。あの男のことですもの、きっと私達の居場所を突き止めてっあぁぁぁぁ~!?」


 ダリアを宥めようと近寄った今野は、あろうことかダリアに片腕で投げ飛ばされ、大型テレビの液晶モニターに背中から突っ込んでしまった。

 皆が投げ飛ばされた今野を案ずる中、ダリアは一人その場から立ち去りながら腹立たしげに言い放つ。


「……断じて許さんぞ、辻原ァッ!」

次回、まさかのゲストキャラクター大量参戦!?

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