第百九十五話 侍従が変態に「見せしめ」として拉致られた件
*注意書き*
今回は何時にもましてやたらめったら描写が過激です(当然個人差はあるでしょうが)。
毎度のことと思うかもしれませんが、何か今回は流石に注意書きが必要なレベルに達したかと思いましたので、こうして注意書きを書かせていただきました。
まぁいつものヴァクロといえばそうなんですがね……
―前回より―
全裸に剥かれ手足を縛られたその小さく華奢な身体には腫れ物や噛み跡が多く散見され、白い肌は所々歪に盛り上がり、工業用の棒鑢で削り取られたかのような深い挫滅創まで見受けられる。
目立った外傷がない事から死因は餓死または凍死などと推測されたが、ダリア達にとって少女の死因などはさして重要でなかった。
問題は、少女の身元にあったのである。というのもこの少女、解析の結果ダリアの侍従として彼に仕えていた者であると判明したのである。さる事情により暫く屋敷を離れていた筈だったのだが、改めて相手方に連絡を取ってみると、その少女は送迎者を名乗る者達によって真宝へ発った後であるという。
しかしダリアは送迎者など出しておらず、更に言えば『帰るので迎えを寄越すように』という連絡さえ受け取っていなかった。
「一体何処の何奴だ……何故こんな真似を……」
「少女に対し歪んだ性欲を抱いたド変態のクソ野郎なのは確かだェ……」
「兎も角このDVDを見ましょうよ、何か解るかも知れないわ。ねぇ、そうでしょうダリア様?」
「そうだな。見ないよりは良いかも知れない。五智、レコーダーを起動しろ。九部は恋双様をお部屋までお連れしろ、くれぐれも気を付けてな」
[畏まりました]
「了解ッス」
指示を受けた五智は手早くレコーダーを起動し、九部は意識を失った恋双を運んでいった。
そして再生されたDVDの映像は、ダリア達に予想外の衝撃を与えることになる。
―以下、DVDの映像を交えてお送りします―
《……っと、足場悪いから三脚立てんのも一苦労だな……》
《んんー!んむむー!》
夜間。恐らくヤムタ圏内と思しき山中の雑木林にて、大きなズタ袋を担ぎ右手にビニール袋を持った男が太いクヌギの木の前に腰掛ける。ズタ袋は人間の子供一人が入りそうな大きさであり、絶えずうめき声が上がっている事からして被害者たる侍従の少女が詰め込まれているのは明白であった。
《さて、大体こんなもんかなーっと……》
ズタ袋とビニール袋を地面に下ろした男は、如何にも芝居がかったような口調で声高らかに口を開く。エフェクトのかけられた声は妙に甲高く、声から正体を特定するのは困難であった。
《御機嫌よう、エロゲ屋の中古コーナーに並べられたストレートすぎる陵辱ゲーのパケイラストばりにどうしようもねぇ不快感を漂わせる真宝政府首脳陣諸君!いや、御機嫌ようってェよりは久し振りっつった方がいいか?
まぁいいや。んな事ぁどうでもいいんだ。それより話だ話、本題さえ語れりゃモーマンタイ、問題ねぇってヤツよ。まぁ兎も角、お前らがこの映像を見てる頃にゃ俺はここに居ねぇだろうが、幾ら低脳のお前らでもそんぐれぇは解るよな?解ってくれよ?解ってくれねぇと話、進まねーかんなぁ》
白い防護服を着込んだ男は馴れ馴れしく、しかし確かな悪意の籠もった喋りでカメラに語りかけていく。
「……一体何なんだ、この男ッ」
「何にせよ腹立たしいのは確かだェ……」
「……ッく!」
[落ち着け今野。無闇な怒りは何も生まん]
「そうだぜ。それよりは情報が先だろ」
《さて。それで肝心の話?ってヤツなんだが……ぶっちゃけアレだ、お前ら皆殺し。OK?》
「OKなわけ―[落ち着け]
怒りの余り手元にあった置物を投げつけようとした今野を、五智が慌てて制止する。
「で、でもっ!」
「でもじゃねーよ、こんな所で反応したら相手の思うつぼだろうが」
「……わかったわよ……静かにすればいいんでしょう、静かにすれば……」
《――つーわけで、お前らってば俺らからすっとかぁーなぁーりっ、ウゼェの!
お前らの目障りっぷりに俺が泣き、クソみてぇな有様に俺惨状!?ってぐれぇにな!
特に万宮の公式サイトなんて、もう見るだけストレスマッハ!虫唾が走って降臨グゥ~の満を持してェンだぜオイ!
画像ばっかなのとかドピンクな色彩センスはまだいいが、何でお前文章が全部平仮名なんだ!?せめて片仮名とアルファベット使えよッバァァカ!平安貴族も釣られねーわ、バァカじゃねぇの!?》
その後心のこもった罵詈雑言を吐き散らした後、男は『話が逸れた』と言って話題を切り替えた。
《つーかさ、それを言やぁあの町並は何なんだっつー話でよ。マジで何?お前ら頭おかしいんじゃねぇの?普通あんな糞デケェってレベル超えたガレージキット、町中に飾る飾らねー以前にそもそもあんなもん特注で作るか?デザインも何かダセェしよ、なーんかキチガイってカンジィ?
兎も角まぁ、今回はその意志を伝える為にこうして心の籠もったビデオレターってヤツを送らせて貰ったわけよ。わかる?》
そう言って男が立ち上がり、ズタ袋の中身を出した瞬間、一同はやはりと思いながらも絶句した。
ズタ袋の中から出てきたのは、遠征に行っていたはずが変死体となって箱の中に詰め込まれていた件の少女だったからである。
ほぼ全裸に剥かれた少女は手足を縛られ、口はボールギャグで固定されてしまっている。総じてロリコンであり幼女に執着する真宝政府首脳陣にとってその姿にはそそるものがあり、それが余計腹立たしくてならなかった。
続いて男は無抵抗な尖耳種の少女を手際よく背後の木に縛り付けていく。その構図はまるで、オカルトものにありがちな土着神崇拝の根付く辺境地での一場面(具体的に言うならば、邪悪な信徒達が生娘をおぞましい化け物の贄に捧げる場面)を連想させる。
《どーよ、モノは貧相で見栄えしねぇ残念っぷりだが見事なもんだろ?もうちょい時間がありゃ如何にもオカルトホラーな邪教っぽい演出が出来たんだが、そこは許せ。まぁ俺はロリコンじゃねーからこんなもんの魅力は微塵もわかんねーが、その筋のヤツからすりゃ垂涎モンなんだろうぜ。そうだろ?》
そう言って男はビニール袋の中から様々なボトルを数本取り出した。様々な色、大きさのそれらは、よく見ると酒や炭酸飲料等であるらしかった。
《聞いた話じゃ世の中にゃ『ペロリスト』なんて連中が居るらしい。十中八九ろくでもねぇクズ共で、好きな奴の身体を嘗め回したいと思う連中の事らしいが……気が知れねぇな。嘗め回すぐれぇなら撫で回すなり揉むなりまさぐるなりするぜ俺ぁ。フェラクンニやら傷口なら兎も角だがよ、ただの身体嘗め回した所で気持ちよくも何ともねぇだろっつーのよ》
男は薄暗い中で黄金色に光る小振りな円筒形のボトルの包装ビニールと突起状のフタを取ると、続いて取っ手のついた透明なペットボトルのキャップを外す。
《まぁでも、これならまだ解らなくもねぇかな。真っ平御免なのは確かだがよ》
そう言って二つのボトルを手に持ち立ち上がった男は、それらの中身を同時に少女へぶちまけた。
少々粘り気のある黄金色の液体が幼女の身体を伝い、一見淡水と大差なく見える透明な液体がその身体を潤していく。
《とりあえず安い焼酎と蜂蜜はこういうのの定石だよなー。あとはこれも安物のワインに、コーラなんだが……》
焼酎と蜂蜜を使い切った男は立て続けに赤ワインを少女の頭へ注ぎ込む。そしてそれの中身もなくなったのを確認すると、続いて大振りなコーラのボトルを取り出し、そのキャップを素早く外した。
しかしそれをすぐに少女へぶちまけようとはせず、あろう事かボトルの飲み口を掌で押さえつける。
《ここでキャップ捨てたらワイルドなんだろうが……生憎ゴミ箱もねぇしなぁ、っとぉぃ!》
何を血迷ったのか、男はふたを開けて塞いだコーラのボトルを上下に激しく振り始めた。
皆さん知っての事と思うが、炭酸飲料は総じて高圧により二酸化炭素を無理矢理溶かし込んだ液体である。故に常時かなり不安定な状態にあり、容器を振るなどしようものなら水分子と二酸化炭素のバランスが崩壊。体積の増えた二酸化炭素が自ら噴き出してしまうのである。
それでも男は躊躇なくコーラのボトルを振り回し、手で押さえた飲み口を少女の鼻先へつきつけた。何が起こるのか覚った少女は苦悶の表情を浮かべるが、男はそんな事などお構いなしに飲み口から手を素早く放す。
激しい音と共に気泡で体積の上がったコーラが飲み口より噴き出し、少女の顔面を直撃する。それも角度が角度であったため、目こそ入らなかったものの鼻の穴へはほぼ直撃レベルで入り込んでしまった。咳き込み苦しむ少女の頭へコーラを注いだ男は、続いて缶ビールを五本少女の下半身にぶちまけ、何処からか椀型の物体を二つと何かの台座、更に箱形の物体を取り出した。
《昆虫図鑑とか自由研究ムックの定番っつったらやっぱこれだよなぁ》
男は手際よく椀型の物体を少女の両脇に台座で固定し、箱形の物体とコードで連結する。
刹那、画面を見ていたダリア達の視界が一瞬真っ白になった。椀型の物体は巨大なライトだったのである。
更に男は袋に入っていた最後のボトル―全体的に華奢で何やらアルファベットの単語が箔押し筆記体で書かれている小振りなもの―の中身を少女にぶちまけた。
《さ、て、と。これで大体の準備は整った……あとは頃合いを見てこいつを回収するだけなんだが……あぁ、それじゃ何かつまんねぇなぁ……》
男はまたも何処からかプラスチック製の密閉容器を取り出し、フタを開けたそれらを少女の周囲に配置していく。但し、最後に取り出した木箱だけはフタを開けずに足元へ置いた。
《つーか、政府の皆さんに見て頂く代物なんだ。普通の出し物にするぐれぇじゃつまんねぇのは当然なわけで……いよっ》
男がふたを取り払った瞬間、木箱の中から顔を出した無数の『何か』が恐ろしげな轟音を伴い少女に向かっていった。
薄暗い中でこそあったが、男の奇声をかき消すほどに大きな重厚感溢れる羽音は、これでもかというほどにその持ち主の正体を物語っていた。
「これは……ハチか?」
それまで騒ぐ部下達を尻目に黙り込んでいたダリアだったが、その羽音を聞いて思わず口を開いた。忘れもしない、あれは高校時代の事だった。全ては順調に進んでいたはずなのに、あの男のせいで全てが台無しになった。
眠りを妨げ、精神を汚染しつくしたあの音を、よもや忘れるはずが無い。耳にこびりついて離れない忌まわしき音を、まさか再び聞かされることになろうとは。
「まさか……奴の仕業か?だが、何故奴がここに……」
次回、ダリアとハチの因縁とは!?