第百九十四話 この次の話の描写がやたら過激なのはどう考えても作者が悪い!
……うん、知ってた。
―前回より―
「……そうかよ。そこまで言われちゃ仕方ねぇな。で、お前個人はこれからどうしたい?」
「勿論あなた方についていきますよ。故意でないにせよ私も大勢殺してきた身です。法的な罪には問われないでしょうが、面倒な事になるのは目に見えていますからね」
「言うようになったな。だがいいのか?その行為は祖国への、もっと言やぁお前の家族にも等しい主人への反逆って事になるぞ」
「構いません。私が愛した真宝とは、ヤムタが世界に誇る英知と文化、そしてそれらを統べる貴族達の国ですので」
「ふぅん、そうか……続けな」
「彼らは独裁により民草を苦しめる傲慢で強欲な暴君でした。しかしそれ以上に誇り高く賢く潔く、そして何より美しい。それが真宝という国家と、その国を統べる貴族の有るべき姿なのです」
「なら、今の真宝はお前からすりゃどうなんだ?」
「語るに及ばず。あれなるは既に国を名乗るもおこがましい。小蝿一匹も寄せ付けぬ下郎の掃き溜め。まして自信の祖国だなどと、死んでも認めようとは思いません」
「要約するなら?」
「滅ぼします」
「真恋双はどうする?」
「問い質し、余地あらば救済と更生を」
「無い場合は?」
「語るに及ばず。この手で息の根を止めるまで」
「俺達の側について殺人者になる覚悟は?」
「なければここまで話は長引きません」
「……そう、か。なら俺に断る理由はねぇな。歓迎するぞ、建逆璃桜」
「有り難き幸せに存じます」
「そうと決まれば、だ」
繁は腰掛けていたベッドから立ち上がり、妙にゆっくりと歩き出す。
「早速出撃の準備ですか?できる事があるならばお手伝いを―「いや、そこで待っとけ。用意するもんがある」――そう、ですか」
ゆっくりと部屋を去った割に、繁は案外すぐに戻ってきた。
その手には大体一抱えほどの青く薄平たい紙箱が握られている。
「その箱は?」
「新人への入団祝いって奴だ。信頼できる職人のものだ、受け取っときな」
「何からなにまで有り難う御座います。このお礼は後日必ず―「構うな。元々頼んでもねぇのに送りつけられてきた代物だ、惜しむことはねぇ。
どうしても恩返しがしてぇなら、ラジオで仕事頑張るとかその辺りでやってくれや」
「畏まりました。では、その通りに」
―三日後・真宝の首都万宮某所にある屋敷―
「さあさごしゅじんさまっ、はやくはやくっ!」
「ははは、まぁそう慌てないで。ゆっくり行ってもプレゼントは逃げやしませんよ」
「そうですけど、だってたのしみなんですもの!」
弾むような声ではしゃぐ侍従の幼女に引っ張られながら、ダリアは広間を目指していた。
というのも今日はダリア達の献身により恋双が鬱から完全に立ち直ったとして記念日に指定されている日であり、それに伴って方々から贈り物が届く日でもあったからである。
「いやはや、それにしても月日が経つのは早いものですねぇ。あれからもう三年ですか……思えばここまで辿り着くのは茨の道だった……」
「本当、鬱になった時はどうなっちゃうかと心配だったけどね」
ダリアの背後から咄嗟に声をかけてきたのは、今やダリアと共に真宝を支配する女帝となった女・真恋双。今年で25歳になる彼女であったが、その見て呉れは年齢にそぐわず幼い子供のままであった。
「おや、恋双様。視察はもう終わったので?」
「えぇ。特に異常も無かったから、早めに切り上げられたのよ」
「そうでしたか、それは良かった」
「りぇんしゅあんさま、うつよりのふっきさんしゅうねん、おめでとうございます」
「ありがとう、ロラ。あなた達も普段からよくやってくれているわ」
恋双は侍従の頭を優しく撫でると、足早に広間へ向かった。
―広間―
「おぉ、ダリア様」
「お待ちしておりましたェ」
広間へ訪れた三人を出迎えたのは、小門や上地を初めとする大勢の侍従達であった。
中央には方々から届いたであろう贈り物の箱が積み上げられており、中には子供一人入りそうな程の大きさの木箱まである。
「御苦労。荷物の様子はどうだ?」
「はい。本年度は諸事情あってか例年よりは少なめですが、それでも御覧の通りで御座います」
「これも一重にダリア様と恋双様の人望やカリスマの成せる技と存じますェ」
「ふむ……五智、中身の確認は?」
[スキャニングしましたところ、特殊な代物は見受けられませんでした。全てこの場で開封して問題ないかと]
五智なる赤銅色をした細身のロボットらしき人物はエフェクトがかった声でそう告げた。
「ただ、あのデケー箱だきゃコイツの左目でも見えねぇそうなんスよ。なぁ、マシロ?」
等と言うのは、浅黒い肌に筋骨隆々な体躯をした坊主頭の霊長種にして議会メンバーの男・宮部吾朗。
[スキャニングを阻害する特殊な素材で出来ているらしく。差出人も不明な為迂闊な開封は危険かと]
「んもぅ、ましろんたら何言ってんのよぅ。去年もそんなこと言って大騒ぎしちゃった癖に、開けてみたらただの梱包シートだったじゃない」
そう言って五智に意見するのは、フェミニンな口調と身なりをした美男子の今野二古。線の細さと巧みな女装から女と見まごうほどの容姿だが男性であり、ダリアを崇拝するロリコンでもあった。
[ふむ……そう言われてみれば確かに、最近多忙でメンテナンスを怠っていたからなぁ……]
「まぁ、気に病むこともあるまい。あれは最後の楽しみに取っておいて、まずは手頃な大きさの箱や包みから開けていこうじゃないか」
[それもそうですな……祝賀会が終わり次第右目をどうにかせねば……]
かくしてケーキ解体やプレゼントの開封を交えながら、祝賀会は賑やかに進んでいった。
そしてパーティも終盤に差し掛かり、遂に中身の解らなかった大箱を開封する時がやって来た。
その場の誰もが胸を膨らませ、今か今かと開封を待ち侘びる。
幼い侍従達は身を乗り出し、普段は冷静なダリアや恋双も瞬きをせずその様子を見守る。開封を担当した五智でさえ、期待で手が震える程に興奮している程だった。
皆が固唾を飲んで見守る中、遂に箱のフタは取り払われ、その中身が露わになった。
その中身は今野の言うとおり特殊な梱包シートに包まれており、手書きの赤文字で『おめでとうございます』とだけ書かれており、チャック付きのビニール袋に入ったDVDのディスクが添付されている。
こちらの盤面には『ビデオレター』と書かれており、ダリアは早速部下達にDVDプレイヤーを用意させた。
しかしその直後、梱包シートが開かれた瞬間
「っきゃあああああああああああああ!」
「いやああああああああああああああ!」
「ああああああああああああああああ!」
「ひぃいいいいいいいいいいいいいい!」
莫大なカネを投じて作られた大広間を、幼い侍従達の悲鳴と泣き叫ぶ声が支配した。
中には泣き出す者や卒倒する者、その場から全速力で逃げ出す者や腹の中身を嘔吐してしまう者まで居り、一時広間はパニック状態に陥った。
かと言ってダリアや恋双といった大人達が落ち着いていたかと言えばそんな事もなく、ある者は絶句し、ある者は嘔吐し、ある者は気絶し、多少の事では動じないダリアさえ混乱の余り動けなくなっていた。
その後どうにか冷静さを取り戻したダリアの起点により事態は収拾したのだが、しかし混乱が巻き起こったのも無理はなかった。
大きな木箱の中に入っていたもの―それは、尖耳種と思しき少女の変死体だったのである。
一体これは何なのか!?
次回、犯人はやっぱりあの男!