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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第百九十三話 たてサカ!





長々と続いた戦いもようやく終わり……

―前回より・帰還後、十日町邸のある部屋にて―


「本ッッッッ当ぉぉぉに、すまんかった!この埋め合わせは何時か必ず……」

「いえ、ですから謝らないで下さいって……」


 必死の形相で土下座する繁の気迫に、璃桜は正直なところ戸惑っていた。


「だが、本来無関係のお前をこっちの戦いに巻き込んだ挙げ句死ぬような思いをさせちまったのは確かだ。つーか実際死にかけたんだろ?

てめえで助けるだ救うだと言った側からこのザマじゃどうしようもねぇ……ましてお前は只でさえ体ン中流れてる夜魔幻の血と戦わなきゃならねぇってのに、治療の目処も立たねぇ内からこんな事に……管理不行き届きもいいところだろ、こんなん……」


 極めて珍しいことに心底罪悪感を感じているらしい繁は、沈みきった表情で溜息などつきながら項垂れる。だらしなく開かれた口からは今にも色々なものが抜け出しそうで、その有様はまるで生きたままモズの早贄になったヤモリのようであった。傍目から見ればこの上なくだらしない上にかなり間の抜けた構図なのだが、本人は(本当にどういうわけなのかまるで信じられないが)心底真面目に自分の失態を悔いているのだからなお始末が悪い。


「だからそう気に病まないで下さい。私はこの通り大丈夫ですから。世の中何事も『終わりよければ全て良し』じゃないですか。夜魔幻の血だって何とかなりましたし」

「あぁ、そうかもな……――って、夜魔幻の血が何とかなったぁ!?」

「はい。どういうわけかあの戦いの最中、追い詰められてそろそろ死ぬかと思った途端に何とかなってしまったんです。逃げ回っていたら、突然得体の知れない声に導かれたんですよ。『この状況を脱したいのなら、夜魔幻の血を受け入れろ』とか。何でも『嫌い拒めば暴れ出す。愛し応じれば力となる』そうで、私は元々夜魔幻の才能に溢れた希有な存在だとも言っていました。結局その声が誰なのかは解りませんでしたが、あの吸血衝動もすっかりなくなりましたし、少なくとも悪いものではなかったのかな、と」

「『嫌い拒めば暴れ出す。愛し応じれば力となる』……か。どっかで見た光景だな……人間関係って案外簡単に行くもんなのか……?」

「本当はもっと早めに話すべきだったんですけど、流れに押されてタイミングを逃してしまって……」

「あぁ、別に気にすんな。それで、吸血衝動が消えた以外には何かあったか?」

「変化……ですか。強いて挙げるなら身体能力の向上と……何か、変身能力のようなものを……」

「変身能力?」

「はい。私もまだ実態が掴めていないので詳しいことは解りませんが、有用性の高い優れた力を得るに至ったのだということだけは解ります」

「そうか……何にせよ無事で良かった」

「いえ、こちらこそ何とお礼を言ったらよいか……」

「だから気にすんなって」

「いいえ、気にします。ここまでのことをしたのなら、せめてあなた方が何者か説明するのが通すべき筋というものでしょう」

「筋、ねぇ……そういやまだ話してなかったか?まぁいいや。お前の言う通り、この際色々話してやんなきゃな」

 そう言って繁は、自分達が何者であり、どんな活動をしているのかを璃桜に話して聞かせ、同時に璃桜も自身の過去について知り得る限りの情報を繁に伝えた。

「ほう……そんな事がなぁ……」

「えぇ、色々とありましてね。それはそうとしてそちらも……ラジオ、ですか」

「そうだなー。そんな風に言やぁ聞こえは良いが、やってることは単なる劇場型テロと大差ねぇ。今までだって勝手な都合で何人も殺してきた。百人でもォ、殺せばァ、英雄さァ~♪なんて歌ぁあったがそりゃ戦場とフィクションの話。しょっ引かれりゃ法廷通り越してその場で射殺されたって文句は言えねぇ。世間一般からすりゃドン・ゴ・ラボル(※1)と同じようなもんだ。嫌うも蔑むも好きにしな」


 中々珍しい繁の自虐的な態度に気圧され押し黙った璃桜であったが、ふと思った事をぽつりと口にした。


「……本当に、そうなんでしょうか」

「あ?」

「だってそうではありませんか。あなたはご自分をドン・ゴ・ラボルの同類だと言いましたが、だとすれば私のような、風でも吹けば飛ぶほどにちっぽけな雌など助け、その上態々ここまで世話をするのでしょうか」

「……ふん」

「確かにあなたは方々で虐殺を繰り返した。そしてこれからも大勢を殺す気でいる。それは確かに世間一般で言えば『邪悪』なのでしょう。ですが仮に、あなたがドン・ゴ・ラボル程の悪であったのなら、私のような者に救いの手を差し伸べたりするとは、到底思えないのです」

「……健康になったのを闇市に売り飛ばすつもりだったらどうする?金目当てのクズならやりかねねーぞ」

「そのつもりならもっと早くに事を済ませている筈です」

「なら俺がとんでもねー変態野郎で、太らせたお前をバラして照り焼きか唐揚げにでもして食う算段だっつー可能性は?」

「お肉やお魚を出してくれたのでその可能性もないでしょう。竜属種を含めた竜種の肉は動物食傾向が強まるほど味が落ちるという学説を聞いたことがあります。話を聞くに相当博識なあなたがこれを知らないことはない筈です」

「そらどーも。じゃあ薬漬けにして殺しの道具や肉便器にするってのはどうだ?俺みてぇな眼鏡のヒョロい童貞野郎ならやりかねねーぞ」

「それこそまず有り得ませんよ。性経験の有無を抜きにしても、事前にそんなことを言ったとすれば十中八九嘘か虚仮威し。実行するつもりなら口より先に手が出ているでしょうから」

「大した自信だな。何故そんな穴だらけの理由説明で物事を断言できる?」

「何故って、おかしな事を聞きますね。そんなの、あなたがいい方だからに決まっているじゃありませんか」

「答えになってねぇよ。じゃあ何で俺がいい奴に見えるんだっつー話だろ」

「ん、それは確かにそうかもしれませんね」

「かもじゃねぇよ確実にそうだろうが。で、お前は何故俺をいい奴だと断言できる?」

「何故、と言われましてもね……そう、何と言えばよいでしょうか……」


 暫く考えた後、璃桜は笑顔を浮かべて言った。


「わかるんですよ、私には。竜属種の感覚は妙な所で鋭いことがあるので、偶にヒトの性根が見えたりするんです」

「ほ~ぉ、じゃあお前が見た俺の性根ってのはどんなんだ?」

「中々ややこしいので全てを見通せたわけではありませんが……少なくとも、邪悪と情愛が見えたのは確かですね。忌み嫌い憎む者をひたすら痛め付け苦しめたいと思う邪悪と、大切な誰かのために全力を以て尽くしたいという情愛……私に見えたのはその二つだけですが、結局あなたはいい方なのだと思えてしまうんです。どういうわけか、ごく自然に」

「……そうかよ。そこまで言われちゃ仕方ねぇな。で、お前個人はこれからどうしたい?」

次回、璃桜の出した決断とは!?


※1…ムア真理求道会教祖。飛行能力を持たないオウム系羽毛種の中年男性。ドン・ゴ・ラボルの名は源氏名で、本名は黄凱(ウォン・ケイ)。他マカ・ドゥギア・ラボルという洗礼名もあったらしい。魔術・学術の両分野に深く精通し、全盛期はあらゆる概念を超越せし超自然的存在を自称。全盛期は絶大なカリスマ性により数多の信者達から崇拝された。後にデーツ一味の介入によりムア真理求道会が壊滅し逮捕された。裁判の結果死刑判決が出たが未だ執行されておらず、獄中にて存命中の模様。

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