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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
192/450

第百九十二話 流体種デーツの動機:後編





デーツ一味が繁達を襲った理由とは?

―前回より 璃桜&レノーギ&デトラ&シャラ(電話越し)サイド―


『ヴィドック家の使者さんが口にした事実は、多くの人々を絶句させるに等しいほど衝撃的なものでした。この辺りは僕よりレノーギさん達の方が詳しいと思いますけど、確かデトラさんが卒倒しかけたんでしたっけ?』

「『しかけた』んじゃなくて『した』のよ。だって、私達が今まで只の孤児だと思って接して来た女の子が特等貴族の娘だったんですもの。驚かない方がおかしいっての」

「それも事故死したと思われていた正室の一人娘だからな……衝撃も大きかったことだろう」

「正室の、一人娘だと?」

「何だ、知らんのか……まぁ、一般には公表していないのだから無理もないな。現ヴィドック家当主が正室に生ませた一人娘のクレールは、幼くして反政府組織による自爆テロに巻き込まれ死亡したと思われていた」

「でも実際は違った。奇跡的に生き残った一人娘のクレールはその後何者かに保護され、14年前の大災害までどこかで普通の生活を送ってたのよ」

『当時後継者が居ないことに悩まされていたヴィドック家は、一人娘クレール―もといサイカ様の身柄を引き渡すよう申し出ましたが、当主様は「当人の意見を優先したい」と返し、サイカ様を呼びに行かせました』

「あの時はどうなるかと不安で不安で仕方なかったが、杞憂に終わったのは僥倖だった」

「と、言うと?」

「使いに話を聞いたサイカ様はクレール・ヴィドックとしての自分をあっさりと受け入れたのよ。実家が望めば可能な限りそれに従う、とも言ったわね。但し、イスハクル家との繋がりやサイカとしての自分も残しておくという条件つきでね」

『承諾したヴィドック家はイスハクル家と結託し、両家は持ちつ持たれつの関係になっていったそうです。名をクレール・サイカ・ヴィドックと改めたサイカ様の存在は、まさしく友好の象徴と言ってよいでしょう』


―繁&デーツサイド―


「とまぁ、このままならまだ良かったのだけど……世の中そう上手く行くものでもないのよねぇ」

「やっぱ何かあったんだな?」

「えぇ。今年の春にサイカは目出度く17歳の誕生日を迎えてね、後日家督継承に向けて諸々の方面で動き出したのだけど」

「ほう。特等貴族ってのも大変だな。それで?」

「サイカは元々文武両道で全面的に能力は高かったから、あとは適齢期に達すればほぼ自動的に家督継承が成立すると目されているわ。ただ、だからといって問題がないわけじゃないの」

「……配偶者か」

「そう。女子が家督を継承し当主になるということは、同時に次の跡継ぎを産み育てねばならないということ。その為には優れた能力を持つ男を婿養子に迎え入れなければならないの。

特級貴族の取り巻きには頭の固い連中も多いから、家柄も重要になってくるわ。勿論サイカの両親はそんな狭量じゃないんだけど」

「立場上波風立てちゃあヤベェ、と。その上実質的に家のボス格は昔気質の年寄り共で、その方にも喧嘩売っちまうと娘も巻き添えにされかねねぇわけだしな」

「そうね、言葉は乱暴だけど大体あってるわ。半端な地主や資産家は勿論、そうでなくても長男でないとか正室の子でないというだけの理由で散々非難されるのは、何時の時代も同じなのよ」

「やってらんねぇな……まぁ、そこからの流れは大体予想できるぜ。結局サイカってヤツの相手は見付からず、それを良いことにどっか別の金持ちが自分とこの長男を突き付けて来た。そうだろ?」

「よくわかったわね、その通りよ。相手方はイスキュロンを中心に軍需産業で幅を利かせる複合企業(コングロマリット)・シームルグ財閥の跡取り息子、炎の鬼頭種リゼル・シームルグよ」

「財閥だぁ?貴族じゃねぇのかよ」

「私も最初は驚かされたけど、どうやら上級大将である祖父が孫のために各所へ圧力をかけたみたい。当のリゼルはどうも乗り気じゃないみたいだけどね」

「ハ、酷ぇな。全くお笑いだ……で、どうなった?まさか両方とも乗り気じゃねぇまま結婚させちまったわけじゃあるめぇな?」

「当然、そんな事などしないわ。サイカは私達の妹みたいなものだもの。この命続く限り、彼女の為に動き続けるのが私の使命でもあるし」

「大した決意だな。んで、お前はサイカの為に何をしようと?」

「ひとまず縁談を不等なものとして破談を訴えた私達だったけど、昔気質の年寄り共は聞く耳を持たなかった――ただ一人、リゼルの父方の祖父にして前イスキュロン空軍上級大将のネフティ・シームルグを除いてはね」

「ほう……」

「元々ノンキャリアで上級大将にまで成り上がり、現役時代は階級にかかわらず常に最前線で戦い抜いたという経歴のネフティはジョークやユーモアを理解する豪傑でね。『そんなに縁談が不服だというのなら、お前達の持ちうる力を示して見せろ』なんて言ってきたわ。それで私は『私有戦力で真宝の貴族政府を壊滅させてみせる』って宣言したの」

「狙いが真宝の政府なら何故俺達を襲う必要がある?新しい武器の試し切りを兼ねたトレーニングか?」

「失礼ね、そんな理由なら山で適当に賊狩りでもするわよ。あなた達を襲った理由は至極単純……戦績に箔を付けるためよ」

「箔だぁ?まさか真宝政府のクズ共の首に加えて俺らのも持ち帰って見せびらかす為か?それで年寄り共に実力を認めさせると?」

「そういう事。部下の子達には流れで『獲物を先取りされないように予め倒しておくため』って言っちゃったんだけど、世界各地で大暴れしてるあなた達を仕留めればあの年寄り達も反論の余地なんてないかな、なんて思ったのよ。丁度近場に居るって情報も入ったし、序でにね」

「序でにってなぁ……そんなノリで寝起きに戦わされる身にもなれよ、オイ……まぁとりあえず俺らを元の場所に戻してくんねぇか。色々整理をつけたい」

「解ったわ。外部の部下と連絡を取るからちょっと待ってて」

「よっしゃ」


 かくしてブランク・ディメンションより脱した繁達は、お互い散り散りになった先での出来事を報告し合い、また十日町邸の面々にもそれらの詳細な事情を伝えた。

 話を聞いた晶は最初こそ驚いていた様子だったが、どうやらイスハクル家とは元々関わりがあったらしく、彼女の名前を出しただけで呆れたように納得した。

 一方のデーツ一味は繁達への敗北を理由にヤムタを去ろうと考えていたのだが、そんな彼女らを繁は引き留め、真宝政府襲撃作戦への協力を命じたのであった。

何やかんやあってどうにか和解した両陣営。

次回、璃桜の口から語られる『アレ』の真相とは!?

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