第百九十一話 流体種デーツの動機:前編
今回、遂にデーツ一味の正体が明らかに!
―前回より―
「見事だったわ……アサシンバグの爆生にセミが含まれていたとはいえ、ああも巧みに私の弱点を聞き出すなんて」
「つーかあの状況下で勝ち確信してあれこれベラベラ喋るお前もどうなんだよ……職業病ってレベルじゃねえぞアレ……」
話数にして十五話にも及んだ異空間での決闘も漸く終わり、結果として勝負に負けた(デッドの場合は相討ちだったため休憩後腕相撲で決着を付けた)デーツ一味は約束通り自分達の目的や正体を打ち明け始めた。
「とは言え、どこから話せばいいかしらね……」
「お前がどこぞの大国で研究者とか魔術学校の非常勤講師やってるって話は聞いた。
住まいは知らんが大体ノモシアかヤムタ辺りだろとも予想がつく」
「ご明察、私は生粋のノモシア民よ。家族は両親と既婚で子持ちの兄が一人。義姉は流体種ではなく尖耳種なの。実家は春頃に大暴れしたルタマルスの隣国、ジミ・タジアにあるわ。家そのものは一般的なレベルより若干裕福って所かしらね」
「ジミ・タジア……元は王制国家だった所か」
「そう。それでね、うちの家系は代々裕福で心にゆとりがあったからか、困っている人を見過ごせない性格でね。捨て犬とか孤児とか浮浪者とか脱獄囚なんかを見付けると、思わず拾ってきて家族総出で育てちゃうのよね」
「捨て犬と孤児は兎も角浮浪者って何だよお前……」
「仕方ないじゃない、だって可哀想なんだもの。それである時私の兄が、何を血迷ったのか拾ってきたヒトや動物達に色々な訓練を受けさせて自分だけの『私設兵団』を作っちゃったのよ」
「私設兵団だぁ?」
「そう。バカみたいな話でしょ?まぁ元々うちの家族は真面目で仕事熱心な反面ハメを外すとなると徹底するような所あったから、今更驚く気にもなれなかったんだけど」
「それでどうなった?」
「その後私が『そんなの作って何するの?』って聞いたら、『困っている人を助けたりするに決まってるだろう』なんてさも当然のように返されたわ。その時は『( ´_ゝ`)フーン』ぐらいで済ませてたんだけどね……一ヶ月くらいして、アクサノで異常発生したドラゴンも丸飲みにする大蛇の群れを兄の私設兵団が半日で全滅させたって聞いたときはもう絶句したわよ」
「ツリーフォークボアの群れを半日で壊滅させたのかよ……どんなインフレ集団だおい。で、お前がその私設兵団とやらを組んだのはいつ頃だ?」
「最古参の花音を拾ったのは高校二年生の夏だけど、本格化したのは大学行ってからね。勿論拾った全員が部下になったわけじゃなくて、後見人として育てた子も居たりするけどね。さて、ここまで来て漸く本題に入れるわけだけど」
「お前らがこんな回りくどい真似してまで俺らを殺しにかかった理由か」
「そう。事の発端は14年前……そう、あれは確かヤムタ西部の都市・観布子で既存の魔術理論を逸脱した怪奇事件が起こっていた頃だったかしら。兎も角私が生一と出会う前の話よ」
―香織&生一サイド―
「その年の初夏にノモシアの東で謎の大災害が起こったのですけれど、ご存じかしら?」
「あー、うちの師匠が生前言ってたような気がする。確か、都市一つを丸々焼き尽くすぐらいの大爆発だっけ?劣化した魔術具の集団暴発だとか、どっかのアホが攻撃魔術の実験で引き起こしたとかっていう噂の」
「えぇ。一説には地下で動かされていた何らかの巨大な魔術機関が爆発したものであるとか、さる著名な家系から出た魔術師達による抗争が原因ではないかとも言われていますわ。実際に幾らか死体も上がっていますし」
「魔術師同士の抗争で大災害って……それで?」
「はい。イスハクル家の皆様はその事をひどく悲しまれ、一家総出で現場へ救助活動に向かったのです。勿論デーツ団長のお兄様率いる私設兵団の皆様も一緒でしたわ。結果として多くの被災者が助かり、都市の復興も順調に進んでいきました」
―桃李&羽辰&刻十サイド―
「そして、そこで当時高校生だった団長は瓦礫に埋もれた一人の女の子を助け出したんだ。
白金のような長髪と澄み渡ったアメジストのような瞳を持ったその子は、身なりこそ煤けて見窄らしかったものの、この世のものとは思えないほどの強いオーラを感じ取れたと団長は言っていた」
「オーラ……とは、魔術的なものですか?」
「無論そう考えるのが妥当だろうね。聞けば学術にもオーラというものはあるらしいが――
『少なくとも魔術文化圏の方が考えるほど小綺麗で格好の良いものでもありませんよ』
「補足ありがとう。さて、そうこうあって団長に拾われたその子はサイカと名付けられ、以後イスハクル家が保護することになったんだ」
―春樹&聖サイド―
「サイカ様は孤児の癖に器量が良く頭脳明晰で気品に溢れておられた。小さい頃から誰に対してでも分け隔て無く接する御方だったよ。並の稚児ならば見るだけで泣き喚きそうな容姿の相手にも笑顔で接していたな、そういえば……」
「良い子なのだ。僕なんか生まれつきタンビエン因子持ってるけど、流石に竜種やスズメバチの群れが目の前に居たら逃げるのだ」
「……それは基本誰でも逃げるだろうが、兎も角サイカ様は天使のような御方だったのだ」
「えー?その例えはどうかと思うのだ」
「何故だ?愛らしく美しく清らかな女性は天使と呼ばれて当然だろうが」
「いやぁ、確かにそれはそうだけど。でも最近の天使って、何か意味不明でぐるぐる回ってたり、サソリだったり、自称支配者だか神だかのロボットだったり、羽生えたゴルフボールだったり、雲だったり、四角形だったり、中央に不気味なおっさんの顔があったりするから……」
「誰がそんな妖怪変化を思い浮かべろと言ったっ!?誰がっ!?
普通の天使をイメージしろ普通の天使を。出来ないなら妖精でもいい。
可憐で儚げなサイカ様を比喩するのにぴったりの表現だ」
「妖精っていうと……グレムリンにウォーターリーパー、それからナックラヴィーにレッドキャップ―
「おい止せ、グロテスクな話から離れろっ!妖精と言われてそんな化け物を思い浮かべる奴があるかっ!
ともかくサイカ様は非の打ち所がない美少女であらせられたのだが、ある日を境に彼女の日常は大きく様変わりしてしまうこととなる」
―ニコラ&アリサ&ジランサイド―
「私とジランちゃんはその頃まだ加入していなかったので直接的な事情は知らないのですが、事が起こったのは5年前、サイカ様が十二歳のお誕生日を迎えられる二月前のことだったそうです」
「何か朝っぱら辺りに、イスハクルの屋敷へ不気味な黒服連れた緑色のネーチャンが現れてよ。何か頭に花咲いててな、出迎えたメイドさんへの第一声が『家主を出せ』と」
「程なくして団長のお父様が駆けつけ、そこで漸くその人は自分がヴィドック家の使者であると名乗ったんです」
「ヴィドック家……神性種の王族から分岐した特等貴族じゃない」
「何だよ、知ってんのか?なら話は早ぇ。っつっても、その様子じゃ大方予想はついてるんだろうがな……」
次回、デーツ一味が繁達に戦いを挑んだ理由とは!?