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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
190/450

第百九十話 これはクモですか?n.はい、ザトウムシです






十五話に渡る対決、遂に決着ッ!

―前回より―


「……その姿、もしかしなくても爆生ね?」

 そう問いかけるデーツの声色は、若干嬉しそうでもあった。

「バクセイだぁ?何だそりゃ?」

「あら、知らないの?ヴァーミンの保有者が、その異能にある程度順応することで至る、破殻化を超えた先にある高みの事よ。『爆ぜるように生まれたもの』……それが爆生」

「破殻化を超えた先……爆ぜるように生まれたもの、爆生……成る程、悪くねえな」

 右手をまじまじ見つめながら、繁は更に言う。

「お前がザトウムシ、俺がミズカマキリ……とすりゃ、爆生は象徴生物種とある程度近縁でなきゃならんっつーわけか」

「そうね。私達は節足動物が象徴だから、その制約は余計厳しいものとなるわ。あと素振りからしてもう爆生をある程度使ったことのある貴方ならわかるだろうけど、爆生になると新規で別の異能がつくの。ただその代わり、元々の異能は弱まってしまうのだけれどね」

「……随分と丁寧な説明だな……この期に及んで敵に塩を送るたぁ、屍術の使い手ってのはとんだ自信家なんだな」

「冗談よしなさいな、これでも小心者なのよ私は。第一屍術師の戦いは小手先口三味線だもの。それにこの程度が塩になるようなあなたじゃないでしょ?」

「リスペクトする価値もねぇクズ雑魚だってか?理解が早いな、ニッチなジャンルに傾倒してるヤツほど頭いいってジンクスはマジだったらしいな」

「どこのジンクスよそれ……そうじゃなくて職業病よ、職業病。研究者な上に魔術学校で非常勤講師もしてるから、敵相手でもやたらめったら色々喋っちゃう癖があるのよ。まぁ、時と場合と相手にもよるのだけど……っていうか、屍術ってそんなニッチと言うほどニッチでもないわよ?

あと、私は貴方を尊敬に値しない弱者だなんて言ってないし、そう思ってもないから。

まぁでも――」

 右側最前列の節足を持ち上げたデーツは、しばらくそれを投げ縄のように振り回しながら言う。

「―――私を殺さず仕留めるなんて事、あなたにはまず無理でしょうけどね?」


 振り回していた節足が切り離され細長い流体の紐となって繁に飛来、その身体に巻き付き溶融し素早く拘束。それと同時に切り離されたデーツの前脚は素早く再生していく。


「凄いでしょ?水棲系の家系に加えて魔術を馴染ませたお陰でべらぼうに高い柔軟性と再生能力が得られたわ。これなら半端な攻撃は通用しないから、貴方が私に勝つには頭蓋骨内部の臓器にダメージを与えて殺しきるしかない」

「おいおい、お前が死ぬのは明かなディスアドなんじゃねぇのか」

「普通に考えればね。でも妥協すれば案外そうでもないのよ?私の可愛い部下達にかかれば私の代理なんてわけないもの。それより問題は、あなたの動きをどうやって封じるかという事……この状況じゃ勘違いも無理はないけれど、ブランク・ディメンションの発動者は私じゃないのよ?私はあくまで発動者の許可を得て内部で主導権を握っているだけ……これがどういう意味なのか、貴方なら解るでしょ?」

「……つまり、お前の死(ノットイコール)異空間脱出って事だろ?その説明が確かなら、お前の意志が作用しているのは蜘蛛樹海だけだからな」

「御名答。つまりあなたは、私に倒されるかここに幽閉されたまま衰弱死するしかないってわけ」

「……勝ち逃げルート確保たぁ味な真似をしやがる」

 繁は再び身体に溶解液を這わせて拘束を突破すると、爆生を解除し姿を破殻化状態へと戻す。

「覆しようのない確定的な実力の差を埋めるにはこうするしか無かったのよ。言ったでしょ?屍術師の戦いは小手先口三味線だって。悪いけど、非難の類は受け付けないから」

「別に非難しようなんて思っちゃいねえよ。いいじゃねえか、小手先口三味線。俺もそんな感じだ。

ところでよ、チト聞いて良いか?」

「説明が塩送り云々言ってた癖に……」

「別にいいだろ?どうせ俺の敗北は決まってんだ。ワンサイドゲーで惨敗確定の相手に説明ってのは勝者の常、圧勝フラグだろうが」

「……最近サブカルに触れてなくて記憶曖昧だからその辺何とも言い難いけど……良いわよ。何を聞きたいの?」

「いやな……さっきお前、態々『貴方が』と言ったろ」

「言ったわねー。それが何か?」

「おゥ……つまりそれはよ、俺にはまず不可能だが、少なくとも何か一つぐれぇは、お前を生かしたまま倒す方法がある――って事なんじゃねえの?」


 最早諦めたといった風な態度で地面にあぐらを掻いて座り込んだ繁は、半ば投げ槍気味にそんな事を聞く。問われたデーツは『何だそんなどうでもいいことか』などと思いながら、せめてもの情けと敬意で質問に答える事にした。


「私を生かしたまま倒す方法なら、あるわよ。まぁ貴方にはまず不可能だけどね」

「ほう、そうかそうか。そりゃ何だ?是非教えてくれよ。冥土の土産って奴だ、地獄に持ってってムア真理求道会のゴミ共にでも話してやるさ」

 繁はかつてヤムタにて新興宗教団体を騙り好き勝手暴れ回ったテロ組織の名を口にした。

「あら、それはいいわね。奴らを潰したの、私達なのよ。もし教祖に出会ったらよろしく言っといて頂戴」

「覚えてたらな」

「よろしくね。それで、私を生かしたまま倒す方法だけど」

「おう」

「根本的には至って簡単でね、大きな音を出せばいいのよ」

「音、か」

「そう、音よ。具体的に数値を言うと140デシベルぐらいかしら。大型航空機のエンジン音や超大型に分類される竜種の咆哮を至近距離で聞くぐらいね」

「屋外コンサート用スピーカーばりだな」

「そうとも言えるわね。並大抵の打撃に耐えうる流体種の頭蓋骨も、そのぐらいの音を至近距離で聞かされると気絶して動けなくなっちゃうの。まぁ、私達水棲系だけの話かもしれないけどね」

「……そうか、よし分かった。礼を言うぜ、デーツ」

「いいのよ、気にしないで。私こそ、貴方とここで出会えたことを光栄に思うわ。本当に、あなたをここで始末するのが惜しいくらいに゛っ!?」


 その瞬間、赤いスライムから成るザトウムシの姿で佇むデーツの真上へ何やら緑色の液体が降り注いだ。それはデーツの白かクリーム色でツメダニ型をした頭蓋骨だけを残し、その他の赤い体組織だけを素早く、かつ的確に溶かし尽くした。仮にこれが並大抵の流体種ならば、動き回ることこそできるが死と隣り合わせの大変危険な状態である。

 しかし魔術によって驚異的な生命力と再生能力を得たデーツの勢いは頭蓋骨だけになった程度で衰えはせず、すぐさま体組織を修復させながら繁に立ち向かおうとする。


「何のつもりか知らないけど、殺しきらなかった事を後悔させっ!?」


 虫のような異形の外骨格に覆われた手が未だ体組織を修復しているデーツの頭蓋骨を鷲掴みにする。

 その手というのは確かに我らが主人公・辻原繁のものなのではあるが、その全貌を目の当たりにしたデーツは言葉を失った。


「んなっ……えぇ!?」


 その姿を文章で書き表すならば『二足歩行するアブラゼミが如しヒューマノイド』の一言に尽きた。

 紡錘形で寸胴のセミを原型とする為か首はなく、サシガメやミズカマキリに比べて広い肩幅や太い手足も相俟って重量感に溢れていた。

 デーツは修復した体組織で何とかアブラゼミの化け物と化した繁に立ち向かおうとするが、当人はそれを意に介さず頭蓋骨を両手で胸か腹の辺りへ抱え込む。

 そしてデーツの体組織が斗缶三杯分程にまで修復された、その時。


 恐ろしく地味で不愉快な―例えるなら、食用の油を鉄鍋で熱した際に跳ねて飛び散る音を更に鈍くしたような―聞くだけで精神疾患を発症しそうな程の騒音が、ブランク・ディメンション全体に大音量で響き渡った。


「―――ッが!?はひェ、っう゜ぁ゛――」


 約147.3デシベルにも及ぶ爆音をほぼ至近距離で頭蓋骨に受けたデーツは意識を失った。

 それと同時に爆生は強制解除され、蜘蛛樹海は音を立てて瓦解する。

 デーツの肉体は意識を失って尚自己の再生と修復を続け、次第に元の赤いヒトガタへと戻って行く。

 そしてそれを投げ捨てた繁もまた、爆生を解除しその場に座り込んだ。


「カメムシ目に騒音が出せねぇだぁ?寝言言ってんじゃねぇよ。ツメダニがザトウムシになるんなら、サシガメがセミになったところで何らおかしい事はねぇだろうが」

次回、デーツ達の正体が明らかに!

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