第百八十四話 吹っ飛ばせ!ニコラさん
攻撃を無力化する効果補正VS不老不死 未だ嘗て無い泥仕合の結末や如何に!?
―第百七十七話より―
聖職者や宗教者等に対するあらゆる攻撃を打ち消すという桁外れな効果を持つ異空間『聖霊の神殿』での戦いは、刻十と小樽兄妹の場合同様デーツ一味側のワンサイドゲーム(という名の泥仕合)になりつつあった。
ただ、こちらの場合はやられている側も実質的に無傷であるため、幾分かマシではあるのだが。
「消し飛べァ、ライトニングクラスタァァァァッ!」
ジランの雄叫びと共に広範囲へと打ち付ける青白い雷撃を、ニコラは狐の身体能力で素早く巧みに避け続ける。
続いてその隙を補うように飛んでくるアリサの攻撃魔術を弾いて打ち消すのは、彼女の手元に握られた黄金色の光から成る刃が特徴的な小刀『藪医者リリー』の役目である。
ある一定時間に限られたことではあるが『何物によっても防御・妨害されず必中する斬撃』を放つというインチキめいたほどに強力な隠しギミックを持つこの武器であったが、そのエネルギー源というものがまたとんでもない代物であった。
そのエネルギー源というのは、何と生命エネルギーである。というのも、この針を取り払ったシリンジにも似た奇妙な形状の武器は使う度に一々コストとして健康な生物体が内包する生命エネルギーを直接吸わせなければ武器としてマトモに機能さえしないのである。故に同封の取扱説明書には『普通に使っているとすぐに死にます。気合いで何か安全な運用方法を考えるか、死亡を前提にご使用下さい』などという文章が半ば投げ槍気味に赤字ででかでかと書かれている。
しかしそんな破格のデメリットも、元より不老不死であり無尽蔵の生命力を誇るニコラにとっては無いに等しいものである……が、そもそも九割九分以上の確立で使用者が死に至るような品を作ったばかりか、それを『面白い話と珍しいものを貰った礼』としてテロリスト紛いの破壊活動をしているラジオDJ(自称)に手渡しているカドム・イムはヒトとしてどうなのだろうか(作者のお前が言うなって?ごもっとも)。
かくして両者無傷のまま延々と続く泥仕合は、どちらかの気力が尽きて音を上げるまで明確な終わりなど見えないかに思われた。少なくともアリサとジランはそう思っており、いざとなればニコラをこの空間に閉じこめたまま戦線を離脱し作戦を練り直す気でいた。
しかし、対するニコラの方はそうでもないらしく、何やらこの状況を打破する秘策を持ち合わせているらしかった。
「(もし仮にアレが成功すれば一気に巻き返せる……成功するかどうかが問題っちゃあ問題だけど、『良策不実行より愚策実行』ってね。考えに考えてやれるだけの事をやるのなら、かなりアバウトな作戦でも上手く行くもんなのよ)」
打開策を打ち立てたニコラは、飛来する光の弾丸や雷撃を避けながら早速その準備を進めていく。
ひとまず藪医者リリーに吸わせたエネルギーを使い切って内部を空にすると、その内筒(注射器の内部にあるピストンのついたあれ)をゆっくりと限界まで引き出して一回転させた後、再び勢い良く押し込む。するとそれまで平坦だった藪医者リリーの先端部から長さ3cm程の細く鋭い針が現れる。
かくして準備を終えると、弾丸や雷撃をかいくぐりながら手頃な位置まで素早く逃げおおせ、瞬時に自身と相手の位置関係を掌握。藪医者リリーの注射筒を持って針を勢い良く自らの頸動脈に突き刺すと、出血を促進させるかのように力んでガムシャラに腕を振り回す。
***
「……ン?あの狐め、とうとうイカレやがったか?」
「よくわかりませんけど動きが止まったのは好都合です!このまま消し炭にして一気に追い詰めましょう!」
「合点承知!」
アリサの指示を受けたラジンは、両手首を合わせて手を開き体の前方に構え、腰付近に両手を持っていきながらエネルギーを集中させる。エネルギーが蓄積され巨大な青白い球体となった所で両手を完全に後ろに引きしぼり、叫ぶ。
「大雷球波、射出ッ!」
突き出された両掌から、青白い電力エネルギーが木の幹ほどに太い光線となって放たれ、動くのをやめたニコラ目掛けて一直線に飛んでいく。
***
しかし二人は気付いていなかった。ニコラはこの時既に、打開案たる技の発動準備を寸前まで整えていたのである。
確たる証拠は何よりも、首筋から引き抜かれたシリンジ型の武器・藪医者リリーの様子であろう。
特殊な手順を踏んで特殊な形態に移行したが為に規定量を遙かに超えた莫大な量の生命エネルギーを吸い取ったこの厄介な短刀は、今や全体から目映いばかりの黄金色の光を放っているのである。それは普段この武器の刃が放つ光と同質のものであり、内部に光源を内蔵しているのかと思えるほどの光を放っていた。
「……――h、っh、hっ……ぁー……」
藪医者リリーのコストに用いた結果、生命エネルギーが必要最低限の分量しか残されていない状態のニコラ。
しかし彼女はそれでも倒れることなく、僅かばかりのそれらを必死の思いで増幅させながら、尚も飛んでくる光線の根源を見据え続ける。
そして、約三十秒後。
再生能力により何とか持ち直したニコラは、光り輝く藪医者リリーを握り締めた右手を掲げ、腹の底からの大声で叫ぶ。
「喰らいな、この『暴発』を!
降臨しな、『傍迷惑神ヲー』!」
藪医者リリーは一層輝きを増し、そこから流れ出た光が収束。藪医者リリーが内包するエネルギー全てを解放し元の姿に戻った時、彼女の頭上には光によって成された黄金色の巨鳥が浮かんでいた。
とは言っても、浮かんでいた時間は僅か数秒足らずと極端に短く、巨鳥はニコラの意に反するかのような凄まじいスピードでただただ一直線に進み続ける。
莫大なエネルギーを持った巨鳥は、ジランの雷撃光線さえも無傷のままに打ち消してしまう。
「はァ゛ー!?何ンだありゃあ!?」
「ジランちゃんの大雷球波でも歯が立たないなんて……」
「畜生め!こうなりゃ仕方ねぇ!聖女、ここは一旦撤退しましょうぜ!戻ってシャラっちに頼みゃあ、充分奴を仕留められる!」
「そっ、それもそうですね!ちょっと待ってて下さいね、今入り口を――
開きますから。
そう言おうとした瞬間、傍迷惑神ヲーは二人のすぐ近くにあった石造りの神殿を盛大に破壊。二人の身体は大量の瓦礫に埋もれて下敷きになってしまった。
「『傍迷惑神ヲー』……か。説明書には『藪医者リリーが許容量超えのエネルギーを吸収した際に起こる暴発を何とか攻撃に転用可能な形に整えたもの』なんて書いてあったけど……まさかこれほどとはねぇ」
等とぼやきながら、ニコラは破殻化し瓦礫の撤去に移る。聞きたいことは山ほどある。まだ二人には生きていて貰わなければ困るのである。
「一応過去に取ったデータを参考に、ギリギリ死なないような崩れ方にしたつもりだけど……ま、死んでたら死んでたでまた別の作戦考えればいいわよねー」
その武器、まさに規格外!次回、獣VS母親の戦いに決着か!?
ついでに本編と同時進行で一周年企画も執筆中!