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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第百八十三話 双龍変





続いてお送りするのは小樽兄妹VS五真刻十戦!

―第百七十六話より―


「……っ……っけふ、ぁ……」


 ブランク・ディメンションの持つ貌が一つ『ブラッディ・コロセウム』での戦いは、刻十の一方的な圧勝(ワンサイドゲーム)として今まさに終わりを向かえようとしていた。

 余裕綽々といった様子で愛用の剣をほんの十数本ばかり(・・・・・・・・・)地面に突き刺し佇む刻十に対し、桃李は生傷だらけで闘技場の地面へと俯せに倒れ伏し、羽辰も度を超したダメージ故に妹の体内へ戻らざるを得なかった。

 天地ほどの差もあるこの状況、刻十が本気を出せば勝負が決着することは火を見るよりも明らかである。しかし彼はそんな状況にありながら、何やら不服そうな表情で佇んでいるばかり。攻撃をする意志などまるで無いかのようだった。


「……疑問だ」


 複雑な表情のまましゃがみ込んだ刻十は、暫し熟考してから口を開く。


「何故なんだ?何故君ら程のやり手が、こうもあっさり追い詰められるんだ?

僕の予想が確かなら、どちらが優位に立っていようともその身体はある程度負傷している筈なのに。

仮に僕がこうして無傷であったとすれば、君らだってそんな状態であるわけがないんだ。それがどうして……」


 等と、刻十は淡々と言葉を紡ぐ。


「まさか、フィールドのシステムに問題があったのか?この『ブラッディ・コロセウム』は最新型のVer.2.98……前のVer.2.989に更なる微調整を加えた筈だから問題点は無いはずなんだが……」


 刻十は広い闘技場の中一人で考え込みながら、『あれはどうだ』『こうじゃないのか』等とただただ自分の立てた仮説や考察をダラダラと述べては、それら全てを即座に否定するという不毛なループを繰り返す。

 その様は外野からすれば煩わしいことこの上なく、公衆の面前でこんな事を始めれば腫れ物扱いや白眼視は免れないだろう。現にこの場には二人ほど、話し手である刻十以外の『外野』たりえる者が居る。

 だがそれでも刻十は独り言をやめない。もし仮に『聞き手が瀕死=居ないも同じ』という認識であるならば、それはかなり問題のある考えなのではないか。

 確かに純然たる生物の肉体を持っている桃李は現在刻十の猛攻と『ブラッディ・コロセウム』の傍迷惑な機能の所為で死の淵に追い遣られており、恐らくは意識もなければ言葉を言葉として認識することも困難であろうから問題はあるまい。しかしそれは外野二人の片割れに過ぎず、存外立ち直りの早い二人目の外野の耳には、刻十の名話がしっかりと入ってしまっている。


「だがしかしやはりそうであるとなれば――『もうやめませんか、独り言のループは』


 延々と続く刻十の独り言にストップをかけたのは、妹の体内にて諸般の調子を整えながら機会を狙っていた羽辰であった。


「おや、居たのかい。てっきり誤って変な点か何か突いて消滅してしまったかとも思ったのだが」

『……居ましたよ。というか何です、変な点って?素敵な眼鏡もかけていなければ、お洒落な赤いジャケットも着てない癖に』

「いや何、不可視であっても内包された物体の死がそこに存在することは確かだろう?

だったら何かの拍子にそこを刺し貫いてしまうかもしれないじゃないか」

『そんな馬鹿げたことがあってたまりますか、全く。というかあなた、何でそんなに色々な考察が出来ながら「単に相手が弱いだけ」とかそういうのが出てこないんです?』

「あぁ、失念していた。相手を弱く見るのはどうも性に合わなくてね……それで、どうしたんだい?

僕の独り言ループを阻止した挙げ句、君の本体であろうそこの彼女が倒れている状況で僕の前に姿を現すとは……君一人で僕とやり合う気かい?先程君がくれた意見も参考にして考えると、君自身の単純な戦闘能力はさほど高くないように思えるのだが……」

『……ほう、言うようになりましたな』

 羽辰は妹の足下辺りに落ちている小型の赤い鎌『ソレイユ』を拾い上げ、自らの手元より青い分銅『リュヌ』を取り出しながら言う。

『確かに。防御や機動力云々に関してならば兎も角として、私自身の総合的な戦闘能力は世辞にも高いとは言い難いでしょう。極論を言えば、私単体でならチーム最弱と言っても過言ではない』

 桃李の体内より完全に離脱した羽辰は、ソレイユとリュヌの末端同士を連結し一つの鎖鎌を(こしら)える。

『しかし、それもその筈でしてね。私は生を受ける以前より彼女の―我が掛け替えのない妹の補助システムとして存在すると決めていたのですよ』

「補助システム?」

『そう。万物は大きく分けて「補助物」と「被補助物」に分けられる……定義は極めて曖昧ですがね。そして私はこの二つの内「補助するもの」でありたいのですよ。例えるならば、太陽に対する月のようにね。しかし、思うのです』

「へぇ、中々にいい台詞じゃないか。感動的であり、更に有意味でもある……それで、しかし何を思うんだい?」

『はい。しかし私は思うのです。私は「補助物」のままで良いのかと。ただ補助するだけの存在で良いのか。被補助物と肩を並べて共に戦い、時として守りきるだけの力が必要なのではないか……とね』


 言い終わると同時に、羽辰は左手でソレイユの柄を掴み、右手でリュヌの分銅を握り締める。


『そして長きに渡り私の中にあったその疑問の答えを、つい先程に漸く見出せましてね』


 目を見開いた羽辰は、そのまま一つとなった武器の両端を持った手を身体の前で交差させるような構えを取る。直後、分銅と鎌は羽辰の手の内で光を発しながら溶解する。溶解した二つの武器は羽辰の手元から体内へと流れ込んでいく。その目映い光は刻十の視界を奪い、思わず彼は手元から剣を取り落とす。


『これで漸く、兄としての役目を果たせる……』


 嬉しそうにそう言う羽辰の身体が、徐々に内部から発光していく。

その色は赤みがかった山吹色と青みがかった藤色という二色ではっきりと分かれており、それと同時に身体の形状も形を大きく変えていく。


 そして光が消え失せたとき、羽辰の身体は金属のような質感の外骨格を持つ異形へと変じていた。

 その姿を一言で言い表すならば『赤いトンボと青いタツノオトシゴを出鱈目に混ぜ合わせてヒト型に整えたよう』といった所だろうか。

 頭は一見トンボのようだが、口にあたる部位からは細長い管状をしたタツノオトシゴの口が伸びていたし、側頭部からは小さな胸鰭が生えている。

 背には二対の羽があり、うち前側の一対は魚の鰭に似ている。手足の形状も独特で、赤いトンボの節足にヒューマノイド的なアレンジを加えたような右腕と左足に対し、左腕と右足は青く細長いタツノオトシゴの尾という有様であった。


「……凄いなぁ、まさか君の正体がそんな怪物だっただなんて」

『怪物、ですか。確かに、この姿を言い表すならばこれ以上ない適切な語句ですねぇ。

しかしこれが私の真の姿、というわけではありませんよ。これはあくまで後天的に獲得した……そう、隠しコスチュームみたいなものです』

「隠し……コスチューム、だって?」

『えぇ。あなたの武器と比べると少々見劣りしますがね、中々に優秀でして―――ほら』


 直後、管状の口先から謎のエネルギーで象られた黄金色の球体が飛び出した。

 凄まじい速度で飛来した球体は、反撃どころか回避したり喋る隙さえも与えずに刻十の身体を直撃。爆発も燃焼も起こさず、その身体にダメージだけを叩き込む。


「――――……そんな――……―馬鹿な……」


 意識が遠のく中、辛うじて言葉をくちにしながら倒れ込む刻十に、羽辰は元の姿に戻りつつ嘲るように言う。


『おやおや、一撃でしたか。これは「中々」というのを「かなり」に訂正する必要があるかもしれませんねぇ。何、心配は要りません。意識ぐらいならものの数分で回復しますのでね。そうなったら吐いて貰いますよ、この空間の詳細から、あなたがたの目的まで……洗いざらいにね』


 そして、手元に戻ったリュヌの分銅を倒れた刻十に巻き付けながら、羽辰は妹の方へと向き直り優しく言う。


『大丈夫ですよ、桃李。早さの余った馬は私が生け捕りにしましたからね。ついでに生命力も分けて貰いましょう。いずれこの血生臭い闘技場からもおさらばです』

次回、あの女が壮絶な泥仕合に終止符を打つ!

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