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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
175/450

第百七十五話 私の武器に何か居た件について




奇妙な空間へ飛ばされた繁達だったが……

―果て―


「―――」


 女の子の声がした。私より若いであろう、女の子の声が。

 それは凛々しさの中に幼さの残る、美しい声だった。


「――スター――よ――」


 よく聞き取れないけれど、どうやら声の主は繰り返し誰かを呼んでいるらしい。

 耳を澄ますたび、その声は次第にはっきりと聞こえるようになっていく。


「――マスター。お目覚め下さい、我が主よ――」


 どうやら彼女の呼び声は、彼女の主―つまりは、上司か何かに向けられたもののようだ。

 でもきっと、彼女の主というのは私ではない別の誰かだろう。私には関係ない。このまま気の向くまま眠り続けていよう。どうせ生放送はまだ先だろうし、今はどうにもややこしい別件もあるわけで。

 だったらここは寝るしかないなぁ、なんて思っていると、不意に先程の女の子が私の身体を揺さぶりだした。


「マスター、起きて下さい。何をこんな所で寝転がっているのです、マスター!」


 ……どうしよう。悪い予感が的中してしまった。

 見ず知らずの女の子が寝室に入ってきた(それか、夢の中での出来事かも知れないけれど)上に、勝手にその子のマスターとやらに仕立て上げられてしまう(または、そうだと勘違いされてしまう)なんて、そんなライトノベル的シチュエーション、メインヒロイン(笑)の私が出会していいものでは談じてない筈なのに。


 ともかく、いまはこの状況を打開しなきゃどうしようもないと思い起き上がった私は、辺りの光景を見て絶句した。


「――え?」


 私――清水香織の視界に広がっていたのは、ただただ真っ白な、何もないような空間だった。

 そこにただ二人―私と、見た感じ15~17歳くらいの尖耳種(肌の色や顔つきからしてコーカソイドっぽい美人な)細身の女の子だけが居た。


「おぉ、マスター。ようやくお目覚めですか」


 絶句する私を尻目に、女の子は勝手に話を進めていく。

 ……どうやら私は、とんでもない事態に巻き込まれてしまったらしい。


―前回より―


「消失?」

「はい。ノックをしても反応がありませんでしたので、合鍵で中に入り安否確認を試みたのですが、皆様の姿は悉く消え去っていました」

「抜け出したんじゃないんですか?何かあの人達、どこかに攻め込むとか言ってましたし」

「現場検証を行いましたが、それらしい痕跡は見当たりませんでした」

「それはそうね。あれが何の報告も無しに外へ出るって事自体有り得ないわよ。大衆からどう思われていようと奴らは犯罪者。筋者ならまだしも、堅気と手を組もうなんて思うのがそもそも普通じゃないの。

それがあそこまで一般人面をしておきながら、今更犯罪者らしくしようなんて考えると思うの?」

「それはそうですけど」

「第一、辻原はあれでいて無駄に礼儀正しくて律儀なの。正直、不気味なくらいにね。

どういう訳か連日寸分も違わない時刻に挨拶しに来るし、外出する時には必ず私にその旨を伝えに来るわ。まるで積極的に友好的な関係を持ちたがっているかのように……」

「特別に後ろめたい事情があったんじゃないですかね」

「堅気の前で堂々と殺人計画を練るような男に後ろめたい事なんてあるのかしらね。

あるとしたら、そうね……よっぽど他人に知られたくないプライベートな事情か、そうでなければ国家レベルの最高機密情報じゃないかしらね」


―同時刻・果て―


「なるほど。つまりあなたは私の持ってるこの『何か凄いアンクレット』の九十九神みたいなものなのね」

「本来はブレスレットなのですが……それと私は神などではなく精霊です」

「精霊?」

「はい。私めは貴女様の武器『列王の輪』を為す片割れ『真鍮の勇気』に宿りし七精霊が筆頭、アルトゥーロ・スパーダと申します。以後お見知りおきを」

「アルトゥーロ……良い名前じゃない。打ち込み辛いのが難点だけど」

「御用の際は何なりとお申し付け下さい。マスターへの祝儀を貫くことこそ、我ら『列王十四精霊』の使命であります故……」


 香織が頷くと同時に、アルトゥーロは右脚の輪の上半分を構成する黄金色の部分へ吸い込まれるように消えていった。


「列王十四精霊ねぇ……なんかまた、変な同居人が増えちゃったなぁ……」


 等と感慨に耽る香織であったが、ここでふと重要なことを思い出す。


「って、そういえばここどこなんだっけ?まぁ魔術で創った異空間なんだろうけど、こんな大がかりで面倒臭い型を発動するなんて……一体何処の誰が何の為に――っ!?」


 香織の足下を掠める、電光を纏った白いレーザー光線。

 魔術によるものであろうそれの派生源を瞬時に見抜いた彼女は身構えながら障壁を展開、同時に辺りを見渡し、レーザー光線の派生源を見極めんとする。

 更にこの時香織はまだ気付いていなかったが、レーザー光線によって穿たれた底面には焦げ付きのようなものがあり、それを起点に空間を構成する"白"が次第に崩れ始めていた。


「(参ったなぁ……この空間が何なのか、その本質が解らない以上ソワールが成功するとは限らないし、かと言って弾だけで凌ぐのも不安だし――

「ごきげんよう」

「!?」


 刹那、背後で何物かの声がした。身の危険を察知した香織は咄嗟に自作の擬似縮地で距離を取る。


 そして、僅かばかりの沈黙。


「その魔術の腕前……ツジラ一味が参謀・青色薬剤師様とお見受け致しますわ」

 姿を隠したまま、声の主が言った。

「確かに私が青色薬剤師だけど、その参謀って認識には語弊があるかなぁ……まぁ良いけどね。

そもそもそんな事より、私の方はあんたに聞きたいことが山ほどあるんだよね」

「と、言いますと――


 等と声の主が無難に返そうとした、その時。


「――『distruggere(はかいせよ)』――」


 香織の口から発せられた幽かな一言の、その直後――爆風にも似た波動が巻き起こり、崩れつつあった空間の"白"と、声の主を覆い隠していた擬態の魔術とを一斉に吹き飛ばした。

 一面に広がるのは、周囲を森林に囲まれた石造りの巨大都市。各所に魔術的な要素のものが飛び交うそれの中央にそびえる巨塔の頂上に、二人は立っていた。


「――だからさ、細かいこと抜きにしてさっさと色々吐いて貰わなきゃ困るんだけど……って、あんた有鱗種だったんだ? しかも蛇系タウルで単眼って、中々にコアなデザインねぇ。属性過剰って奴?」

 等という香織の発言から察せようが、彼女の眼前に佇む女とはつまり、デーツ一味が一人・生一花音であった。快晴の青空の下、彼女の黒い鱗は黒曜石のような輝かしい光沢を放っていた。

「その発言、場合によっては形質侮辱罪で訴えられますわよ。まぁ、私はそこまで狭量な蛇ではありませんけれど」

「あぁ、ごめんね? なんかこう、得も言われぬ美しさっていうの? それがあったからつい」

「初対面の相手に美しいなんて言われたのは二度目ですわ。

それで、私は何を吐けばよろしいんですの? ネズミ? カエル? 小鳥? 子豚?」

「いらないよそんなの。まさかとは思うけど、蛇系有鱗種の間では胃袋の中身を交換し合う作法があったりするわけ?」

「あるわけがないでしょう」

「だよね。で、冗談もこの辺にしてそろそろ――

「お断りですわ」

「まだ何も言ってないのに」

「言われなくともわかります。どうせ『この空間は何なのか?』『何故自分はこんな所に居るのか?』『お前は何者で、何が目的か?』なんてお聞きになるのでしょう?」

「よくわかったねぇ。もしかして読心の魔術とか得意な方?」

「……態々そんな七面倒臭いもの使わなくても解りますわよ」

「そうか……私ってそんなに解りやすい奴だったのね、これは新発見だわー」

「何を勝手に自己完結してるんですの」

「兎も角さ」

「聞いて下さいな」

「とりあえず洗いざらい吐いてくれない? っていうか出口教えて」

「……貴女ねぇ、自分の置かれてる状況理解してらっしゃいますの?」

「一応。ここが異空間で、あなたが敵―それもかなりの火力・出力偏重型の砲台魔術師だって事くらいはね」

「……そこまで理解出来ているのなら何故そんな質問を……」

「いやぁ、面倒臭くって」

「……そうですの……解りました。あなたの要求、謹んで飲ませて頂きます」

「え、良いの?それじゃ早速――

「但し」

「(…やっぱり条件付きか…)」

「貴女様がこの私に、見事勝つことが出来ればの話ですけれど」

「だよね。何となく予想はついてたよ。しかし面倒だなぁ……私ってホラ、攻撃系魔術一切使えないじゃん?あー、何かやばいなー。これ死ぬかもー」

「絶対困ってないでしょう、貴女……」

「いや、そうでもないよ? 駄肉的にアレされるかもだし、もしかしたら投げから十割とか普通にもってかれるかも」

「何を言ってるんですか……」

「それが解れば苦労はないわよきっと。あー、っていうかあんた名前は?」

「そういえば名乗り忘れていましたわ。では改めて……」


 畏まった態度で構えた花音は、ゆったりとした動きで優雅に名乗りを上げる。


「デーツ・イスハクルが一の臣下……『逆巻く被虐の快』こと、生一花音と申します。以後、お見知りおきを」

香織が手にしたのは、新たなる力への伏線。

次回、同じく謎の空間へ挑む桃李と羽辰の眼前に現れたのは……?

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