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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第百七十一話 有資格者トウリの負傷


明らかになる衝撃の真実!

―前回より―


 大臣達が一斉に怪死したとの報道は、型月(シンユエ)で作戦を練り続けている繁達の元にも入って来てはいた。

 しかし、出会いを重ねる内に8人という大人数にまで脹れ上がっていた事もあってか敵の人数などさして気にしなくなっていた繁達にとって、その情報はただただ無意味なものでしかない。

 まして老いさらばえて何もかもが衰えてしまった真宝の老害達の生死について認識する必要性など、毛ほどもないというのが彼らの見解であった。


 しかし、だからといって新聞から重要な情報が得られなかったというわけではない。

 寧ろその報道記事は、二人の地球人にとんでもない情報をもたらすこととなった。


―朝方の十日町邸―


 繁達はその日も相変わらず好き勝手バラバラに動いていた。

 起床時間もバラバラなら、食事やその後の動向なども異なってくる。当然、全員揃って仲良く朝食などという微笑ましい風景が拝めるはずもない。その全体的な雰囲気を例えるならば、『ルームシェアリングでそれぞれ協力し合いながらも基本は好き勝手に過ごす大学生』といった感じであろう(そんな綺麗なもんじゃないだろうとか思ったそこのあなた、その考えは捨てずに取っておくと良いぞ)。

「新聞……昨日のか」

 珍しく早起きした繁は、ふと床に昨日の朝刊が転がっているのを見付けた。

 一般家庭ならまだしも、広大でありながら整理整頓の行き届いたこの邸宅で新聞が雑然と転がっているなど、普通は考えがたい事実であった。

「何か役立つ情報が載ってるかもしれねぇ……ちょっと覗いてみるか」

 ばさりと新聞を広げた繁の目に飛び込んできたのは、三面の下あたりにそこそこ大きなフォントで書かれた記事だった。

「……『真宝政府要人集団怪死、新手の感染症流行の危険性』……。

なるほど、またアホ貴族共が死んだってか。結構な話じゃねぇの、あんな耐久力空気抵抗以下の連中なんざ幾ら居ようと同じだが、それでも死んだとなりゃ気分が良い。しかも死んだのは年寄りばかり……となりゃ飛姫種のガキは生きてる可能性が――ん?」


 記事を読み進めていた繁の目が、ある箇所で止まった。


「何だこの名前は……見間違いか? いや待て……型月が日本なら真宝は北朝鮮だ。

となりゃ、幾ら周囲と関係を断ち切った独裁国家だろうがその首脳の名前くらいは晒されてる筈……だがこんな名前、真宝の公式サイトにあったか?いや、あそこは平仮名だらけで読む気が失せたんだった……クソ、ニュースどころかテレビさえロクに見てなかったツケが回ってきたってか。だがそうだとして、何故奴がこんな所に? 奴は確かに、高校時代始末したはず。そもそも仮に表立って動き回れたとして、何故こんな所に……いや待て、同姓同名の別人って事も――

「無いよ」

「!?」


 背後から声をかけられ振り返ると、そこには今だパジャマ姿の香織が佇んでいた。


「か、香織か……」

「ごめんね、驚かせちゃった?」

「いや、この記事に比べりゃ些細なもんだ。で、どういう事だ? この真宝政府の役人で唯一生き残った法務大臣(・・・・)ってのはやっぱり……」

「そう、あいつよ。ニュースで名前聞いた時、もしかしてとは思ってたんだけどね。ネットで画像検索して確信したわ」

「何つー事だ……ネタにしたって笑えねぇ」

「でもそう考えると色々納得がいくじゃない?私達みたいに何かの異能に目覚める可能性はあるだろうし、あいつなら私利私欲の為にあそこまでやったって何らおかしくないし……俄かには信じがたいことだけどね」

「冗談抜きで信じられねぇよなぁ……まさかあんな奴とまたやり合う羽目になるなんてよ……。

なぁ腐れ変態似非紳士……どうしてお前はそう目障りなんだ?

おめーのゲスで儚ェ願望なんざ、どうせ打ち砕かれるのが世の常だってのにな。

良いぜ……こんな所に来てまで立ち上がろうってんなら、改めて教えてやるまでだ……」

「教えてやるって、あの男じゃ私達には一生勝てないって事を?」

「それもあるが、本旨は『どう足掻いてもロリコンに勝ち目はねえ』って事だ。

いや、語弊があるな……厳密には『腐ったロリコンは何しようが底辺でしかねぇ』だ」


 繁は思い返す。かつて地球で平和に暮らしていたあの日々を。定期考査の成績に怯えながら、自分なりの青春を謳歌し――そして、愛や敬意の名の下に、影で独善と邪知暴虐の限りを尽くした、あの日々を。


 町中の悪漢を『友のため』に病院送りにし、学校側に暴言を吐く父兄を『学校のためだ』という理由で破産させ、暴れ者の不良生徒を『平和維持の為の尊い犠牲』だとして半殺しの憂き目に逢わせ、自分を信じてくれた女子がいじめを受けていると知れば『恩義』の為にその中枢を自殺に追い込んだ、そんな日々を。


 繁は俯きながら、何処か楽しげな表情で呟いた。


「なぁ、樋野よ。覚悟しとけ……次は本気で殺しに行くぜ。

おめーが何度でも起き上がるダルマだってんなら、俺はナタか斧にでもなって、おめーが起き上がれなくなるまで叩き割ってやる……干涸らびて尚、吸い尽くす迄……」


 繁はさっと立ち上がり、手に持っていた新聞を折りたたんでベッドの上に投げ捨てる。


「さて。そうと決まりゃ、早速台本書くか」

「じゃあ投書の仕分けとか手伝うよ」

「有り難うな、お前には何時も世話になりっぱなしで――

「辻原様、辻原様っ! ご無事ですか!?」


 ドアを蹴破るように部屋の中へ入ってきたのは、定期的に家内の巡回を任されている使用人の男だった。


「どうしました? 何か問題でも?」

「おぉ、お二人ともご無事でしたか!」

「私達は見ての通り無事ですけど、一体何があったんです?」

「詳しい話は後回しです! 兎に角二階西端の部屋(・・・・・・・)へお急ぎ下さい!」

「二階西端……って、まさか……」

「奇遇だな。俺も今同じような事を思い浮かべた……兎も角急ぐぞ」


 かくして使用人の案内で二階西端の部屋に通じる通路へ辿り着いた二人がまず目にしたのは、壁にもたれかかったまま血染めの腹部を必至で押さえつけている桃李の姿であった。

 その傍らでは兄・羽辰や使用人達が、心配そうな面持ちで彼女を見張り続けている。


「どうした? 一体何があった? おい桃李、しっかりしろ!」

「ぅ……ぁ……」

 余程傷が深いのか、桃李は喋ることさえままならない。

「桃李さん!? 一体何があったの!? その傷、誰に……羽辰さん、これは一体……」

 香織の問いかけに、羽辰は一切表情を崩さぬまま淡々と答える。

『正直なところ私にも未だよく理解出来ていないのですが、断定的に説明出来る事柄なら四つほど。

第一に、桃李は深手を負っており、今や瀕死の重体であるという事。

第二に、ニコラさんと春樹さんは使用人様数名を引き連れ桃李の治療に必要な薬品や器具を揃えに外部へ出払っているという事です』

「そうか。立場上公的機関に頼るのは危険だからな」

『そういう事です。

そして第三に、リューラさん達は向こうの部屋で、ある騒動の鎮圧に向かっているという事もあります』

「騒動?」

『はい。柔術の有段者である他、魔術もお得意だという事で、ご令嬢もリューラさん達の加勢に向かっておられるとの事。そして第四に、これはお二人も既にお気づきかもしれませんが、一応念のために言っておきます』



 軽い深呼吸の後、羽辰は一拍置いて冷静に告げた。



『その騒動の根源が、璃桜さんであるという事です』

桃李、負傷!次回、作者としては今一影薄い気もしていた羽辰が、喋りに喋る!

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