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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
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第十七話 飛翔王女と害虫男




繁とオップス大佐が飛ばされたのは……

―前回より―


 地面に吸い込まれたオップス大佐と繁が吐き出されたのは、王族家三名が避難に用いている、強固な外壁と高度な防護魔術によって守られた礼拝室の中であった。

 突如現れた異質な二人に、驚き取り乱す王家の面々。

「な、何だ貴様は!?一体何が目的だ!?」

 オップス大佐の着ていた軍服に見覚えのあった国王エスティ・アイトラスは、彼が軍関係者―それも位の高い将校だと覚り安堵し、見慣れぬ服装の繁へ強気に問いかけた。

「おぉ、これはこれはエスティ・アイトラス国王陛下。お初にお目に掛かります。私、ラジオDJをやる事になりましたツジラ・バグテイルと申します。本日は我が『ツジラジ』の企画にて、このジュルノブル城を訪れた次第」

「企画……貴様等と我が城の兵達が戦うという、つまらん手合わせの事か?」

「その通りで御座います。ただ違うのは、城の兵達という点ですがね……」

「どういう事だ?」

「即ち……こういう事ですよ」

 繁はマスクに仕組まれたノズルを前方に向けると、大きく反り返る。

「ぷしっ」

 拍子抜けするような音と共に放たれた緑色の巨大な塊は、放物線を描いて飛んでいく。四人が呆気に取られている中、その塊は女王・イルズの元へ飛んでいき、彼女の頭部を、消滅させた。


「ッ…お母様ぁぁぁ!」

「イルズゥゥゥ!!貴様……よくも妻を!!」

「落ち着いてください国王陛下!失礼ながらあの男、ただ者ではありません!」

 騒ぎ立てる三人を尻目に、繁は淡々と言ってのける。

「イルズ・アイトラス……旧姓をミドツェーモ。聞き込みをしたが正直悪い話ばかりだったな。元は辺境の弱小貴族の家に生まれるも実家が没落。その後偶然出会ったエスティに見初められ、結婚。その後夫により政治の才能を見出され、政治主導権を獲得」

 繁が城や町中で集めた話は、アイトラス家の歴史を如実に物語っていた。

しかし問題は、その次からであった。

「主導権を握った後のルタマルスは、強権的な政治に悩まされることとなる。エクスーシア程じゃ無いが、国家予算を半ば私物化したアイトラス家の政治は酷いもんだった。家族揃っての世界一周旅行に大陸内貴族限定の社交パーティの定期開催等々、国家予算の1/3を使い込み、不足分補充の為に月単位の増税。かと思えば余った予算を使い切る為無差別な道路工事やバラマキ政策を決行……。それでアンチが沸かないなんて有り得ないというのに、王家批判派に間接的圧力をかけることでその勢力を削ろうとする姿勢は実に気に食わん。そもそもこの女は自分の娘が飛姫種であるのを鼻にかけて方々で好き勝手やる事も――」

 繁の頭の真横を、青い光線が通り過ぎた。見れば光線を放ったのはセシルであるらしく、彼女が身に纏っていたドレスはいつの間にか消え失せ、ドレスのような意匠の目立つ青い鎧のようなものを身に纏い、右手にはライフルを構えていた。

「プリンキピサ・サブマか……」

 厄介なことになったな、と繁は思った。

 PSことプリンキピサ・サブマは、扱うに値する飛姫種共々各大陸がこぞって欲しがるだけに、インチキとしか思えないような機能が目白押しである。

先ず、普段は小物などに擬態しており、傍目から見ただけでその存在を察知するのは困難であるという点。

 次に、何も存在しないはずの虚空から、使い手専用の武器を取り出し自由自在に扱うという機能。

 更に、取り出された武器が刃物であるなら折れもせず刃こぼれもせず、銃砲ならば弾数に制限が無いという事。

 そして最も重要なのが、飛行能力。何とも複雑な形状をしている癖に、それでいて平然と空を飛んだりする。

 こんな性能故、繁にとってPSを起動した飛姫種は非常に相性の悪い相手であった。しかし繁はそれでも尚諦めず、能力と奇策を以て性能の差を埋めようと思考を巡らせる。

「……お父様、この害虫めを駆除してもよろしいかしら?」

「あぁ、存分にやるがよいぞ。我が愛娘セシルよ」

「はい。では……遠慮無く殺らせて頂きますわ。覚悟なさい、この汚らわしい害虫!」

 気取った口調でそう吐き捨てたセシルは早速ライフルを構え直し、繁を狙い撃つ。

 しかしヴァーミンの力に馴染みつつある繁にとって、直線的な射撃を避ける事など容易い。青い光線のような弾丸は繁に当たることなく、全てが礼拝堂の床や壁や柱に大穴を開け、テーブルや花瓶や宗教画を粉砕していく。

 そして弾を外す度に父親のエスティは激しく怒り狂い、親が言うには些か相応しくないような言葉で娘を口汚く罵り続ける。

 例え実の父親によるものであろうと、『ノロマ』だの『役立たず』だのと罵られていれば、怒らない方が変である。事実、産まれながらにして頂点として育てられ、唯我独尊たる思想の元に全てを踏み台に生きてきたセシルにとって、父による罵倒の数々は本来我を忘れる程激昂するに値する程のものであった。

 しかしセシルは考える。自尊心と慢心故に世の何よりも優れていると影ながら自負している己の頭脳で。

 普段の自身は、周囲に対して「高貴で優雅、かつ淑やかな才女」というイメージがまかり通っている。それだというのに、彼女自身からすれば尻拭き紙ほどの価値しかないような軍人や、それ以下のゴミである害虫男の手前、そういったイメージを崩すのはかなり都合が悪い。

 この二人を殺してしまえばその点は解決だが、問題点はまだある。

 それは、恐らくこの部屋での音声が今もこうしてカタル・ティゾル全土に流れているであろうという事であり、ともすれば自分の発言が全てのカタル・ティゾル民に筒抜けという結果になるのは確実。

 只でさえ王政反対派・王家批判派の勢いが強まりつつある昨今にあって、更なるイメージダウンの発生は、自分の生涯に於いて致命傷となるだろう。

そう考えれば、ここはひとまず冷静に取り繕っておくのが妥当だろうと、セシルは考えた。

 自身のPS『アスル・ミラグロ(青の奇跡)』にはライフル以外にも機関銃や誘導弾等多数の武器が搭載されているが、礼拝堂内の品々を破壊しては余計親子関係に拗れが生じてしまう。

 となると最早、結論はただ一つに限られていた。


「(ここはひとまず……必要最低限の動作であの男を始末……そうすれば私は、城の兵達を救ったヒーローとして一躍有名人ですわ…)」


 しかし彼女がそう思った瞬間、繁はその視野から消え失せていた。

そしてそれと同時に、背後へこれ以上にない程の不快感を感じ、慌てて振り返る。

 すると彼女の背後には、やはり辻原が浮いていた。


繁VSセシル、最終局面へ!

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